29 裸体の拳闘士
試験は5日後だ。
受験するマイアルとセーナはその間、魔法の鍛錬に精を出すとして、俺は完全に暇人だな。
なので、聖都中央闘技場に足を運んでみた。
ベルトンヒルの闘技場も活気があったが、聖都は段違いだった。
超満員の観客が暴動みたいに歓声を上げている。
運良く最前列の席を取れたので、じっくり楽しむことにした。
入場料はケツゲ持ちなのも素晴らしいところだ。
「ぐあああああ……ッ」
さっそく槍使いが宙を舞った。
続いて、弓使いが頭をカチ割られ、魔術師が大根みたいに地面にめり込む。
多人数で乱戦をしているらしい。
ただ、一人だけめちゃめちゃ強い奴がいるせいで、多対一の構図になっている。
「とぅ――ッ!!」
そいつは、地面を蹴って空へ高々と舞い上がった。
俺は猛烈な懐かしさに襲われていた。
大の字になって空を駆ける一人の大男。
見覚えがある。
裸マントにブーメランパンツを合わせた筋骨隆々の覆面男だ。
忘れるほうが難しいだろう。
「我輩チョー強い神拳奥義ッ!!」
そいつは、観客の視線を独り占めしつつ隕石みたいに落ちていった。
「――『漢彗星』ッ!!」
どーん、と土煙が上がる。
闘技場全体が震度3くらいで揺れた。
土煙が晴れたとき、他の戦士たちは軒並み伸びていた。
ムキムキの裸体をクネクネさせながら、男は一本指で天を突き上げて、
「我輩はフフハハハッ! ストロンガノフ1世であーる! 最強のフフ! 拳闘士を目指す漢であーる! 強者どもと相まみえんがために聖都に馳せ参じたものなり! フフフ、グハハハハハ!」
懐かしくて思わず、おおっ! となった。
昔、ベルトンヒルの闘技場にも出場していた個性派拳闘士だ。
裸一貫でどんな敵にも立ち向かっていくから、ファンも多かったんだよな。
俺も推している一人だ。
強敵を求めて聖翔国を漫遊していると聞いていたが、まさか聖都で再会できるとは。
胸が熱くなるな!
「ひ、ひぃ……」
「ふふーむ! まだ一人残っておったか! フフハハハハ! ――フン!」
アッパースイング炸裂。
残った戦士は空高く打ち上げられて、……あ。
こっちに落ちてくる。
ドガッ、と戦士が落下した。
「とぅ――ッ!!」
追い打ちをかけるように、ストロンガノフが跳躍する。
そういえば、観客も平気で巻き込むクレイジーな奴だったな。
戦士のそばには逃げ遅れた子供がいる。
「我輩チョー強い神拳奥義――ッ!」
ストロンガノフはお構いなしだった。
「――『破壊流星拳』ッ!!」
目の前で爆発が起きた気分だった。
受け止めた俺の腕がミシミシと唸る。
良質なミルクを飲んで育たなかったら、骨が折れていたかもしれない。
「はて?」
シュタッ、と着地したストロンガノフは大きな頭を左にかしげた。
近くで見ると本当にでかいな……。
身長、余裕の2メーター超えだ。
胸板なんて城壁みたいに厚いし。
「驚きましたな。この我輩の拳撃を素手で、それも片手で受け止めるとは」
巨大な顔面がヌゥッ、と近づいてきた。
こっわ。
「貴殿のパワーを讃え、パワーマン殿と呼ばせてもらうとしよう! フフフ、グハハハハハ!」
なんか変なニックネームを付けられたのだが。
「さらばだ、強き者よ!! とぅ――ッ!!」
ストロンガノフは闘技場の端までひとっ跳びすると、大歓声に手を振りながら去っていった。
推しに触っちゃった。
俺うれしい……。
◇
午後はシーバの散歩に付き合ってやる。
こいつ、猫なのに散歩したがるからな。
三つ子の魂は百までらしいが、犬の魂は来世でも健在だ。
市場でペットグッズを扱う露店を見つけた。
「きゅん! きゅぃぃん!」
首輪を見つめて、シーバはしきりに甘え声を上げている。
「霊体化すると外れちゃうしなぁ」
実体がなくなると、身につけている衣服は脱げてしまうのだ。
「きゅぅぅん……」
つぶらな瞳が一心に俺を見つめている。
うん、何か買ってやりたい。
商品を物色していると、変わった肌触りのスカーフを見つけた。
鑑定っと。
「……鳳霊龍の毛皮か」
霊体化できる龍の素材だから、これならシーバにうってつけだな。
「きゅぃぃ――っ!」
シーバも尻尾を扇風機にして喜んでいる。
よし、買いだな。
ものすごい値段だったが、どこぞの豚が払ってくれるだろう。
首に巻いてやると、シーバはライオンにでもなったかのように誇らしげに胸を張った。
喜んでくれてなによりだ。
「さあ! ミト様をお探ししますよぅ!」
「シロン、あなたは匂いで捜しなさい! 私は暗黒魔法で探すから!」
「お兄の匂い好きだからすぐ見つけられそう」
うん?
なんだか聞き覚えのある声が……。
振り返ると、ミルカとクロエとシロンがいて、目が合った。
「「「あっ!」」」
「えっ」
「きゅい?」
「ミト様ぁ――っ!!」
「お兄様!!」
「お兄ぃー」
勢いよく抱きついてきた。
一瞬まぼろしかと思った。
でも、触れるし、実体があるな。
「なんでお前たちがここにいるんだ!?」
「寂しかったので会いに来ましたぁ!」
ミルカが俺の胸に頬ずりしながら言う。
角があたって痛い。
「私もお兄様のそばにいたくて、馬を使い潰してまで聖都にやってきました!」
クロエ、それを明るい顔で言うな。
馬が可哀想だろ。
猫2匹は早くも喧嘩を始めている。
シーバがおニューのスカーフを自慢げに見せつけると、シロンがぷっつんとキレた。
「シャアアアアアッ!!」
「キュシャアア!!」
向こうでやれよ、恥ずかしい。




