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28 聖都


「さ、昨晩のことなんだけどさ……」


 翌朝。

 マイアルが赤い顔を寄せてきた。


「セーナとその……。い、いや、なんでもないんだ! ボクが口出しすることじゃないし! 忘れてくれ!」


 ピュー、と駆け去っていく。

 妙な勘違いしているな。

 俺は少しマッサージを受けていただけだ。

 とても気持ちいいやつをな。

 そりゃもう天にも昇る気持ちだった。

 またご奉仕してくれるらしい。

 俺は今から楽しみだ。


 そんな感じで旅は順調に進んでいき、たまに山賊を蹴散らし、たまに魔物を追い払ったりしているうちに聖都の街並みが見えてきた。


「7日はかかる予定だったのに、4日でついてしまったわね」


「ミトがいろいろ規格外すぎるんだよ! ボク、とんでもない人を側付きにしちゃったかな?」


 俺も張り切りすぎたと痛感している。

 ベルトンヒルから出るのは初めてだったし、馬車の旅も初体験だった。

 それで、ちょっと頑張りすぎた感がある。


 車輪を回りやすくする生活魔法を馬車に施して、馬が疲れたら聖女の魔法でせっせとリフレッシュして。

 そんなことをやっていると、3日も早くついてしまったのだ。


「快適すぎて馬車の旅というより豪華客船のクルーズ気分だったわ。……そんな船、乗ったことないけれどね」


「ボクもこんなに楽しい旅は初めてだよ! ミト、ありがとう! 君が側付きになってくれて本当によかったよ!」


 セーナもマイアルも楽しんでくれたようだし、頑張った甲斐があったな。


 行商人の列にまじって城門をくぐり抜けると、聖都の巨大な街並みに目がくらみそうになった。

 バッファローの群れみたいに人がひしめいている。


 ベルトンヒルもそれなりに大きな町だと思うけど、聖都はやっぱり違うな。

 お上りさんだと思われないようにしないと。


「さっそく試験会場に行ってみようよ! ミトのおかげで早くついたから、みんなで観光してもいいかもね!」


 少し休むという概念を持ち合わせていないイノシシ娘が人ごみに猪突猛進する。

 これはマイアルの旅だから異議はない。

 俺は素直に背中を追った。


 マイアルは馬鹿でかい円形建築物の前で足を止めた。

 振り返って、手を広げながら言う。


「聖都中央闘技場だよ! ここで、試験が行われるんだ!」


 闘技場か。

 なら、戦う系の試験だろう。

 敵は魔物かな。

 双頭のライオンとか出てきそうだ。

 翼が生えたやつ。

 尻尾はヘビに違いない。


「「おっやぁ? 誰かと思えば豚令嬢ちゃんじゃないか!」」


 妙にダブった声が聞こえてきた。

 振り返って、目を疑った。

 まったく同じ顔つきの少年が4人もいた。

 世にも珍しい四つ子である。


「キミたちはヨインズ兄弟じゃないか? どうしたんだい? こんなところで」


 マイアルの知り合いらしい。

 貴族友達かな?


「「僕たちは三聖試験を受けに来たのさ!」」


 4人で完璧にハモりつつ、仕草まで完全にシンクロしている。

 仲良し兄弟だな。

 でも、三聖人になれるのは悲しいかな3人までだ。


「「もしやとは思うけど、子豚くん! 君も試験を受けるわけじゃないよな?」」


「もちろん、ボクも受けるよ! 賢者を目指しているんだ! なれるといいな!」


「「君が賢者ぁ? はっはっはっはっは!!」」


 ヨインズ兄弟は一糸乱れぬ動きで腹を抱えて笑っている。

 こいつら見ていると、目がおかしくなってくるな。


「「豚の子が賢者になれるわけがないだろう! 君は大人しく賢者のペットでも目指すことだな! はっはっはっは!」」


 ひとしきり笑い飛ばすと、ヨインズ兄弟は道行く人の視線をかっさらいながら人ごみの中に消えていった。


「まったく! いつ会っても憎まれ口ばかりだな! ところで、なんで彼らはボクを豚呼ばわりするんだろう?」


 必殺4連装シンクロ皮肉ものほほんとしたマイアルには一切届いてないようであった。


 闘技場の中に入り、受付で手続きを済ませる。


「あの、私、1次試験には合格したのだけれど、その後、辞退してしまって」


「受験者の方ですね。お名前をどうぞ」


「セーナ・フォン・ディクライン」


「……はい。合格者リストには名前がありますね。第2次試験に受験されますか?」


「ぜ、ぜひお願いします!」


 セーナの強ばった顔から緊張が抜けていった。


「なんだ。やっぱり受験することにしたのか?」


 と俺が冷やかすと、セーナはフンと鼻を鳴らして仏頂面で腕を組む。


「ほら。旅の途中、あなた、結界で肉をさばいたり、ゴブリンの足を取ったりしていたでしょう?」


 そんなこともあったな。


「私は杓子定規に結界を張ってばかりで、あんな使い方ができるなんて考えたこともなかったわ」


 俺は人から真似るだけでいいから、努力とは縁がない。

 その分、いろいろ試行錯誤をしているのだ。


「私はまだ聖女の魔法を引き出しきれてないなって思ったのよ。自分の限界を決め付けるのは早計だったわ」


 それが、受験を決めた理由か。

 前向きになってくれたようで、なによりだ。


「あなたのおかげよ。さすが私のご主人様ね」


 セーナは珍しく笑顔を見せてくれた。

 普段のギャップもあってドキッとしそうなものだけど、俺にはそれより気になることがあった。


「……」


 受付のお姉さんが変な目で俺をチラ見している。

 頼むから人前で「ご主人様」とかやめてくれ。

「にゃ」なんてもってのほかだ。

 それといい加減、猫耳を外せ。

 コスプレ丸出しのメイド服もだ。


 よくそんな格好で聖都をうろつけるよな。

 いい神経してるよ。


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