16 階段の先で
「感謝するわ。おかげで、助かった」
セーナが結界を解いて立ち上がった。
亀モードはやめたみたいだが、今度は生まれたての鹿みたいに脚をプルプルさせている。
「あなた、本当に何者なのよ? 平然と迷宮主を倒すなんて」
「ただのサポーターだが?」
と、俺が言うと、
「そんなわけないじゃない。もしかして、サポーターのフリして試験に参加した潜入試験官とか?」
と勘ぐられた。
もちろん、そんなことはない。
「もう、あなたが三聖人になればいいのに。一人で全部できてしまうんだもの。きっとあなたみたいな人がふさわしいのよ。私は何もできなかったわ……」
セーナはふさぎ込んでしまった。
まあ、お前はイザックたちより見所がある。
迷宮主がアンデッドならイイ線いったかもな。
「いやぁ、まさか倒しちまうとはなぁ」
壁の穴からガッスたちが手を振っている。
「オレらも参戦しとくんだったぜ。迷宮主討伐は冒険者の誉れだしな。ま、坊主一人で十分だったみたいだが」
たしかに、ボスと言う割には歯ごたえがなかった。
盾以外の武器が真価を発揮していたら、もう少し手こずったかもしれない。
「でも、残念だったな。このダンジョンには宝物庫がねえ。迷宮主を倒してもお宝は手に入らねえぜ?」
「ガッス、そのことなんだが……」
俺は祭壇を見渡して、うーんと唸った。
これまでの扉には祭壇が設けられていた。
祭壇と扉はセットだった。
つまり、
「ここに祭壇があるってことは、どこかに扉があるってことじゃないか?」
そして、生贄を捧げることで扉は開かれる。
生贄、か。
俺は千手観音に目を向けた。
バラバラになった体が急速に風化して砂のように崩れていく。
そして、
ゴゴゴゴゴ…………ッ!!
祭壇が横に滑り出して、下から下層に続く階段が姿を現した。
ヒュー、とガッスが口笛をふく。
「きっと宝物庫だぜ! 迷宮主が最後の生贄だったみてえだな!」
そうらしい。
宝物庫、……お宝か。
そういえば、俺の育った教会は経営が火の車だったな。
お宝を持ち帰ればミルカや義弟妹たちも喜ぶだろう。
「オレたちもちょうど仕事が終わったところだ。坊主の冒険に付き合ってやってもいいぜ?」
「とか言っているが、ガッス。あんた、お宝が欲しいだけだろ」
「そうとも言うなぁ!」
ガハハハハ、と裏表なく笑っている。
セーナはどうだ?
「付き合ってあげるわよ。どうせ私の実力じゃ一人では地上に戻れそうもないし。それに、あなたも私に付き合ってくれたもの」
とか言って、セーナもお宝に興味があるだけだろ?
と冷やかすと、脇腹をゲシッと殴られた。
普通に痛い。
というわけで、階段を駆け足で下りていく。
「罠とか警戒しなくていいのか?」
不安になって訊いてみると、ガッスは、
「宝物庫に罠はねえんだよ。お宝が逃げねえうちに走れ走れ!」
と、子供みたいにはしゃいでいる。
そういうことなら、俺が一番乗りだ。
長い階段を駆け下りた先に開けた空間が見えてきた。
俺は勢いそのまま走り幅跳びの選手みたいに跳躍した。
切った風が気持ちいい。
でも、シュタッと着地した床が赤黒く光った。
ズゥーン。
背後で重い音。
振り返ると、今通り抜けたばかりの階段が岩の壁で塞がれていた。
なんでだ?
退路がなくなったんだが。
一同、揃ってポカーンとする。
ズズズズズズズ…………。
今度は前方から重いものが持ち上がるような音が聞こえてきた。
見れば、小山みたいな大きさの龍が鎌首をもたげているではないか。
「ぎ、銀狼龍シルバーフェンリル・ドラゴン……」
ガッスがしぼり出すような声で言った。
龍の後ろには黄金の扉が見えている。
いかにも、宝物庫といった外観だ。
なら、シルバーフェンリル・ドラゴンはさしずめ宝物庫の番人といったところか。
「こいつが真の迷宮主だ」
ガッスが唸り、俺は心の中で叫んだ。
ええええー、またかよぉ……!!




