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パラレルワールドハレム  作者: 和泉日生
7/18

第六歩 前を向いて

正月元日から投稿予定でしたがあまりに大きなことが起きすぎて控えていました。皆さんの無事を祈ります。

幾日かのちのアンリの授業を受けた後、フィレリアさんに呼ばれていた。

教会で行ける場所は制限されている。毎朝に渡される蠟板をもとに所定ルートで移動している。研究所も似たように機密のため移動ルートを制限されてたな。

そんなこんなを考えてたらフィレリアさんの執務室の前に立つ。


「失礼します。」


俺はノックするとフィレリアの部屋の中に入る。フィレリアさんは書類に落としていた視線をこちらに向けてくる。笑って俺を歓迎してくれた。優しげなその顔は黄色い菜の花の花畑を見た時のように癒される。


「授業はどうですか?」


フィレリアさんはお菓子を棚から取り出してすでに湯気の立たない紅茶をポットから二つのカップに注ぐ。この近くに湯を沸かせるかまどみたいなものがないから仕方ないけど物悲しいな。


「そうですね。感じたのは教会のゆがみですね。村落と都市は敵対していますね。貿易こそしていますが都市は村落に対してリスペクトはなく突き放している。できれば自分たちの文化圏から排斥しようとしている。それなのに教会は都市から生まれて都市の支援で成立している。いつ壊れてもおかしくない歪みだ。」


政治的に不安定でいつ崩れてもおかしくない・・・。ってフィレリアさんは困ったように笑う。


「えっと面白かったこととか興味をひかれたことは・・・。」


「任務ですので。」


フィレリアの心配そうな目が俺の義理の母を思い出す。・・・いやよそう。


「任務ですから。楽しいとかないですよ。」


ついそっけない返事をしてしまう。一人で落ち込んでそのせいでぶっきらぼうになるのは直したい。


「レイナたちと仲良くするのも楽しくなかったの?あれも任務ですよね。」


初日の授業の後レイナたち一部の人とだけ交流する機会をもらえた。どうやら都市にソロルスのいない子たちのようだった。盗賊をやっていた子かつて傭兵団いて全員が都市の軍隊に吸収されて離別した子。すれ違いでソロルスを抜けた子。いろんな人がいたこの世界を教えてもらえた。みんな見方が違ったあの時間は楽しかったでも任務のためだ。


「楽しかった思い出は簡単に消えてしまいますから。」


すぐにつらい明日に上塗りされてしまう。裏切られてしまうかもしれない。任務の成果として受け取った方が痛みは少ない。


「前からちょっと気になっていたのですが。ケイさんは何となく任務に固執してますよね。理由を聞かせてくれませんか。」


その笑顔に義理の母の顔を重ねてつい口を開いてしまう。


「大したことじゃないんです。本当に大したことじゃないんです。聞いてもその程度かって笑っちゃくらいですよ。」


予防線などではない本当に大したことのない。ただ俺にクリティカルだっただけのこと。


「大事なのは他人ではなくあなたです。」


俺はトロイメライで生まれた唯一の男だった。人工子宮から取り上げられたとき相当な騒ぎになったみたいだ。勿論貴重なサンプルだ常に研究対象になっていた。物心ついたときは義理の母のもとにいた。最近教えてもらったが生まれた時俺を処分する案もあったらしいただ義理の母ユキハナさんの反対で生きてこれたらしい。そんな経緯もあって俺はユキハナさんと一緒に暮らしていたユキハナさんともう一人の母と一人娘の子四人で俺たちは暮らしていた。小さい頃は研究者がたまに家に来て俺の研究をした。その中にはセンさんもいた。研究員は無機質で事務的で幼い俺には怖かった。いつもユキハナさんに慰めてもらった。小学生になったとき俺は家を離れさせられた。研究施設で教育されることになったからだ。平日は朝から夜までスケジュール通りに勉強からスポーツ、怪しい実験までやらされて休憩時間も管理され自由な時間はなかった。休日も半日は同じようなことをやらされて休日らしいこともデータを取られ続けていた。プライベートなんてない。羽を広げられる大きさがあるだけの鳥かごだった。そんな中にも楽しみはあった。約束そしてご褒美の遊園地だ。約束は俺ががんばったらユキハナさん一緒に働ける研究者にしてくれるというもの。研究者は敵で同年代の子も助けてはくれない。唯一のよすがは義母さんユキハナさんだけだ。だから一緒に研究することが目標になっていた。もう一つの楽しみの遊園地は本当に解放される瞬間だった。相変わらず研究員はついてはいたがその時は彼女らもその時は笑顔だった。心の底からみんなで楽しめてうれしかった。そのときの研究員の顔をみると本当は敵じゃないんじゃないかと思ったぐらいだ。それに当時のユキハナさんは遊園地に勤務していた。そこで電脳上に住む人たちに科学の面白さを伝えて科学を志す道しるべを示していた。トロイメライでは大半の人が電脳上で生活している。研究者など少ない人だけが現実に生きているから勧誘の必要があったそれがユキハナさんの仕事だ。俺は遊園地でユキハナさんとあったとき実験のまねごとをしていた。そのときだけ目標の達成を前借していた。


