第四歩 繋がり合う
体調不良は治りませんが原因が分かったので快方に向かうと思います。
しかし、体調不良といえど禅話以前のストック分は伝え方の出来がひどいところがありますね。
後々編集しなおすと思います。
「そういえば事件について話してくれた時、犯人は戻ってくると言ってたけど・・・どうして俺たちが犯人じゃないと思ったんですか?俺なんて外様ですよ。」
ケイさんはレイナさんに問いかけます。外様という言葉に震えが入っていました。なんというか突然意見を求められたときの言っていいのかな?に近い感じでした。
「ん~?」
悩むレイナさん。といってもポーズですね。
「大したことはないんだけどね。メーフィアとあなた様の態度を見てたらなそうだと思っただけだよ。」
それに多分あの時は興味半分でしたし。やましさのなさがレイナさんに響きましたか。
「もう一ついいですか?レイナさんはどうして俺のことあなた様っていうんですか?」
あっ!気になってたこと聞いてくれました。しかし、レイナさんは逆にさらっと流すつもりだったんでしょうか。講演会でスカートがめくれてるくらい気になり続けますよ
「あれ!?男の人のことはあなた様って呼ぶって聖書の外典?か何かに書いてあった気がしたけど違ったの?」
何それ私も知りません。
「いや分からないけど普通の呼び方ではない気がする。」
「そうなの?まあいいじゃん。気持ちいいでしょ。あなた様って呼ばれるの。ねぇ~。あなた様~。」
レイナさんはケイさんにすり寄っていきます。ケイさんは気にすることなさそうにしてます。さすがに自分以外女性ですから
「ノーコメントでお願いします。」
気にしてますね。意識しまくりです。頬は赤くないですが汗が流れていますね。
そんなやり取りをしていると人通りの多い廊下に出ました。
「あっ!第一証言者発見。」
レイナさんは見かけたシスターに手を振ってこっちきてのジェスチャーを取ります。その子が気が付いて近づいてくるとレイナさんも笑顔で近寄ります。
しかし、これが推理小説なら犯人の行動範囲を洗いざらいできない広大地にノーヒントとか舐め腐ってますね。
「シャミちゃんおはよう。」
レイナさんは爽やかにシャミさんに挨拶します。シャミさんも私に一瞥してから挨拶します。私も小さく手を振ります。最近忙しくてシャミさんと遊べないんですよね。愚痴を聞いて聞かされてばかりです。
「シャミは何してるの。」
「そりゃ仕事の移動でしょうが。」
シャミさんは奥の廊下を指さします。一つ向こう側の十字路から人の列が見えます。談笑して前見てる人少ないですね。人にぶつかりますよ観光中に見とれて手すりとかに体をぶつけるくらいの確率で。
「本を探してたら一足遅くになってしまいましたね。」
そうなんだ。とレイナさんが相槌を打ってから話を切り出します。
「じつはさぁごにょごにょ作業場の斧が一つ無くなっちゃってさぁ。やっぱ凶器が行方不明なんて怖いじゃん?だから作業場に出入りしてた人がいないか聞き込みしてるんだけど。何か知らない?うんたらかんたら」
これまでの経緯をうんたらかんたらでまとめないでください。
シャミさんは顎に手を当てて思いを巡らせます。
「昨日仕事中にそっちの方に行った人影は見かけましたね。」
「作業場の方に行ったの?それとも別のところ?」
「誰も使っていない予備スペースのところですね。」
アンリさんが斧を見かけたあたりですね。アンリさんの証言の裏付けにもなりますね。
「身長とか体格とか遠くからでもわかったりとかしない?髪の色とか覚えていない?」
レイナさんはシャミさんに尋ねますがシャミさんは私に助けを求める視線を送ってきます。あんまり覚えてないんですね。シスターなんて服装が没個性です。通常のシスターが黒服で兵士のシスターが白服くらいしか遠くからは分からないと思います。
「・・・。服の色どっちだっけ?」
それは興味なさすぎじゃないですかシャミさん。いちばん大きい特徴って意識してないと逆に忘れるのでしょうか・・・。
「あっ。そうそうレイナと同じかちょっと高いくらいの身長の気がしますね。ウィンプル・・・帽子をかぶっていましたけど足取りがおぼつかなかったようでしたか。」
