27 旅路
目指すは、聖都。
長旅になる。
異世界の旅路は過酷だ。
山賊の待ち伏せに魔物の襲撃。
命懸けの旅になるだろう。
魔物や山賊は時の運としても、車内で過ごす時間くらいは快適でありたいものだ。
狭い車内で長時間すし詰め。
襲いかかってくる肩こりと馬車酔い。
サスペンションも入っていない馬車ではお尻も痛むだろう。
ストレスも溜まるだろうから、喧嘩になって空気まで悪くなるかも。
それを1週間だ。
考えるだけでゾッとする。
快適さは大事だ。
というわけで、まずはクーラーを取り付けてみた。
氷魔法で氷の筒を作って、そこに風魔法で風を送り込むのだ。
ひんやり涼しくなって、シーバもきゅぅぅん、と心地よさそうに伸びをした。
未舗装の道だし、揺れも気になるな。
重力魔法、発動。
半分浮かせてやると、だいぶマシになった。
夜になる。
魔物避けの結界を二重に張って、虫除けの生活魔法で不快害虫対策もバッチリだ。
「ミトのおかげで快適だったよ! でも、お風呂に入れないのはボク、困るなぁ……」
「宿場町までは我慢ね。狭い車内だし、臭いが気になるわ」
そう言うだろうと思って、即席の風呂を作ってみた。
土魔法で作った浴槽に水魔法で湯をなみなみと注ぐ。
浴槽を広くしたから脚も伸ばせるぞ。
夜空を彩る満天の星空を眺めながら、ゆっくり疲れを取ってくれ。
二人が入浴している間にハンモックを作ろう。
手頃なロープに衣服の袖を通して、毛布で補強すれば完成だ。
おっ、ラベンダーが自生している。
アロマでも焚くか。
こういった小ワザもちろん模倣魔法で習得した。
おかげで、1日目は快適に就寝できた。
アロマはトイレの芳香剤みたいな匂いだったけどな。
◇
「宿場町が見えてきたわね。ご主人様」
セーナが車窓から身を乗り出してそう言う。
「だな。寄っていくだろ?」
俺は手綱を引いて馬を町に向けた。
「マイアル、寄る必要あると思う?」
「ボクはいいかなぁ! だって、ミトのおかげで快適だしさ! こんなに疲れない旅は初めてだよ!」
「そうね。私ものんびりできているわ」
じゃあ、次の町を目指すか。
ところで、セーナ。
「たまにでいいから『にゃ』をつけてくれ」
猫耳はつけるのに語尾は無しじゃ中途半端だしな。
「……バカ」
セーナは頬を赤くして、ぷいっと窓のほうを向いてしまった。
残念。
◇
宿場町に寄らなかったから食料は節約しないと。
と思っていると、シーバが獲物を捕まえてきた。
馬よりデカイ鳥の魔物だった。
よくこんなものを引きずってきたな、と感心を通り越して唖然とする。
そんな俺を尻目に、シーバは捕らえた獲物の上で満足げに香箱座りしていた。
「ニワトリの魔物『駆爪鶏』だな」
食用可能だ。
ベルトンヒルの朝市で精肉店の店主が解体ショーを催したことがあった。
一度見たから俺にもできる。
肉切り包丁がないので結界の刃で解体してみた。
一番美味しいもも肉だけを贅沢に使わせてもらおう。
スパイスを振って、表面を火魔法で炙る。
そういえば、ミルカの乳があったな。
シチューも作るか。
プロの手際でチョチョイのチョイ。
あとは、ひと煮立ちするだけだ。
「きゅいう!」
シーバが鋭く鳴いた。
背中の毛を逆立てて、茂みの向こうを睨んでいる。
何かの気配を嗅ぎつけたようだ。
『生命探知』――。
生体反応は8体だ。
茂みから一斉に飛び出してきた。
「ギギギ、ゴゴゴッ!」
「グギャアアギギッ!」
ゴブリンの群れだった。
血肉に誘われてやってきたらしい。
真っ直ぐに突っ込んでくるので、俺は地面スレスレに不可視の結界を張った。
そして、土魔法を発動する。
「『土剣山』――!」
大地が鋭いトゲで覆われた。
結界につまずいたゴブリンたちがその上に倒れ込んで……。
食事前だ。
あまり見ないようにしよう。
「結界にそんな使い方があるのね。思いつきもしなかったわ」
珍しくセーナが素直に感心している。
「ボクが杖を取り出すより先に決着がついちゃったよ。なんというか、ミトは普段の心構えから違うなぁ」
マイアルはというと、意気消沈している。
そうこうしているうちに、鍋の蓋がカタカタ言い始めた。
蓋を持ち上げると、濃厚な乳の香りがふんわり広がる。
さあ、たんと召し上がれ。
「すっごいや! このシチュー、プロの味って感じだ!」
プロの技で作ったからな。
「没落寸前とはいえ貴族の私が食べて育ったものより、あなたがチョチョイと作ったもののほうが美味しいなんてね。なんだか腹が立つわ……」
セーナは俺を睨みつつ、こう付け加える。
「あなたのメイドをやっていたら、毎日美味しいご飯にありつけそうね」
「いや、そこはメイドが作れよ」
シーバは炙り肉に食らいついて幸せそうに尻尾を振っていた。
お前の体よりデカイ肉だが、食べきれそうか?
◇
夜、セーナが俺のテントやってきた。
「護衛から料理まで一人でこなすなんて、あなたは本当に底が知れないわね」
「全然手伝ってくれないメイドがいるから大変だ」
「だから、この私があなたをねぎらいに来てあげたのよ。上を脱いで。そこに寝転がりなさい」
「脱……え?」
困惑しているうちに、無理やり上着を取り上げられてしまった。
「疲れたでしょうから、私が癒やしてあげるわ」
癒や……す?
「私、いちおうメイドだから、ご主人様にご奉仕しないといけないわけだし」
意味深発言、連発だ。
よく見ればセーナも薄着だし、これは……そういうことなのでは?
頭が真っ白になりかけている俺を、セーナは強引に押し倒した。
うつ伏せだ。
仰向けじゃなくて、うつぶせなのはどういう意味があるんだ!?
「よいしょっと。……重いとか言わないのよ?」
お尻の上に座られた。
そして、肩のあたりにヒンヤリした感触。
「もみ、もみ、もみ……」
セーナが俺の肩を揉みしだき始めた。
手に聖女の魔法を込めているらしい。
筋肉を直接揉まれているみたいで心地いい。
馬車旅の疲れも相まって、体がとろけそうだった。
さっきまで緊張で体を強ばらせていた俺は日向ぼっこするシーバみたいに体を液状化させていった。
ぐでぇ……、って感じだ。
「すごいでしょ、私のテク」
どうしてもエロスな意味で受け取ってしまうのは、俺の体が多感な時期だからかもしれない。
聖女の魔法を使ったマッサージか。
セーナも面白いことを思いつくなぁ。
「またご奉仕してあげる……にゃ」
気持ちよすぎて寝落ちする寸前、そんなことを言われた気がした。
猫耳メイドのご奉仕マッサージか。
悪く、ないな……。
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