『遊園地でとれるデータは収集し終わりました。』


長い間遊園地に行けていなくておねだりをしたときに帰ってきた答えだ。


『でも・・・。おれ将来科学者になるから!予行演習がしたいんだ!』


『あなたはその必要はありませんから。適性がない以上あなたは研究者になれません。』


『でも!約束したじゃん!それだけが希望で頑張ってたのに!』


そうだ!研究主任もみんなの前で言ってくれた。


『適性があればの話ですよ。これ以上手間をかけさせないでください。任務なんですよ全部。』


あの時はごみを見る目だった。本当なんだとそう理解した。あの遊園地の笑顔も。任務。そうか、心が苦しむくらいなら生きてることユキハナさんたち家族以外のことは全部任務だと思えば苦しくないんだ。目標も今も失って俺はそう思うことにした。

そこからもずっと任務ばかりの人生。指令で受けた研究データの提供を続け。命を懸けるシィクロウィーンに対する防衛部隊すら自分の意思なく入隊した。幼馴染の一人には泣かれ心は痛んだがそれでも任務に心は持ち込まなかった。


「大した話じゃないですね。この前の襲撃で仲間を失った教会の人がいるんです。」


そう幼い時のちょっとしたトラウマ。本当に苦しい人とは違う。大したことないと笑い飛ばしてほしいことだ。


「いえ。大事なのは他人じゃなくあなたがどう感じたかです。それにこの前の襲撃もあなたのそれも等しく人の心を蝕みその形をゆがめる傷です。それに大きさなんてつけてはいけません。」


大きさはないか・・・。言葉は理解できる。人を傷つけるのに大小なんてない。あってはならないでも感情はそう思えない。


「任務の後の楽しみはありますか?」


えっ?と俺は間の抜けた声を上げてしまう。まるで夢中になって冷めた紅茶で時間の経過を知ったときのような声だ。

任務(・・)は(・)ですよね。ならプライベートがあるでしょう?幼年期はそんな時間はなかったようですが。ストレスが命取りになる警備隊になった後はそんなことはないと推察しますが?」


確かに15歳で警備隊に入ったときプライベートが与えられた。といっても勉学もあったから多くはなかったが研究漬けから解放された。どうやら社会性の観察といった名目があったみたいだがそれでも自由だ。しかし突然渡された休暇は俺に戸惑いを与えた。ただ泣いてくれた幼馴染の尽力で休暇の使い方を教えてもらえた。


「ですが・・・。それと今の話に何のつながりが?」


「なら楽しみ方はまだ覚えてますね。それを任務に持ち込むだけです。そして任務の時の特別な楽しみがあるんですよ。誰かに認めてもらううれしさがあるんです。ケイさんも任務の中でだれかからありがとうと言われたことはないですか?」


それはないわけじゃないでも。社交辞令だよ。・・・社交辞令だ。


「任務です。そこに感情はありません。」


「でも任務の研究員さんの言葉で傷ついたように、任務で助けた人からの感謝で頑張れたことはないのですか。」


なにもいえない。いくら自分で御そうとも俺はただの若造だ。モチベーションにならなかったと言えば噓だ。でもそれは過度な期待とショックに続くものかもしれない。


「そうですか・・・。では私からケイさんに頼みたい任務があります。」


フィレリアさんが言い終わるのが先かレイナが扉を勢い良く開けて入ってくる。いつの間に外に待機してたんだ。


「ケイさんは裏庭で野菜を育てているネイリマさんを手伝ってあげてほしいのです。」


「分かりましたがいいんですか外での活動は誰かに見られるかもしれませんよ。」


都市に俺の存在を知られたくないらしいが、外出はその危険が大きい。


「大丈夫ですよ。生物の侵入を感知する石があります。それが裏庭のさらに外に配置されてますから侵入は難しいですよ。レイナもいますし。」


(そんな石があるのか。)


「では行ってきます。」


「いってらっしゃい。」


農作の手伝いは初めてだ。そもそもトロイメライはほとんどの人がカプセルの中に入り電脳世界に生きている。大体の人は液体で栄養摂取している。それ以外の人も工場で作った野菜で土で作るのは知識でしか知らない。

レイナに着いてきて一回に降りて来ていた。中庭から大聖堂に立派にたたずむ塔をみてふと疑問を覚えた。


「レイナちょっと質問してもいいか?」


実はレイナとメーフィアには敬語をやめた。というより最初はそうだったのを戻しただけだけど。


「ん~?何用ですかなー。」


レイナはお気楽そうだが周りをよく見ながら答える。


「このあたりで一番高い建物は大聖堂の塔だよな。それで雷は高いところに落ちるだろ。」


「そそ。雷様は馬鹿からおへそを引きちぎるために高いところに落ちるね~。」


斬新な発想だな。


「じゃああの塔は割と頻繁に焼け落ちるのか?」


そのたびに再建するのか?教会の目的を考えればそんな財政的余裕はないように見えるが。


「当然避雷石を使ってるけど。」


「避雷石?」


自然の避雷針みたいなものだろうか。


「あなた様の世界にはないの?避雷石?」


毒のこともそうだけどこの世界にはトロイメライにはない。けどこの世界の石は特に特色がある。毒は同じ役割のものがあるが石は特異性が強い。それにこの世界の利器として使われている。

そんなことを考えているうちにレイナは説明を続ける。


「奇石って呼ばれてる石の一つ。。避雷石はね~雷を吸収するんだ~。」


吸収する?電気を吸収できるのか。避雷針は逃がすものだ雷のエネルギーはもちろん高いそんなものを吸収できるのか。


「不思議そうな顔だね~。あなた様。きぱ~って光ってしゅりしゅり~って吸収するんだよ?」


「本気で言ってるのかそれとも技術的に解明できてないから見た感想を言ってるのか。」


その方が自然だ。でも決めつけるには材料が足りない。


「吸収した雷ってどうなってるの?溜まったままだとパンパンになって突然石が割れて大惨事なんてならない?」


「なんかわたしたちの事舐めたようなこと言ってるね。大丈夫。広い地面で上から雷打ち石のついたハンマーをえいって振り下ろしてばりべり~ってできるんだ~。」


マジで電気を吸収してるのか・・・。ていうかそれだけのエネルギーを簡単には気だ出せられるのか?指向性とかで放出できる方向を決めれるのかな。しかしとんでもないもん自然界に落ちてんなクレイン・・・。


