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24 丘の上の領主令嬢


 ヨートンと馬車に乗り込む。

 てっきり行き先は領主邸だと思っていたが、馬車は町を出てすぐのところで停まった。


 取り立てて何もない丘の上だ。

 ベルトンヒルの街並みを一望できて、そよ風が心地いい。

 ピクニックにはうってつけだな。


「マイアルお嬢ちゃまは毎日ここで鍛錬を積んでおられます」


 御者台から降りてきたヨートンがそう言う。


「たしか、賢者候補だったか」


「その通りでございます」


 なら、鍛錬というのは魔法の練習のことだろう。


「それでは、わたくしはここで」


 深々と一礼して、ヨートンは馬車とともに去っていった。


「お嬢ちゃまと話をしてみては、か」


 何を話せばいいのか見当もつかないけど、とりあえず、マイアルを探すか。


「君っ! 危ない! 避けてくれ!」


 声がしたので振り向いた。

 すると、目の前に火の玉があった。

 中級火魔法『火炎弾ファイアボール』か。

 俺は火球を片手で払い除けた。

 ペシッ、と。


「ごめんよ! ボクの魔法が流れていってしまったんだ!」


 金髪少女が息せき切って駆けてくる。

 髪はショートカットで、体はスポーティ。

 太い眉がピンと上を向いた勝気な顔立ちをしている。

 豚の面影は皆無だ。

 でも、第1次試験のときに見たマイアルで間違いない。


「キミ、怪我はなかったかい?」


「全然へっちゃらだ」


「ああ、よかった! ボク、人を殺してしまったんじゃないかとヒヤヒヤしちゃった!」


 マイアルはひとしきり謝罪の言葉を述べた後、金の瞳をキラリと輝かせた。


「キミさ! 今、素手で魔法を弾かなかったかい? どうやったのか教えてくれよ!」


「手の表面を結界で覆っただけだが? 盾としても使えるが、結界を鋭く伸ばせば刃にもできるんだ」


 と俺はバカ丁寧に教えてやる。

 すると、マイアルの目が一段と輝いた。


「そんなことができるんだ! 目から鱗だよ! キミはすごいね! もしかして、三聖試験に参加した賢者候補の一人だったりするかい?」


「参加したが、サポーターとしてだな」


「サポーターか……」


 少し考えるような仕草をしてからマイアルは、


「ミトってキミだったりする?」


 と自信なさげに訊いてきた。


「そうだが?」


「そっか! やっぱりキミだったんだ、ボクを助けてくれたのは! 爺やから……ヨートンから話は聞いているよ! むちゃくちゃ腕のいいサポーターがミラクルな魔法でボクを癒やしてくれたんだって! うっわぁぁー!」


 銀幕のスターを見る目で見つめられた。

 グイグイ来るし全体的にうるさい奴だな。

 でも、今のところイイ奴そうだ。

 爽やかだし、かいている汗も脂っぽくない。

 青春の汗って感じ。

 父親とはえらい違いだ。


「お礼を言うのが遅れてごめんよ! 教会には顔を出したんだけど、キミは引っ越した後でさ!」


 ありがとう! ありがとう! と怒涛の勢いで礼を言われた。

 調子が狂うな。

 ケツゲパルス卿みたいなわがままな豚のほうが扱いやすそうだ。


「もし、よかったらさ、ボクに魔法を教えてくれないかい?」


「まあ、別にいいが」


 圧に屈して、ついOKしてしまった。


「ボク、実は今、悩んでいて。魔法が思ったところに飛んでくれないんだ」


「それで、俺のところに流れ弾がきたのか」


「うう、ごめんよ。下級魔法はなんとか使いこなせるんだけど、今やっている中級魔法は制御が難しいんだ」


 そういう悩みは俺にはない。

 デキる奴から真似パクるだけだからな。

 野菜泥棒に農家の苦しみはわからないもんだ。


 でも、応用は得意だ。

 コピーした技を組み合わせて、自分だけの技を作るとかな。

 アドバイスできることがあるかもしれない。


「やってみてくれ」


「うん!」


 マイアルは指揮棒みたいな杖を構えた。

 杖の先で風船のように膨らんでいく火の玉を、マイアルは割らないように神経を尖らせている。


「『火炎弾ファイアボール』――!!」


 そして、火球はなぜか真後ろに飛んでいった。

 なんでだ!?


「キミには今の、どう見えてた?」


 ちょっと危険な一発ギャグだな。


 うーん、と俺は顎に指を当てて、


「火球をまとめようとしすぎだ。押さえ込もうとするあまり、変な方向に飛んでいっているんだ」


「でも、球状にしないと『火炎弾ファイアボール』にならないだろう?」


「ならないなら、しなくていい。まとめようとせずに、あえて拡散してみろ」


「こ、こうかい?」


 今度は真正面に火炎が吹き抜けた。

 的にしていたカカシがメラメラと燃えている。


「当たった! ……でも、これって」


「そうだな。火の玉というより、火の風だった。でも、それでいいんだ」


 拡散させたことで射程と威力こそ目減りしたものの、その分、効果範囲と命中精度が上昇した。


「たいていの魔物は熱波にさらされるだけで逃げていく。火球にする必要は必ずしもないんだ」


「なるほど! キミは発想が柔らかいね! ボクは型にこだわりすぎたみたいだ!」


 マイアルはさらに目を輝かせながら、俺を見つめてきた。


「ねえ、もっと教えてよ!」


 遠慮を知らない奴だな。

 でも、貪欲に学ぼうとする姿勢は評価できる。

 もう少しだけ、教えてやるか。

 若者を導くのは大人の役目だしな。


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