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22 セーナのお願い


「汚いところだが、ゆっくりしてくれ」


 セーナを家に招いた。

 というより、押し込んだ。

 雨の中ずっと泣くばかりだから、保護した感じだ。


 体がすっかり冷えてしまっている。

 ひとまず、風呂でも沸かすか。

 我が家には土魔法で作り上げた自慢の五右衛門風呂があるのだ。

 水魔法で湯をなみなみと注げば、準備よし。


「さあ、入ってくれ」


 と声をかけるも反応がない。

 セーナは玄関先で体操座りしたまま一向に顔を上げようとしない。

 こんなときは、これだ。


「お前、臭うぞ」


 率直に伝えると、キッと睨まれた。

 実際臭いのだから仕方ないだろう。

 ドレスは泥まみれ。

 髪はギトギト。

 最後に風呂に入ったのは、いつだ?


「……」


 セーナはぶすっとした顔で風呂に向かっていった。

 泣きっ面より取っ付き易いから、いいけどな。


 さて、濡れた床を掃除してと。

 ドレスは魔法で洗濯するとして、着替えはどうする?


「クロエが残していったメイド服があったな」


 もう、これでいいか。

 温かいスープも用意しておいてやる。

 至れり尽くせりだ。

 シーバでもここまで手はかからないぞ。

 わがままお嬢様め。

 風呂から出てきたとき、まだ仏頂面だったら猫じゃらしでひっぱたいてやろう。


 そして、たっぷり1時間ほどしてセーナは上がってきた。


「どうしてメイド服なのよ……」


 仏頂面だった。


「それしかないんだ。我慢してくれ」


 安心しろ、似合っているから。

 俺が悪徳貴族ならヤらしい笑みを浮かべたに違いないのだ。

 しっとり濡れた髪も色香を漂わせている。


「男の子ってメイド服、好きなの? それに、猫耳も」


 セーナは変態を見るような目を俺に向けてきた。


 そういえば、賢者候補のラウルが言っていたな。

 僕の彼女になれとか、ご主人様と呼べとか、猫耳とメイド服で毎日ご奉仕しろとか。

 語尾は『にゃ』一択だ、と決めゼリフみたいに言い放っていた。

 あれには、ドン引きだったな。


「……」


 ん?

 セーナの視線の先には、猫耳カチューシャが置かれている。

 クロエが残していったやつだ。


「……」


 いや、誤解だ。

 俺をあんな奴と一緒にするな。


「ドレス、乾かせばいいんだろ」


 手がかかる奴だ。

 暖炉の前に物干し竿を渡して、ドレスを干しておいてやる。

 家主である俺をせっせと働かせている間、メイドのセーナはスープを飲んでいた。

 いいご身分だ。


「おかわりを頂けるかしら」


 自分でつげ、お嬢様め。

 と思っていると、セーナはお嬢様らしからぬ食欲でおかわりもペロリと平らげてしまった。

 まだ物欲しそうな顔をしている。

 しばらく、食事にありついていなかったご様子だ。


「これ、美味しいわね」


 そうだろうとも。

 腕利き料理人から調理術を盗んだから美味しくて当然だ。

 教会でも俺の料理は人気だったんだ。

 あっさり機嫌をよくした俺である。


 濡れ雑巾をカラッと乾かす魔法、発動――。

 濡れそぼったドレスから磁力で反発するようにして水滴が離れていった。

 雑巾用の魔法だから、乾き切るにはもう少しかかりそうだ。


「その魔法……以前にどこかで」


 セーナは記憶をたどって視線を宙にさまよわせた。

 そういえば、5年前、路地裏で絡まれていた女の子にもこの魔法を使ったっけ。

 お漏らししていたからな。


「あなただったのね。あのとき、助けてくれた男の子」


「どうやら、そうみたいだな」


 世間は狭いってやつだ。


「あなたは、いつも私を助けてくれるわね」


 人助けはライフワークだからな。

 死ぬまで続ける。

 転生するための必須条件なのでね。


「助けたついでにお願いがあるんだけど……」


 セーナは言いにくそうに切り出した。


「当面の間、私をここに住まわせてくれないかしら?」


 意外な申し出だった。

 まあ、我が家は平民の家では珍しいバスルーム付きで、おまけに冷暖房完備だから快適ではあるけどさ。

 セーナは貴族だろ?

 俺の家でなくとも、不自由はないはずだ。


「実家に帰らなくていいのか?」


 そう尋ねると、顔に暗い影が落ちた。


「私は家を追い出されたのよ。三聖試験に合格できなかったから」


 勘当されたってことか?


「私の家は、昔は国を代表するような名家だったのよ。初代聖女様の血を引いているおかげか、歴代聖女を何人も輩出してきたの」


 聖女の血筋、か。


「過去の栄光よ。才能は枯れてしまったの。100年ほど前、最後の聖女を輩出して以来、聖女の魔法を使える者は一人として生まれてこなかったわ」


 私を除いて、とセーナは付け加えた。


「貴族社会から忘れ去られ、没落寸前の我が家にとって、私は唯一の希望だったの。幼い頃から聖女になるためだけに厳しい修行を強いられたわ。でも……」


 試験には合格できなかった。

 正確には、辞退したわけだが。


「私には才能がなかったの。ミト、あなたと出会って、つくづくそう思ったわ」


 セーナの頬を涙が伝い落ちた。


「でも、追い出すことないじゃない……! 私だって頑張ったのに! 小さい頃からいろんなことを我慢して! 必死にやってきたのに!」


 悔し泣きだった。

 一族の期待を背負って努力し続けた。

 それでも、届かなかった。

 残ったのは、一族からの追放という結果のみ。


 かける言葉がないな。

 俺は他人の技術を見て盗めるから、今日まで努力ゼロで楽々生きてきた。

 俺が何を言ったところで絶対に届かないだろう。


「ここを追い出されたら、ほかに行く場所がないの!」


 すがりつかれた。

 涙に濡れた目の破壊力で、俺はあっさり押し切られそうになった。

 でも、ダメだ。

 女の子を連れ込むと、うちの乳母が猛牛みたいな勢いで突入してくるかもしれない。


「私にはもう後がないの。覚悟を決めたわ。少し強引にいかせてもらうから」


 セーナは瞳に決意をみなぎらせた。


 強引か。

 押し倒されてキスでもされるのだろうか。

 あるいは、胸を揉まされるとか!?

 俺は特上の乳を吸って育ったんだ。

 胸にはうるさいぞ!?


 とか思っていると、セーナは俺の脇を素通りして猫耳カチューシャを手に取った。

 そして、それを頭に装着し、俺の正面に立った。

 赤い顔がまっすぐ見上げてくる。


「ご……」


 ご?


「ご主人、様……わ、私を……」


 消え入りそうな声で、セーナは言った。



「ここで、飼ってくださいにゃ……」



 ドキッとした。

 よこしまな感情に呑まれそうになって、慌てて視線を切る。

 危なかった。

 犬派じゃなかったら死んでいたかもしれない。


「この私にここまでさせたのに、追い出さないわよね?」


 追い出す。

 と言うと、途端に泣き出しそうな顔でそう言われた。

 追い出せるわけないだろう。


「わかった。いてもいいから」


「やったぁ! ……あっ、にゃ!」


 ドアの隙間からシーバが覗いている。

 白い目で俺を見ていた。

 軽蔑したって?

 犬のお前にはわからないだろうな。

 猫耳メイドの破壊力はさ。


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