「ちなみに~この石には逸話があってね~。」


「なっなんだ。」


レイナはお化けみたいな手の形を作ってにったりと笑う。


「この石は高い建物のある教会とか都市とかで重宝されるんだけど産出地は北のほうの村落でね~運んでこなきゃいけないんだけど。その道中悪夢を見るんだって~昔の辛かった記憶が思い返されるんだってね~。だから夜鏡って言われてて。嫌われてるんだよね~。」


「ほんとうかー?」


正直安心した。何だそんなものか。正直オーバーテクノロジーな素材だからどんなことがあっても驚かない。


「暗に都市に運びたくないって言ってるだけじゃないのか~?教会ができる前の噂がひっこみつかなくなるなんてのもありそうだ。」


レイナはむかつくため息のつき方をしてこっちを見てくる。オタクに分かってないわ~って言われたときに近いな。


「つまんないな~。もっとロマンある答えできないの?」


二人で歩いているとレイナがフフッと笑う。


「任務でも楽しめてるじゃん。」


聞いてたのか。でもそういうことじゃない。


「楽しめてはいるさ。裏切られるのが怖いから一瞬のおもいでにしてるだけ。」


俺は思いがけず声のトーンを落としてしまう。レイナがそれを見てまずいと思ったかをで見ている。こっちも暗い空気にしてまずかったな。


「そうだ!トロイメライってどういうところなの?」


レイナがざっくりとした質問をしてくる。個別指定で俺の地雷を回避するには最適だしありがたい。


「どういう所言われると難しいけど。クレインとの一番の違いを挙げるとしたらほとんどの人が電脳空間に住んでいるところかな。」


「電脳世界?」


レイナの頭ははてなだらけだ。そりゃそうだトランプのない世界から迷い込んでも貧弱な兵隊とハート好きの女王にしか見えないのと同じだ。


「夢の中みたいなもんだよ。ずっと夢の中にいてそれをみんなで共有している感じだよ。」


レイナはうーんと想像を巡らせている。自分の夢を思い出しているのだろうか。


「ん?てことはみんな働いて無くない!?」


驚いてる。そりゃ驚く俺だってこんな立場じゃなかったら働きたくない。資源不足なうえ多様化が進み過ぎて現実世界ではその欲望に対応できない。それ故に栄養補給手段などを単一化とオートメーション化して一部の人間を除いて仕事もしなくていい電脳世界に住み込んでみんなそれを肯定している。


「私たちなんて働いてない人がいないくらい無駄な人がいないくらいなのにね。・・・ほとんどの人はね。」


後から思い出したように訂正するレイナ。そりゃ犯罪者とかそういう人はいるだろう。


「昔は俺たちの世界にも無駄な人はほとんどいないって時代はあったよ。理由はこの世界と違って世界中と競い合わなきゃいけない状態だったけど。無駄な人がいないから駄目になったよ。」


レイナがまた?だらけになる。そりゃそうだ住んでる俺だって理由を聞かなきゃわからなかった。


「みんな働いて無駄な人がいないってことは冗長性がないってことだよ。みんな働いてそれに時間を取られてるから突発的なものだったり、子育てみたいなイベントに対応できない。効率的とは一側面から見たもので他の事との兼ね合いを考えれば非効率にも程がある。らしいよ。」


適者生存とはいかに無駄な機能があったかだ。栄養的に最適な食品一つだけ食べれるよりいろんなものを食べれた方が環境の変化にも対応できる。

進化なんて簡単にしないから環境に適するなんてできっこない。運ゲーだ。かつて現実で競馬を行ってた時も足の速くなるように掛け合わしていても進化なんて言えるほどの変化はなかった。狙ってそれなんだから不意打ちのように来る環境の変化に生物が応えて進化できるはずがない。


「そんなもんなんだ。」


とレイナが言った瞬間真剣な顔です俺を制止する。そよ風を巻き起こす速さで俺の耳元に近寄りささやく。普段であれば照れそうな場面だけどあまりの速さに熱くなるどころか首筋が冷えた。


「メーフィアったら自主練終わりに昼寝してる。」


指さした方向を見るとレイナの言う通りメーフィアが中庭にある修練場の横の休憩用ベンチにお手々を膝に当ててピンと姿勢を正してキレイに座りながら寝ていた。


「幸せそうだな。」


ありきたりなセリフしか出てこない。でも大変な訓練の後の昼寝はその一言だけなんだよ。


「ねぇ~?ちょっと賭けてみない~?」


レイナは邪悪そうな顔でニタニタ笑ってる。


「なにを?」


「メーフィアはこの後大事な仕事があるんだな~。それまでに起きるのか?それともすやすやのままか?天国からくるっと地獄に落っこちちゃうか予想しない?」


「シスターが賭けなんてするなよ。」


さすがに邪悪すぎる。友情に亀裂が入るとかいうレベルじゃないぞ。


「起こそう。ここのみんなは優しいから地獄行きにはならないだろうけれど。そんな人たちに迷惑はかけられないだろう。」


「つまんないな~。私は起きる方にかけようとしたのに。」


それ最終的に間に合わなくなる前に起こす気じゃなかったのか?


