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23 来客


「ご、ご主人様、朝にゃ……」


 肩をゆすられて目が覚める。

 猫耳メイドが俺を見下ろしていた。

 赤い顔で。


「何をやっているんだ、セーナ」


「居候させてもらうからには家事手伝いくらいしないとにゃ」


「それで家主を……ご主人様を起こしにきたと?」


「そうにゃ……」


 赤い風船みたいな顔で言われた。


「下手だけど朝ごはんも作ったにゃ」


 ならまあ、いただくか。

 思うところはあるけど、とりあえず起床する。


「……」


 シーバが今日も白い目で俺を見ている。

 ジト目だ。

 心配するな。

 俺のペットはお前だけだからさ……。





 焦げた目玉焼きと生焼けのハムを食べていると、


「あの、ご主人様」


 セーナがダイニングにやってきた。

 もじもじしているところが、絶妙にいじらしい。

 困らせたくなってくる。

 でも、


「そのご主人様ってのはやめてくれ」


「じゃあ、ミト様かにゃ?」


「にゃ、も要らないから」


 セーナが「にゃ」と言うたびに、シーバが俺の肩に爪を喰い込ませてくるのだ。

 こいつ、にゃーって鳴けないからな。

 柴犬の名残で。


「それで、なんだ?」


 俺はセーナに用件を尋ねた。


「ご領主様の使いを名乗る人が表に見えているわ」


「領主の使い?」


 豚みたいな男の顔を思い出す。

 ケツゲパルス卿である。


「ミト様でいらっしゃいますね。わたくし、ご領主家にて執事を務めております、ヨートンと申します」


 玄関扉を開けると、老紳士が折り目正しく頭を下げた。

 通りには領旗を掲げた馬車が停まり、ご近所さんが何事かと眉根を寄せている。


「とりあえず、中へどうぞ」


「失礼いたします」


 変な噂が立っては困る。

 ヨートンを客間に通して、話を聞くことにした。


 よしとけばいいのにセーナが紅茶を運んできた。

 そして、カーペットにつまずいた。

 俺が重力魔法で浮かせたからティーカップは無事だが、セーナはドジっ子メイドみたいな格好で転んでしまった。

 慣れないことはするもんじゃないぞ。


「それで、今日はどういったご用向きで?」


「はい。領主たる旦那様のお言葉を伝えに参りました次第でございます。――ぐぬフフフ!」


 ヨートンは急に豚みたいな笑い方をした。


「ミトよ、我が娘の窮地を救ったこと感謝するのじゃ。このわしに感謝されること、望外の誉れであろう。どうじゃ、嬉しいかの? ぐぬフフフ! ――と旦那様はおっしゃっておりました」


 ああ、そう。

 ちっとも嬉しくないのだが。

 マイアルだったか?

 娘の命の恩人に謝意を伝えるべく人を遣わしたってことか。

 意外と律儀なところもあるんだな。


「ここからが本題でございます。――ぐぬフフフ」


 ヨートンがふたたび豚みたいに笑う。

 感謝の言葉は本題ではなかったらしい。


「ミトよ、褒美として、おぬしをマイアルの側付きに取り立ててやるのじゃ。嬉しかろう? 光栄に思うがよいのじゃ。ぐぬフフフ! ――と旦那様はおっしゃっておりました」


 領主令嬢の御側付きか。

 まあ、一介の孤児が就ける仕事ではないな。

 喜ぶ人もいるだろう。

 俺は例外だけど。


「マイアルお嬢ちゃまは近々聖都に赴き、三聖試験の第2次試験を受けられるご予定です」


「あのお嬢さん、試験に受かったのか」


「はい。当然でございます。マイアルお嬢ちゃまは天才だと旦那様は常々おっしゃっておりますので」


 いちいち伝聞調なのは、ヨートンの本心ではないからだろう。


 第1次試験の合格基準は、メンバー全員で生還することだった。

 俺が命を助けたから、マイアルも合格になったということか。


「つきましては、マイアルお嬢ちゃまが試験を終えられるまでの間、ミト様にはお嬢ちゃまの身の回りのお世話をお任せしたい次第でございます」


「勝手に話を進められても困る。俺にも都合があるんだが」


「旦那様はこうもおっしゃっておりました。――ぐぬフフフ。万が一、わしの褒美を断ることあらば、無礼千万なり! 一族郎党、我が領地から放逐してくれようぞ! ぐぬッフッフッフ!」


 そういうこと言いそうな豚だったよな、ケツゲパルスって。

 しかし、困ったな。

 せっかく借金がチャラになったというのに、このままじゃ教会ごと潰されかねない。

 手間暇かけて築いたマイホームも一夜の城に終わる。

 迷惑な豚だなぁ。


「最終的にはお引き受けくださるものと思いますが、まずはマイアルお嬢ちゃまとお話されてみてはいかがでしょう? 旦那様と違い、お嬢ちゃまは確かな領主の器をお持ちです。……おっと、本音が少々こぼれてしまいました」


 ペコペコと陳謝するヨートンだった。

 そこまで言うなら、会うだけ会ってみるか。

 領主家を敵に回すより、気に入られるほうが得だしな。

 そういうことになった。


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