14 炎のオットセイ
「あなた、何者なの……」
セーナの声は震えていた。
俺が体を向けると、彼女はびくりと肩を跳ねさせた。
「剣も魔法も超一流、そのうえ聖女の魔法まで使えて、聖獣を従えているなんて。まるで、伝説にある勇者様じゃない」
勇者ってそういうものか?
俺は聖剣とか持ってないけどね。
それに、桃の中でどんぶらこした覚えはない。
普通に可哀想な感じで路地裏に捨てられていた。
通行人にも汚いものを見る目で睨まれたからな。
俺はただのモノマネ名人だ。
それだけだ。
これ以上、問いただされるのも面倒なので、話をそらそう。
「そろそろ、下りてきたらどうだ?」
俺は上に向かって声を張り上げた。
「ほう。オレたちの潜伏を見破れるのか」
くぐもった声の後、天井の石材がボコッと外れた。
ロープが垂れてきて、スルスルと冒険者が3人下りてくる。
「驚いたぜ。ヤバくなったら助けに入るよう言われてたんだがな。まさか、自力でどうにかしちまうとは」
崩れた壁を覗き込んで、リーダー格らしき男が感嘆のため息をもらした。
獣人だ。
えらくワイルドな風貌だが、気さくな雰囲気がある。
「どうやりゃ、この壁を素手で破れるんだ? 意味がわからねえな」
その話はもうやめてくれ。
それより、訊きたいことがある。
「助けに入るよう言われていたって、どういう意味だ?」
まあ、あらかた察しはつくのだが。
俺の脳裏にはガルラントの眼帯顔が浮かんでいた。
おっかない顔だが、サポーターを生贄にするような人物には見えなかった。
「ま、坊主が察しているとおりだ。ガルラントの旦那はサポーター連中が割りを食わねえように救助隊を用意していたのさ。それがオレたちだ」
ま、坊主には必要なかったらしいがな、と男は自嘲気味に笑った。
安心した。
帰ってからどんな顔でガルラントを見ればいいか、上げた拳を振り下ろす場所に困っていたところだ。
「オレはガッス。ベルトンヒルじゃ、それなりに名の知れた冒険者だ。知らねえか? 『炎のオットセイ』ってパーティーなんだが」
知らない。
けど、聞いたことがあるようなー、という顔をしておいた。
名前の由来が気になるところだ。
「それで? 坊主はどうするんだ?」
どうすると言いますと?
「その崩れた壁の向こうが最奥の間だ。坊主に救助がいるとは思えねえが、他のサポーターみたいにオレらが地上まで送り届けてやろうか?」
俺に宝剣は必要ないしな。
帰るかな。
返事をする前にセーナに視線を向けると、彼女は最奥の間を見つめていた。
「私は進むわ。なんとしても宝剣を持ち帰らないと。私はどうしても試験に受かりたいのよ」
そうか。
「なら、俺も残る」
「え、どうしてよ? あなたが危険を冒す必要はないでしょう? この先には迷宮主もいるのよ?」
「そんなこと言われてもサポーターだからな。受験者のサポートをするのが、俺の仕事なんだ」
ガッスたちも危険を冒して救助を引き受けているわけだし。
俺が仕事を放棄して、彼らの仕事を増やすのは褒められたことじゃないだろう。
それに、セーナも心配だしな。
無茶しそうな顔をしている。
「そういうわけで、悪いけどガッス」
「おう! オレたちは引き上げさせてもらうぜ? お前のまっすぐなところ、気に入った! まだ、しばらくこの辺にいるから、何かあったら呼んでくれ。助太刀してやるよ!」
そう言うと、忍者みたいな軽やかさでロープを登っていく。
最後に一つ訊いておこう。
「迷宮主って強いのか?」
「まあな。まだ誰も倒したことがねえ。というのも、この迷宮には宝物庫がねえからな。命かけて迷宮主とやり合う理由がねえのさ」
なるほど。
お宝なしの迷宮か。
金にならないから、試験地として体よく使われているってわけだ。
「それじゃ、気ィつけろよ!」
長い犬歯をキランと光らせると、ガッスは天井裏に消えていった。
「じゃ、セーナ。お前のタイミングで突入していいぞ」
どうぞどうぞ、と俺は壁にあいた穴を譲る。
「礼を言っておくわ。あなた、いい人ね」
ふふ、と少しばかり口元が緩んだ。
しかし、すぐに引き締めて、
「これは私の試験よ。あなたは手出ししないで。約束よ?」
「了解だ」
でも、いざとなったら構わず助けに入るぞ?
ま、宝剣拾ってトンズラするだけだ。
ボス戦になるとは限らないけどな。