「まぁ、メーフィア以外が嫌な思いがするのも嫌だしね。」


レイナは俺の背中を押す。ツンデレか?ツンデレだな?

俺はメーフィアのそばに近寄る。しゃがんで目線を合わせてからそおっと声をかけた。


「メーフィア。メーフィア。」


ん?誰ですか?とメーフィアが寝ぼけたまま目をこすりながらゆっくりと顔を上げる。


「あぁっ・・・ケイさん・・・。」


トロっとしたまま俺に話しかける。まるで猫が熟睡したときの起きかけのようにまったりとした顔で見てくる。


「はっ!ケイさん私の寝顔かわいかったですか!?」


何言ってんだこいつ・・・。心の中で思ったが顔には出さない。


「どうしたの?」


「あっ!何でもないです。忘れてください。」


彼女の顔は羞恥にまみれた朱色ではなく暗く沈んだ灰色だった。なんか地雷を踏みそうな気がする。


「えと、鏡使う?」


俺は自分の髪を指さしてポケットから手鏡を取り出す。女子だらけの世界で学んだとこの一つに鏡は持っとけということがある。


「あっ!ありがとうございます。」


メーフィアは今度こそ顔を朱色に染めながら手鏡を受け取る。

俺が立ってから背を向けるとそそくさと髪型を直している。


「もう大丈夫です。」


俺は再び振り返るとメーフィアはおずおずと手鏡を返してくれる。


「かわいいですよ。」


そう言ってみるがまたメーフィアの顔が曇る。しまったつい定型文を言ってしまった。


「そんなことは・・・。」


メーフィアはごまかそうと横に置いてあったコップを手に取る。中には水が入っていた。


「もうぬるくなっちゃってますね。」


「じゃあ俺が取ってくるよ。確かあっちに井戸があったよね。」


俺も気まずいし寝起きの子にゆっくりさせてあげないのは条約違反だ。俺は井戸に進もうとするとメーフィアが袖を引っ張る。


「待ってください。わがまま言って申し訳ないですが一つまみお塩を入れてもらえますか?お塩を入れると疲れが取れやすくなったんです。」


多分身内のいたずらが正解を引いたんだろうなーと彼女の騙されてきた遍歴から推測できる。


「了解しました。」


水をもって戻ってきたらレイナが近くまで来ていた。


「そうだメーフィアはお買い物係のご褒美で買うもの何にするか決めた?」


お買い物係。聞きなれないけど何を意味するかなんとなく分かる奴。ラテン語圏的な。


「そうだ忘れてました。えっとですねぇー・・・。実はまだ決めれてないんです・・・。」


メーフィアは悩んでいるようにうなだれる。期限を決められて欲しいもの買うのって難しいよね。


「なんでもいいじゃん。ほらクリューソスで流行ってるヒルメスの人形とか。」


「えと・・・。お買い物係ってなんだ。」


何事もなく輪に入るの気まずいので俺はそういいながらメーフィアの近くに水を置いた。するとレイナが人差し指を立ててレクチャーするっぽいポーズをとる。


「私たちだって聖人君子じゃないからね~。半年ごとに数人だけ順番で決められた子が買い出しついでに好きなもの買っていいよーってイベントがあるんだよ。」


「これが楽しみだから大変なことのへっちゃらって気はしますねー。」


いいシステムだな。誕生日休暇みたいな嬉しさがある。


「ちなみに予算は使わなくなったものを売って稼いでいるんだー。私たちの場合はこの服だね。」


レイナは教会の兵士が着用している白いシスター服をつまむ。兵士以外の黒くてスカート型と違ってレイナたちの着ているのは白くてズボンタイプの服だ。動きやすさのほかに傷ついている場所が直ぐにわかるようになっている。


「それ教会のものなのに売っていいの?」


「これ自体は売らないよ。訓練とかで破れたものを集めて加工して売ってるんだ。」


自分たちの努力がお金の形になるのか。いいな。


「レイナさんは寮のみんなのために黒板と筆記用具を買ってましたよね。」


えっまじか!半年に一度数人って自分の番来るのにどれだけ来るか分からないのにみんなのために買ったのか・・・。レイナの方を見ると頬が赤くなってた。


「ほらメーフィア時間だよ!訓練行きな!」


「あっそうでした!」


メーフィアは水をがぶ飲みしてから走り去っていった。


「もっと皆さんを守れるように頑張ってきますね~!」


「がんばれー。私も後で自主練するから一緒にやろー!」


メーフィアはいい顔でバック走してこっちを見る。


「そのころにはへとへとですよー。」


手慣れた二人のやり取りについほおが緩む。


「無理しないでね・・・。みんなを守りたいのはメーフィアだけじゃないから。」


レイナがボソッと呟く。俺が現れた日の襲撃を思い出す。そうだな・・・。あんなこと誰も望んじゃいない。


「メーフィアが言ってたかわいい顔で寝てたか?っていうのあれこの前の襲撃で亡くなった子にいたずらされてできた癖なんだよね。」


俺は目を見張るだけで何も言えなかった。そうかあの時の・・・。


「メーフィアは見ての通りいじられ役だからさ。よくさっきみたいに寝てるときに顔に落書きされたんだよね。それで今度もまたいたずらしてやろーって。でもみんなでメーフィアの寝顔見たときかわいくてね。寝顔見てた時起きちゃってメーフィアは焦ってたけどかわいくて落書きできないって言ったらそれからいたずらするかさせないかの勝負みたいになっちゃって。」


