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21 雨の路地裏


 借金苦から教会を救ったことで、シスターたちの俺を見る目にも変化があった。


「ミト様はもうわたしたちがいなくても立派に生きていけるのですね。うぅ……。嬉しいような寂しいようなぁ……。目からミルクがこぼれてしまそうですぅ」


 ミルカはそう言って涙を拭った。

 そう、俺に独り立ちの時が来たのである。


「週に3日は顔を見せてくださいね? それと、教会から近い物件を借りること! あと、女の子を連れ込むのは絶対にダメですぅ! それから、それから……」


 束縛はちょっと強めだがな。

 というわけで、町の不動産ギルドに赴き、家を買った。

 一軒家だ。

 夢のマイホームである。

 といっても、ボロ屋だけどな。


 俺の目の前には半ば傾いた幽霊屋敷がでーん、とそびえ立っている。

 廃墟寸前なので格安だった。


 これを、生活魔法とDIYスキルをフル活用してリノベーションすれば、――どんっ!

 ほんの2日ばかりで見違えるほど綺麗になった。


 ご近所さんやお向かいさんも口をパカーンと開けて、驚きをあらわにしている。

 狐につままれた気分だろう。


 不動産価値も上がったはず。

 売りに出すときも美味しい思いができそうだ。


 ――――サァァァ。


 おっと、雨が降ってきた。

 まだ屋根を直している最中だが、結界魔法で防げばヨシ。

 今日は廃材を集めて家具でも作るか。


「お兄様っ!」


「お兄ぃー」


 教会のほうから少女が二人駆けてきた。

 ダークエルフのほうはクロエ。

 猫耳娘のほうはシロンだ。

 義妹たちの登場だった。


「ここには来るなと言っているだろう?」


 と、俺はお断りムードを醸し出す。

 妹がいたんじゃ、独り立ち感が薄まるからな。

 シーバもシロンを見てシャアアア、と警告音を発している。


「雨宿りさせてください、お兄様」


 いや、教会の屋根はすぐそこに見えているだろう。

 徒歩1分の距離だぞ。


「まさか、お兄様」


 クロエが意地悪っぽく笑った。


「可愛い妹たちを雨の中に放り出したりしませんよね?」


「濡れるの、いやー」


 シロンは猫耳を手の傘で守っている。

 大した雨でもないのにな。


「お前ら、雨が降るタイミングを見計らって来たな。ずる賢い奴らだ」


 近所で井戸端会議をしていたおばさんたちが俺を見てコソコソ話をしている。

 妹さんを蔑ろにするなんてとか、ひどいお兄さんねぇとか聞こえてくるのだが。

 ちょっと待て。

 ひどいのは妹たちのほうだ。


「それじゃ、お邪魔しますね、お兄様」


「お兄の邪魔してやるー」


 シロンに限ってはただの犯行予告である。

 結局、上がりこまれてしまった。


「雨が止んだら、すぐ帰れよ」


「私の暗黒予報によると、長雨がずっと先まで続くみたいですよ」


 暗黒予報ってなんだ?


「じゃあシロ、ずっとお兄の家の猫やる」


 ええい、柱で爪とぎするなシロン。

 シーバも競おうとするな。

 お前の爪だと柱が両断されるだろうが。


「似合いますか、お兄様!」


 いつの間にか、クロエはメイド服に着替えていた。


「お兄様のお世話は私がします! 猫耳もありますよ!」


 猫はもう足りているんだよ。

 3匹もいらん。





 人手が増えたので、家具作りは捗った。

 居座ろうとする妹たちだったが、散々こき使ってやったら裏口から逃げるように出て行った。

 おかげで、家具が軒並み完成した。

 妹とハサミは使いようだな。


 新品ベッドに身を投げると、シーバがへその上でとぐろを巻いた。

 のんびりできて悪くない時間だ。

 これが教会だと、俺のへそを下の子供たちがトランポリンにするからな。


 しかし、静かすぎるのは考えものだ。

 シーバは基本猫だから、1日の半分以上は寝ているしな。


「買い出しにでも行くか」


 別に人恋しいとかではないぞ。

 長雨が続くならいろいろ買い込んでおかないとな。


 ゆすっても起きないシーバを窓辺に置いて、家を出る。

 近道しようと通りかかった路地裏で、既視感を覚えた。


「ここ、前にも来たことがあるな」


 あれは、闘技場の帰り道だ。

 このあたりで、女の子がロリコン冒険者に絡まれていたんだ。

 闘技場で覚えたばかりの技を使って助けてやったんだよな。


 今日は、変態冒険者には出くわさなかった。

 でも、女の子はいた。

 全身ずぶ濡れで膝を抱え、泥の上に座り込んでいる。


 孤児って感じではないな。

 着ているのは貴族令嬢が普段着にするような軽めのドレスだ。

 家出少女ってところか?


 結界の傘を差し出してやると、少女は顔を上げた。

 その顔には見覚えがあった。

 流れるような銀色の髪にも。


「セーナ、どうしたんだ? こんなところで」


 名前を呼ぶとセーナは俺に抱きついてきて、うわあああんん、と泣き出してしまった。


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