25 賢者を目指す理由
「ミト、キミはすごいよ! 天才だ! ボクにもキミほどの才能があればよかったのに! そしたらボク、もっとイキイキと生きられるのになぁ!」
夕暮れどき。
魔法の鍛錬を終えて、町への帰途についた。
少し前を歩くマイアルは頻繁に振り返っては俺にまばゆい視線を向けてくる。
「火魔法に風魔法を加える発想はなかったなぁ! でも、どうして火の勢いが増すんだろう? 不っ思議だなぁ!」
この世界の人は、元素とか燃焼の3要素とか知らないだろうしな。
火に酸素を食わせれば爆発的に燃える。
それだけのことだ。
「キミなら賢者になれると思うよ!」
唐突にそんなことを言われた。
「俺は興味ないな」
賢者というほど賢くない。
どっちかと言うと、愚者だ。
助けようとした柴犬ごと夭折したしな。
俺を轢いて捕まったドライバーがいるのかと思うと、やるせなくなる。
「くぅぅ、もったいないなぁ……!」
マイアルはショートヘアをぐしゃぐしゃに掻きむしっている。
「そう言うマイアルはどうして賢者を目指しているんだ?」
「それはだね――」
よくぞ訊いてくれました、とばかりに目が輝きを帯びた。
しかし、続きを話す前に、
「うあああああ」
と悲鳴が上がった。
町の玄関口である城門の前でひと悶着あったみたいだ。
行商人らしき男が情けない顔をしている。
門番たちに胸ぐらを掴まれているから無理もない。
「通行料は5000イッツだっつってんだろ」
「ま、前は200イッツだったじゃないか……!」
「そんなハシタ金じゃオレらが飲みにいけねえだろうがよ」
通行料をボラれているのか。
2000円が5万円になっては行商人も商売上がったりだ。
このまま夜になれば城門の外は魔物であふれかえる。
夕暮れどきに駆け込んでくる通行客を狙って、あくどい真似をしているわけだ。
「こ、このことを領主様に告発してやる!」
「ンだとォ!? 痛い目見なけりゃわかんねえみたんだなァ!」
拳が固く握られた。
止めに入ってやるか。
「そこまでだ! この悪党ども!」
今のは俺のセリフではない。
俺が動くよりわずかに早く、マイアルが衛兵と行商人の間に割って入った。
俺より早く人助けに動く奴を初めて見た。
感心だ。
「キミたちは間違っている! 領令で定めた通行料を蔑ろにして、私腹を肥やすなんて言語道断だ! このボクが断じて許さないぞ!」
「おめえが許さねえからなんだってんだよ? あァ?」
拳の矛先がマイアルに向かった。
この反応、門番たちはマイアルを知らないようだな。
領主令嬢だと名乗りを上げてやれ。
家紋入りの印籠でも見せつければ、こいつら「ははーッ!!」って感じでひれ伏すぞ。
暴力には権力だ。
「鍛錬の成果を見せてやる! ぶおおお!」
マイアルが拳を振り回して突っ込んでいった。
そして、あえなくカウンターパンチをもらった。
賢者志望のお嬢様が暴力で勝負するなよ。
まるでイノシシだな。
いちおう、豚の仲間だけどさ。
「自分で売った喧嘩だ。俺は助太刀しないぞー」
「もちろんだ! ボクは自力で勝つギャハァ!?」
言った端から鼻っ面に拳がめり込んだ。
門番たちに囲まれ、肘打ちされ膝蹴りをくらい、投げられては踏まれ、……ダメだ。
見てられない。
全員まとめて水魔法で押し流しておいた。
ついでに、氷魔法で氷像にしておく。
これで、頭が冷えるだろう。
「生きてるか、マイアル?」
「ぶぐぅ、な、なんとか……。ミトのおかげで助かったよ。キミはやっぱりすごいね」
マイアルの顔は蜂に刺されたみたいにボコボコだ。
ほら、氷だ。
当てとけ。
「領主の娘だって言えば、あんなチンピラ、ヘコヘコしながら逃げていくだろうに」
「虎の威を借るつもりはないよ! 自分の領民を自分で守れずして、何が領主令嬢だ!」
虎じゃなくて豚だろ、と思ったけど言わないでおく。
「キミ、訊いたよね? なんでボクが賢者を目指すのかって」
ああ、訊いた。
答えはまだ聞いていないが。
「ボクはいずれ領地を継ぐ。そのとき、何もできないお嬢ちゃまのままでいたくないんだ。だから、ボクは賢者になる。知恵で人々を導く賢者に」
マイアルは決然と言った。
「もちろん、ボクの才能では賢者になれっこないのは知っているつもりだよ。でも、できるところまで足掻こうと思う。人の上に立つ人間は誰よりも努力家であるべきだと思うからね!」
まっすぐな目にこの地を背負っていく覚悟が感じられる。
きっと親の教えがいいんだろうな。
反面教師的な意味で。
未来の領主マイアルか。
悪くないな。
ついていってやるか、聖都へ。
これも投資だと思って。
名君誕生の瞬間を拝めそうな予感だ。
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