それからあの子の口癖になったんだ・・・。レイナは寂しそうに笑う。それからみんなの見守っている空を見上げる。


「さて、行こっか。」



***農園へ二人が踏み込む***


「ここが今日のお仕事場所!お農園じょうですわ~!」


さっきまでと変わって例はがテンション高く両手広げて農園を披露してくれる。


「結構いろんな野菜が育ってるな。見てて飽きないいいところだ。」


おれも彼女にこたえて笑顔で農園を見回す。思ったより教会の裏だったが思ったより近くだ。城砦の付近だと日照時間を確保できないからちょうどいい位置なのだろう。


「まだもうちょっと歩くよ。」


レイナに連れられ農園の奥に進む。最奥あたりに来たところでそこは他と雰囲気の異なる様子だった。ほかの区画は区画ごとに野菜を分けて栽培していたが、そこは比べて乱雑に野菜が育っていた。よく見れば野菜ごとにまとめられているが栽培数が少なくお試しでいろいろ育てているようだった。


「ネイリマさん連れてきたよ。」


レイナは農場で土いじりしている女性に向かって声をかける。麦わら帽子をかぶって長袖でまさに農家の挿絵で見た姿だ。しゃがんでいたネイリマさんは金色の瞳をこちらに向けてくる。純朴そうな目で土ぼこりを払ってこっちに駆け寄ってきた。


「きたか!ナメクジども!新しく塩をかけられる奴はそいつか。」


・・・。かわいらしい声とは裏腹に圧の強い叫びが俺を襲った。


「よろしくお願いします!」


つい反射的に言ってしまった。


「よし!まずは水やりを始めるぞ!ナメクジに肥料まきなど潰れてしまうからなぁ!」


「牧歌的だねぇ。」


口調は軍隊的なのにやってることが農場だからレイナが呟く。イタリアンでそばを食ってる気分だ。


「お前もだ!ケイに井戸の場所を教えてやってくれ。くれぐれも飲ませるなよ。倒れてはしごけんからな。」


「アドバイスしなくても。目の前で言ってるじゃん。」


レイナはネイリマさんに引っ張られることなく飄々と返す。はいはーいとレイナがポケットからハンカチを出して旗代わりに振る。案内してくれるみたいだ。しかし、どうしてかの仕事を俺にやってほしかったのだろう。外仕事はセキュリティの問題からできるだけ避けたいはずだけど。それでも俺に伝えたいことがあるのか。


「ここはどうしてこんなに小分けにいろんな野菜が育てられているんだ?」


俺は水やりを終えてレイナに聞く。こんなこと慣れていないせいでズボンに泥がいっぱいついて少し不快だった。


「ネイリマさんに聞けば?私はよくわかんない。」


そうだな・・・。でも世間話しにくいんだよなー。あの手のキャラの人は。

そう思いつつも次の指示もあるしネイリマさんを探す。

ちょうど見つけた時ネイリマさんとメリーさんと若草色のマントをまとった少女が話していた。


「ふむ。ケイもレイナもよく働いているようだな。上々である。」


メリーさんが俺に気が付いて話しかけてくる。どうも。と俺が会釈をするとメリーが肩を掴んでくる。痛い痛い!力任せに俺を引っ張る。


「ちょうどいいお前たちも来い。」


それって引っ張る前にいうことだろ。


「待ってください。ネイリマさんに聞きたいことがあるんです。」


引っ張られたことの抗議もかねてメリーさんに要求する。引き出し不足の俺に目上の人に対する静かな反論はこれしかない。立ち回りの上手い人ってあこがれるよね。


「早急にやらねばならない案件がある。あとで時間は作る。」


偉い人特有のカウンターに対する返答の正解って何なんだろうね。

そう思っていたらメリーさんが肩を離して目的地に着く。


「すこし寄り道だが許容してくれ。」


俺が立っていたのは先ほどの区画の外側ぽつんと三本のレモンの木が植わった場所だった。農作業の導線も考えられない位置にあるそれは私的に育てているものに見えた。


「虫を排除する。苦手なら目をそらせ。」


そういうとレモンの木についている虫を地面に捨てて踏みつける。


「レモンは教会の長が好んでいたんだ。」


フィレリアさんとは言わなかった。彼女でない誰かを指しているような気がした。

さて行こう。黙とうするように静かに空を見た。メリーさんはすぐに歩き出す。俺とレイナ、若草色のマントの少女が続く。

メリーさんはレモンの木のさらに外農場の端で歩を止める。生け垣が農場と外を区切っていた。


「罠の整備を行う。手本を見せるのでよく見るように。」


センサーは人型以上が対象だったっけ。それに見れば捕えるための仕組みがある。疎密で言えば若干疎寄りの生け垣の隙間に見える罠をよく見る。ロープが張られていて鳴り物が鳴るようだった。メリーさんが鳴らすと爆音が鳴り響く。なるほどこれで追い払うのか。・・・設置したては教会で騒音クレームとか来たんだろうな。多分調整の末今がある。

しかし・・・。


「メリーさんがこんなこともやるんですね。部下の方がやるものだと思ってました。」


俺は疑問を口に出す。多忙そうな彼女に雑事は負担が大きそうだ。


「ふんぞり返っているよりこういう事も率先してやらなければいざという時に部下が粉骨砕身戦ってくれるとは思えん。上司が部下の立場に立ってくれるからいざという時の絆が生まれるものだ。戦時に指揮官用のテントに引きこもらず皆と共に夕餉を囲むのと同様に普段でも部下との向き合い方の姿勢が大事だ。」


俺の時代ではありえない。だけれど素直に納得できる。


「さて手段は分かっ・・・。」


けたたましい爆音が響く。


「何だ!」


メリーさんが叫んで原因の方へ振り向く。がさがさと動くものは獣のように黒っぽくはないむしろ・・・。灰色の・・・巨体!


