15 迷宮主と宝剣
最奥の間。
やはり祭壇があり、迷宮主はそのド真ん中に鎮座していた。
千手観音みたいな奴だ。
腕は8本しかないから、タコ観音だな。
蜘蛛でもいい。
「別に襲ってきたりしないのね」
しばらく、呆然と向かい合ってからセーナがそう言う。
「そうみたいだな」
おそらくだが、祭壇に上がるとボス戦が始まるのだろう。
触らぬ神に祟りなしだ。
お宝もないみたいだし、持つもの持ったらさっさと帰ろう。
で、宝剣はどこだ?
「祭壇の上にあるわね」
「そうみたいだな」
宝剣が何本か並んでいる。
千手観音へのお供え物みたいな形で。
勇者の聖剣を模して作られたというだけあって、刀身は黄金だった。
たぶん、儀礼とか行事とかで使う祭祀用の剣だろう。
「どうする?」
「サッと行って宝剣を持ってすぐに戻れば大丈夫よ。迷宮主って最奥の間から出てこないものだし」
雑な作戦だな。
別にいいけど。
「あれを取って、祭壇を下りて、壁の穴に戻る。あれを取って、祭壇を下りて、壁の穴に戻る……」
セーナは脳内シミュレーションを重ねている。
必死に頑張る人を遠巻きに見ているのは楽チンでいいな。
「……ん?」
足元に縄が落ちているのを見つけた。
先端が輪になっている。
まるで、投げ縄みたいだ。
見たところ、真新しい。
前に来た受験者が残していったのか。
何に使ったんだ?
投げ縄だから投げたんだろうけど。
「行ってくるわ!」
セーナは脱兎のごとく駆け出した。
一直線に宝剣を目指す。
迷宮主に動きはない。
が、祭壇が赤黒く光り始めた。
「あ……」
そういえば、忘れていた。
祭壇には生贄を逃がさないための結界があるんだった。
「きゃあ!?」
やはりと言うべきか、セーナは透明な幕に弾き返された。
例のごとく、一方通行のやつだ。
同じ轍を二度も踏むなんて愚の骨頂だ。
俺たちには優秀な賢者のお目付け役が必要だな。
前に来た受験者たちは祭壇の下から投げ縄を投げて宝剣を引っ張り出したのだろう。
あっぱれ。
拍手を贈らせてもらおう。
そして、迷宮主が静かに動き出した。
セーナが悲愴な顔で俺を見つめてくる。
……が、彼女は自分の頬をバチンと叩いて、迷宮主と向き合った。
助太刀無用って話だから、俺も見守らせてもらおう。
千手観音が8本の腕にそれぞれ武器を握った。
剣、刀、戦鎚、鎖鎌、杖、盾、壺、斧。
いかにも強そうだ。
「聖女の魔法『弔いの光芒』!!」
セーナの杖からまばゆい光りが放たれる。
ただ、千手観音にはそよ風ほどの効果も見られない。
アンデッドを倒す魔法だっけ?
これで、相手がアンデッドではないことがわかった。
それで?
次の手は?
「せ、聖女の魔法『聖なる御盾』! きゃああああ!」
結界を張って、亀みたいに閉じこもった。
千手観音が文字通りのタコ殴りにしている。
「どうする? 助けに入ろうか?」
控えめに訊いてみると、
「た、助けて。お、お願い……!」
涙目で懇願された。
オーケーだ。
俺はむっつり眼鏡と違ってマニアックな対価を求めたりしない。
無償で助けてやろう。
「『陽炎彩槍』! 『雷蒼撃』!」
俺は結界に飛び込み、続けざまに魔法を放った。
上級魔法の二連投射だ。
迷宮主とはいえ、ただでは済まないだろう。
と思ったが、千手観音は腕を折りたたんで守りの姿勢を取った。
盾だけがスーッ、と前に出てきて、
キン――。
魔法が跳ね返された。
盾の結界で魔法を反射したようだ。
なら、俺も反射する。
「聖女の魔法『聖なる御盾』」
祭壇を囲む結界のせいで逃げ場をなくした魔法がピンポン玉みたいに跳弾している。
室内でやるテニスみたいなやつ、なんだっけ?
スカッシュ?
あんな感じで魔法のラリーが始まった。
「きゃあああ!!」
助けに来たはずの俺がセーナを殺しそうになっている。
もう少し、亀になっててね?
「シーバ、結界を噛みちぎってくれ」
「きゅわん!」
シーバが『霊体化』して飛び出していった。
魔法の乱反射をすり抜けながら、盾の結界に食らいつく。
バリン――。
地面に叩きつけられた鏡のように、結界は粉々に砕け散った。
さすが聖獣だ。
これは、結界破りの専用技だ。
『破壊の牙』と命名した。
名前をつけるのは大事だ。
固有の技として、体系化されるから。
要するに、コピーしやすくなる。
よって、同じことは俺にもできる。
犬っぽくなるからやりたくないけどな。
盾を失った千手観音は乱反射する魔法の雨になぶり尽くされて、バラバラに砕け散った。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!
少しでも「面白い」と思っていただけましたら、
『ブクマ登録』と下の★★★★★から『評価』をしていただけると嬉しいです!
よろしくお願いします!




