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19 合否判定


 ひいひい言いながら地上に戻った。

 西の空があかね色になっている。

 くたくただ。


「もう、金輪際ダンジョンはゴメンだ」


「私もよ」


 くたびれた雑巾みたいになったセーナが力なく頷いた。


「どうやら、俺たちが最後みたいだな」


「そのようね」


 受験者や試験官たちは撤収の準備を進めている。

 ま、合否は着順じゃない。

 順位は関係ないけどな。


「じゃあな、坊主ども。楽しかったぜ!」


 ガッスたちが手を振って引き上げていく。


 おー、お疲れさま。

 ちゃっかり儲けられてよかったな。


 ガッスたちはニヤニヤが止まらないらしく、丘の向こうに消えるまで白い歯が見えていた。


「帰還報告をしてくるわ。……その、ミト」


 セーナは何か言いたそうな顔をしている。


「あ、ありがとう。試験に合格できたのは、あなたのおかげよ」


 散々モジモジした挙句、すごく小さな声でそう言われた。

 プライドが高いと礼を述べるのも一苦労だな。


「シーバもね」


「きゅぅん!」


「あら、とってもサラサラな毛並みね」


「ぴゅぃ!」


 珍しくシーバがなでなでを受け入れている。

 普段は俺以外に触られると猛烈に吠えるのにな。


 セーナは宝剣を赤子のように抱いて、ガルラントの元に向かった。

 が、しかし、その足が不意に止まった。


 ヤな奴らがいるな……。

 赤髪の剣士と青髪の眼鏡。

 イザックとラウルだ。


 ひと振りずつ宝剣を持って、誇らしげに胸を張っている。

 それを見下ろすのは、中級司祭ガルラントだ。

 夕日の赤も相まって修羅の形相に見えるのだが、気のせいか?


「オレたちで迷宮主も倒したぜ。腕が8本もある強敵だった。ま、オレからすりゃ雑魚だったけどな」


「僕も本気を出しきる間もなく終わってしまった。なんなら、もう一戦したいくらいだ」


 あいつら、シレっと俺の手柄を横取りしてやがる。

 ロクでもねえ。


「オレたち、宝剣を持ち帰ったわけだし、合格ってことでいいよな?」


「早く合格証書を出してくれ。僕は修行で忙しいんだ」


「よかろう。合否を言い渡す。イザック、ラウル両名を――」


 宝剣を受け取ると、ガルラントは静かな目で二人を見下ろした。



「――不合格とする」



「よっしゃあああ! …………え?」


「ふん。まあ、僕たちなら当然の結……は?」


 二人の口があんぐりと開いた。


「お、オレらが不合格? 何言ってんだ、おっさん」


「僕たちは宝剣を持って帰ったじゃないか! 合格条件は満たしている! なぜ、不合格になるんだ!? 論理的じゃない!」


「不合格の理由は明確だ。お前たちが、パーティーメンバーを生贄として捧げたからだ」


 ガルラントは抑揚のない声で続ける。


「仲間を生贄にするような不届き者に三聖人たる資格はない。ゆえに、不合格なのだ」


「で、でも、宝剣を持って帰れば合格だって!」


「そうだ! 仲間が欠けても合否に影響はないと言ったのはあなただ!」


「それは、ただの方便にすぎない。お前たちの醜い本性を暴き出すための嘘だ」


 俺はガルラントの言葉を思い出していた。


『この第1次試験でさえ合格者は出ぬかもしれん。人の身の内に巣食う悪魔を白日のもとに暴き出す、恐ろしい試練が受験者たちを待ち構えているからな』


 その言葉の意味がようやくわかった。


「今回の試験の合格条件は、仲間を一人も欠かすことなくダンジョンから生還することだ」


「そんな……」


 イザックとラウルがへなへなと腰を抜かした。


「オレたちの苦労はどうなるんだよ……」


「こんなのおかしい。詐欺だ。不正だ。僕は認めないぞ」


「黙れ、この大罪人めが!」


 ガルラントは瞬間的に沸点を超えた。

 噴火した火山みたいな剣幕で胴間声を轟かせる。


「衛兵よッ! イザック、ラウル両名を殺人未遂の罪で拘束せよ!」


「「ハッ!」」


 二人は衛兵の波に呑まれ、簀巻きにされて町のほうに引かれていった。

 実に痛快な幕引きだった。

 名奉行だな、ガルラント司祭は。

 あっぱれだ。


 さて、問題はセーナの合否だが……。

 いかめしい眼帯顔がセーナを見下ろしている。


「その宝剣は生贄を捧げたことの証明だ。罪の証だ。本来は不合格を言い渡すところである。……だが」


 チラッ、とガルラントは俺を見て、


「若干のイレギュラーがあったようだな。冒険者より報告を受けている。聖女候補セーナよ、お前には合格を――」


「待ってください、司祭様」


 セーナが言葉を遮った。

 宝剣をガルラントに押し付け、震える声で言う。


「私は失格です。サポーターであるミトを生贄にすることに、私は反対しませんでした。聖女になる資格はありません。私は卑怯な魔女です」


 言葉の最後は涙声になっていた。

 ガルラントは少し迷った様子を見せてから、


「……ふむ。受験者の意思は尊重せねばならん」


 そう言い残して去っていった。


「ごめんなさい。あなたはたくさん頑張ってくれたのに」


 セーナに頭を下げられた。

 まあ、俺は自分の役目を果たしただけだしな。

 謝罪を受ける理由はない。


「でも、本当によかったのか? 聖女になりたかったんだろう?」


「……」


 セーナから返事はなかった。

 背中を丸めたまま、彼女は町のほうに足を向けた。


 追いかけようと思ったところで、豚の悲鳴みたいなのが聞こえてきた。


「マイアルぅぅ! おおお、マイアルうう! わしの娘ぇえええ! 愛しいマイアルよおおおお!」


 豚みたいなのがわんわん泣いている。

 たしか、あいつはこの辺りを納める領主。

 ケツゲパルス卿だ。


 傍らに寝かされている少女は血まみれだった。

 息が浅い。

 もう間もなく死んでしまいそうだ。


『ぐぬフフフ。競争相手も減ったことじゃし、これで、わしの娘が賢者になるのも確実じゃわい』


 権力を悪用して、娘を試験に送り出した結果がこれか。

 Sランクダンジョンは領主家のご令嬢に攻略できるほど簡単ではなかったというわけだ。


 とはいえ、見捨てるのもな。

 子に罪はないわけだし。

 周りには聖女候補の受験者もいるのに、雁首揃えて何もできずにいる。

 俺の魔力もそろそろ限界なんだけどなぁ。


「――『癒やしの聖掌』」


 治してやった。

 よかったな、俺が信心深い善良な人間で。

 これに懲りたら二度とダンジョンに入らないように。


「ぐぬフオオオオ! 聖女様ああああ……!」


 豚領主が顔をこすりつけてくる。

 聖女じゃないっつの。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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