「シィクロウィーンだ!」


なぜかシィクロウィーンがロープで転んでいた。明らかにギャグだったがシャレにならない。


「メリー団長下がって!ニーヴェリア!武器とってきて!」


レイナが前に出て俺たちをかばう。若草色のマントをした少女ニーヴェリアは農場のほうへ走っていく。


「どうしてここに。」


俺の疑問にメリーさんが応える。


「前の襲撃の時怖気づいて逃げ損ねた間抜けであろう。自己紹介のような登場だったな。」


シィクロウィーンは生物のように個体差がある。とんでもない間抜けがいたのか。だとしてもこいつは化け物だ。木に挟まっている熊がいても笑えるか。


「レイナ。一人で無理をするな。」


メリーさんが一歩踏み出す。


「時間稼ぎくらいは手伝わせてくれ。」


俺も同じように踏み出す。メリーさんが懸念するように見てくる。


「技術は外付けだけどフィジカルは内蔵だ。避け続けるだけなら十分できる。」


「駄目!」


レイナはシィクロウィーンから視線こそ離さないが強く叫ぶ。強迫観念にでも縛られたような迫真の叫びだった。


「貴様とて教会の最高戦力だ。失うわけにはいかない。命令だ。ここは三人で時間を稼ぐぞ。」


それから問答する間もなくシィクロウィーン矢の如く俺たちに突進してくる。レイナが俺たちを抱えて飛び退ける。10メートルは空を飛ぶ。気にしていなかったが農園には人がたくさん働いていた。


「みんな!シィクロウィーンだ逃げろ!」


俺が叫ぶと働いていた人はざわつくシィクロウィーンが咆哮すると皆その方に一斉に視線が向く。事態を認識するとみんなが一斉に農具を投げ出し逃げ出す。とっくに着地していたレイナは俺たちを離して戦闘態勢を取る。俺とメリーも散開して


「畑は気にしなくていい。生き残ることだけ考えろ。」


メリーが忠告と同時にシィクロウィーンの攻撃を避ける。振り下ろされた腕は空を切り畑を爆発させる。地面が盛り上がり土煙と破砕した野菜が舞い上がる。


「こっちこいって!・・・うひゃあ!」


レイナが破砕された野菜を投げつけてシィクロウィーンの気を引き間抜けな声を上げて躱す。奴は血が頭に上りやすいのかレイナを執拗に狙う。ならば。


「こっちだ化け物!」


俺は放置されていたピッチフォークを手に取ってシィクロウィーンに突撃する。攻撃で一瞬止まったタイミングでやり投げ要領で投げる。


「ガァ!」


ピッチフォークが浅く突き刺さったシィクロウィーンは俺を見て激高する。よし。


「ニーヴェリアが来るまで三人でローテして気を引こう。」


「足元は不安定だ気をつけろ。」


ローテーションしてシィクロウィーンの攻撃を躱す。そろそろニーヴェリアが来ると思うが・・・。今はレイナの番だ。

業を煮やしたシィクロウィーンは逆にクレバーとなった。シィクロウィーンはレイナに土を巻き上げ暴れ始める。


「惑わされないから。」


レイナは冷静に距離を取って土煙を避ける。だがそれは別の目的を持った目くらましだった。シィクロウィーンは尻尾で掴んだピッチフォークを体を回転させた勢いでレイナの反対側にいるメリーに投げる。とっさにそれを躱したメリーは尻もちをついてとっさに動けない。ターゲットがメリーに向く。


「メリー逃げろ!」


盛り上がった土のせいでメリーはうまく動けない。


「あと少し耐えろっ!」


叫び声の方からニーヴェリアが来る。だが間に合わない。


「三対一を忘れるな!」


俺は横からタックルを仕掛ける。だが足場の不安定なタックルなどシィクロウィーンには効かない。ゆっくりと俺を見下ろすシィクロウィーン。大きい腕の影が俺の顔に落ちる。


「がっはぁっ!」


ぎりぎりと俺の首を空高く持ち上げ締め上げる。首を絞められたときの独特の苦しみが俺を襲う。目の前が明滅して喉はひくつくが空気が入ってこない。それでも体は酸素を求めてびくびくと痙攣する。首の骨を折るのではなく締め付けるのは仲間の助けを誘うためだ。


「ニーヴェリア!」


メリーが叫ぶ。ニーヴェリアは弓も持ってきているがつがえる様子はない。それどころか焦ることなくこの状況を観察しているように興味深そうな目で見る。


「ニーヴェリア!撃て!ニーヴェリア見捨てる気か!」


メリーが叫ぶ。レイナが見切りをつけてシィクロウィーンに突撃する。

俺の意識はそこで途切れた。



夕焼けが見える。雲一つない快晴の空だ。


「大丈夫ですか。」


もしかしたら天使の声かもしれない。優しい声に瞼を開くことを促される。


「アンリです。分かりますか?」


ひょっこりと顔をのぞかせてきたのは教師をしてくれたアンリだった。


「生きてたのか俺は・・・。どうなってたんだ。」


「レイナが素手で倒したそうです。安全を期すための武器ですから危険を犯せば可能らしいです。」


ゆっくりと俺の体を抱き起こしてくれるアンリ。


「首を痛めてますからゆっくり動いてください。大事に動けば支障がないようですが気をつけてください。」


「それにしてもどうしてアンリが来てくれたんだ。」


そっとアンリの方を向く。


「私はフィレリアさんにあなたの容態を報告するためにここに来たんです。ケイさんは迂闊に病床に運んでは部外者の目に入るかもしれません。ですから医者の方にこちらに来てもらって診察してもらう必要がありましたから。」


教会の病床に人が来ることはないだろうがそれでも念のため人の来ないここから動かしたくなかったのだろう。アンリの少し奥に医療鞄を携えた少女が座っていた。

首を気にしつつ周囲を見回す。槍を持ったレイナやメリーが見張ってくれていた。全員無事だったか。

あの・・・。とレイナがおずおずこちらを見て尋ねてくる。


「えっと、すみませんが私はフィレリアさんに目を覚ましたことを伝えなければならないので失礼させていただかせて大丈夫ですか?」


「大丈夫。急いで行ってあげて。」


「はい何かあればこの子に言ってください。」


アンリは医者の子を掌で指してから丁寧に立ち上がって立ち去っていく。

・・・。そうだレイナたちに挨拶してこよう。


「あっ!貴方様大丈夫?」


その呼び方をされるとまた照れてしまう。


「やだよ~。力足りず護衛対象が後遺症を残しちゃうなんて。」


レイナは俺の首筋をやさしく触れる。大丈夫だ。というと微笑んでまっすぐ俺を見る。


「それに俺が囮になるって言ったんだレイナのせいにはならないよ。」


「いやいやそれは貴方様の理屈でしょ?私は護衛の仕事があるんだから。」


そうだったね。ごめんというと以後守られてることを意識するようにと笑ってレイナが言う。了解。というが多分今後も守れない。


「大丈夫そうであれば私は引き上げさせてもらう。今日のごたごたで仕事が増えてしまってな。」


メリーさんが一言だけ言ってくるとさっさと引き上げる。


「ニーヴェリア?はどこだ。ネイリマさんに会う前に話したい。」


メリーさんが去ったあと見回す。さすがにあんなことをされて説明なしで収まるほど聖人じゃない。


「えっとこっち。」


レイナが複雑そうな顔で案内してくれる。理屈と理解の乖離っぽい納得のいかなさが顔ににじんでいた。

ニーヴェリアは倉庫で整理をしていた。


「大丈夫だったか。」


あっさりとした態度に少々イラっとしてしまう。


「きみが助けてくれればもっと大丈夫だったけどね。」


皮肉交じりに彼女に問う。


「ああそれか。」


興味なさそうにまるで買ってきたお菓子を横取りした側のような態度だ。


「あ?」


つい語気が強くなるがニーヴェリアは聞き流す。


「あれは本番を想定していた。」


「本番?あれは違うのか?」


さすがに穏やかではいられない。それすらも取り合わないニーヴェリアにイラつきを覚える。


「戦場でだれかがああなったときの想定。戦場ではほかの敵の相手をする必要がある。捕まった仲間を簡単に助けられないとき、みんな焦る。無理を通して助けても良い結果にならない。フィレリアは焦らない。何秒まで大丈夫か目安が必要だった。フィレリアは最悪な状況が来ても対処できる。」


フィレリアがどうとかは分からないが救命の基準は大事だ。でもなぁ・・・。ふつふつと怒りがこみあげてくる。


「許してもらおうとは思わない。フィレリア以外にそんなものはいらない。」


一歩間違ったら殺されてたかもしれない奴にそれをいうのかよ。


「わたしにはフィレリアを助けるためのマニュアルを作成する義務がある。フィレリアに休みなどない。見ればわかるだろ。」


正直フィレリアさんのワンマンプレーが教会を支えている節がある。アンリなどが支えてはいるがそれでもフィレリアが抜ければ崩壊するだろうとここ数日で分かった。

でもフィレリアさんは機械なんかじゃあない。


「フィレリアは百年以上も教会の長をしてまともに休んだことがない。それでも続けられる意思がある。そんな人にご褒美をあげるのは駄目なことなのか。」


・・・。それのために俺は死にかけたのか・・・。レイナが苦い顔をしたのが何となくわかった。たしかに代替性のない一人に負担を強いるのは危険すぎる。でも人類のために実験に使われたマウスが反逆できる知性を得たらどう思うか。


「だからフィレリアがやっている仕事をフィレリアと同じクオリティで引き継いで休ませる必要がある。安心させるためおんなじクオリティ。だからわたしは最善の行動をとれるようなマニュアルを作る。」


「そのためならフィレリア以外がどうなろうと構わないか。」


ニーヴェリアは頷く。それじゃそのマニュアルを誰も使わないよ。


「みて。フィレリアの行動を事細かにメモしているマニュアル。どういうときにどういう判断をしたか過程までびっしり書いてる。これを見ればフィレリアと同じ判断ができる。」


確かにびっしり書いてあるが少し今までの所業の仕返しをしたくなった。


「前例をなぞるだけじゃフィレリアさんも後任は任せられないんじゃないか。前もこうだから今度もこうなんてろくなことにはならない。」


「無論だ。ただ真似をしてフィレリアの代わりができるなど単純な人間じゃないフィレリアは。大事なのは過程だ前提条件。交渉の状況。これからの選択肢。全て同じなことなど起きない。同じ選択肢でなぜ最善を選べるのか。正しい公式でしか正しい答えは導けない。」


・・・。フィレリアの対する執着以外はむしろ先進的だ。それ故に・・・。


「一つ言おう。あんまり人を敵に回すなよ。」


攻撃交じりの忠告をニーヴェリアにぶつける。ニーヴェリアは気にしないように倉庫の作業に戻った。




***農園のネイリマ前***

「無事そうだな!大丈夫だと思っても自分の体は自分が一番見誤るものだ。」


「ありがとうございます。」


今はネイリマさんの威勢の良さも安心感で心地よい。何というか生きてる人って感じだ。

だけどその気持ちは一瞬で消えた。ネイリマさんは荒れた土の中からまだ食べられる野菜を掘り出していた。シィクロウィーンの暴れた跡だ。俺は少し後ろめたく感じる。安全第一の戦いが大事とはいえ戦いを長引かせて畑を崩壊させたのは俺だ。


「気にするな。」


ネイリマさんはそういうが農業は台無しになったら一日二日じゃあ取り戻せない。


「うつむく暇謎などないぞ。そんな暇があれば早々に立て直しを始めなければな!」


そうはいうが今年の成果が台無しになってしまったんだどうしてそんなに切り替えられる。俺なんてセンさんの言葉一つでくじけてしまったのに。収穫が今年の目標だったろう。でもそれは今一瞬で潰えたなのになんですぐにそんな。


「考えていることを当ててやろうか。畑が荒れた。素人目にもこれだけひどいのに私からすれば地獄だとそう思っているのだろう?」


どうして。・・・つい出てしまったからには続けざる負えなかった。どうしてすぐに切り替えられるのか。


「農業に落ち込んでいる暇なぞない。」


でも一日ぐらい落ち込んでもいい。むしろ立ち直るのに数か月いるかもしれない。


「この成果が一年頑張ってきたものだとしても?」


ネイリマさんは俺の言葉を笑う。


「一年じゃあない土壌改良に十数年だ。」


だったら余計に!俺は頬に熱いものが流れているので泣いているのを自覚した。


「どうしてそんなに頑張れるんだよ。数時間でそれだけの時間が台無しになったんだぞ。」


「ぺーぺーの頃はいくらかかっても立ち直れなかったものよ。だがなここが何の区画かわかるか。」


そうだこんなことでなければ俺はそれを聞きたかった。でもこんな状況じゃあ聞けない。


「ここは品種改良の区画だ。知っての通り村落の土地はやせている。だったら適した作物が必要だろう。ここは小さいがクレインの心臓だ。今まで何度も末端たる村落に成果を送ってやった。そのたびに奴ら大喜びで手紙を返してくる。貴様それを私がどう思うと思う?」


・・・。うれしい?でいいのか。そう心の中で思う。


「そうだ嬉しいんだ。でもそんなもの初めからあったものであるものか!私は都市の農業施設の出世争いに負けた負け犬だ!奴らを見返すために教会に入った!だが評価されるよりうまくより香り良くなぞここでは不必要だった。これでは見返すことなぞ出来るものか。」


初めの目標に敗れる。俺の研究者の夢と似ている。都市の農業施設と教会で二度もその挫折を味わったのか。


「それでさっきの話だ。仕事と割り切って品種改良をしたお礼が届いた。美しいルビーが同封されていた。それは都市に売れば相当な値段がつくものだ。村落のやつらは本気で感謝したんだ。」


それで・・・。


「だが私は返却した!私は都市に戻り成果をもとに再度農業施設でのし上がるためにな。」


そうだよ。そんな簡単に心に響くものか。砕けた心は疑心を産むんだ。


「そしたら奴ら何したと思う?私の品種改良した野菜のレポートを書き上げて推薦状にした。踏み台にした私のためにだぞ?受け取ったとき問い詰めた。もう媚びても貴様らに着くことはないとな!結局都市は村落の連中のレポートも私の論文も認めなかった。私は自殺を覚悟した。教会にも後ろ足で土をかけた。村落にもあの態度だ。でも教会はもう一度私を受け入れた。だが村落が情報を渡さなければ私の仕事はできない。品種改良は村落の土地に合ったものにする必要があるからだ。でも村落も私に気候や土壌情報を渡した。ようやく気が付いた。私は私に認められようとしていた。だから目標を失った時希望を失った。多分手を差し伸べられなかったら自殺していた。独りでは何もなかったからな。誰かに認められる目標もあることを知った。フィレリアや村落の人に都市より豊かになれるようになろうと目的を共有した。自分だけの夢は形が変わらないいいことでもあるが危険でもある。追い詰められたら立ち直れないからな。だから私は立ち直れる。分かったか!」


そうか。俺は今まで感謝されてもそれは意味のないことだと思い込んでいたでもそれは本当は誰かと夢を共有するチャンスだったのか。独りの夢が崩れても誰かとみる夢は生まれるものだと気がつけなかった。夢は破れても新たな夢を見つけられる。それは自分で自分の夢を見つけるのは難しいけどネイリマさんはみんなと見つけた。俺は今まで自分しか見てなかったよな。


「俺もそういうふうに変われるかな。」


「私はフィレリアたちに変わらされた。貴様も私の言葉で変われる・・・かは、貴様次第だ。」


俺は笑って答える。選択肢を貰えたことは何よりも得難い。


「ネイリマさん。俺も頑張ってみるよ。頑張って新しい目標を探してくる。」


「事情は知らんが気張るだけやって見せろ!」


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