「私と同じくらいか~。」
レイナさんと同じくらいとなると150センチ前半くらいでしょうか高くとも10センチプラス位と推測します。というかそっちは覚えてるんですか。昨日の夕飯のメインディッシュじゃなくてサラダの内容から出てくる感じでしょうか。
「俺の知ってる範囲だとメリーさんが160台、フィレリアさんが155センチぐらいですね。アンリさんは150センチなさそうですし多分容疑者から外れます。」
私も150センチないのですがケイさんはここにいない人の中にアンリさんを混ぜましたね。多分最初に私とレイナさんがいじょうな疑念を向けていたせいですね。でも言い訳になってしまいますが彼女のことを知っていれば疑うのもおかしくないんです。
「それはないでしょ。」
レイナさんはあっけらかんに、まるで小ボケのツッコミのような気軽さで否定します。
「遠距離だからシャミちゃんが私より少し高く見えても目安程度のものだよ。それに足元がおぼつかなかったんなら上げ底靴の可能性があるからね。」
「160センチ以下と考えればほとんど絞れませんね。」
私はみんなの顔を浮かべながら言います。上げ底にも限界がありますからもうちょっと高かったら絞れたかもしれません。
「私が確認してる限り療養所にいる方以外は朝一の段階では休んでいる方は確認できませんでしたけど、ドタキャンで休んでいる方はいませんでしたか?昨日も休みの方は確認できてませんが、報告してないでさぼっていた方とかは。」
アンリさんが尋ねます。アンリさんも幹部ですから相変わらず大変そうですね。
「ドタキャンされた方はいなかったと思いますが。そうですね少なくとも私と同じ仕事場では途中抜けも見てません。昨日もみんな真面目でしたよ。」
「他の部署の可能性が高いでしょうか。・・・。ごめんなさい失念してました。襲撃後はどの仕事グループも教会の幹部が統括してますね。なので、昨日のさぼりは多分ないです。昨日影を見たのなら昨日仕事から抜けている人が犯人のはずなので黒服の通常の仕事のシスターは除外できますね。とあれば朝番の兵士の方が候補ですね。」
シャミさんの言葉にアンリさんが応えます。アンリさんは自分で整理する心の声を共有している感じで話してますね。
「いえ。朝番の兵士の方はないですね。」
アンリさんは思い直したように訂正します。本当に心の声じゃないですか。
私がどうしてですかと聞くと。
「斧が落ちていた廊下に引きずった跡ができてました。鍛錬している方とは思えません。」
「じゃあ誰が犯人なの?」
レイナさんは少しうなると閃いたようにアンリさんの方を見ます。にやりと笑うレイナさんきょとんとするアンリさん。ドッキリの観客と被害者みたいに見えますね。でもそうなるとアンリさんが犯人の証拠でも見つけたのでしょうか。
「教会の上層部の人しか犯人居なくない?」
やはりアンリさんなんでしょうか。
「私じゃないですよ!たしかに幹部のほとんどは仕事の統括に出てますけど私じゃないです!」
アンリさんは焦り倒してますが自白しているようなものです。縄でも括り付けましょうか。
「いや、アンリが不利になる証言はアンリ自身から多く出てないか。兵士の件や昨日の休んだ人の件とか。今の発言だってそう。犯人なら潔白とまですると不自然だけどある程度のアリバイや正当化はするんじゃないか。」
ケイさんがフォローします。さりげなくです。食堂でおしゃべりするとき友達のテーブルにお水を置くくらいさりげなくです。
「あの自己弁護気味になってしまいますが教会の幹部の擁護いいですか。」
「よかです。」
「よかですよ。」
アンリさんの発言にレイナさんとケイさんが応えます。なんですかその言葉世界を超えて流行ってるんですか。
「そもそも勝手なことしてたらすぐに探されますよ。」
「アンリさーん!!まだ資料の整理が終わりませんか!」
遠くからシスターが呼びに来てます。アンリさんは片手で頭を押さえてこんな感じですとでも言いたげにみんなを見ます。
「だとしてもほかのメンツはあり得ないレベルで幹部はギリ犯行が行けそうレベルではあるけどね。」
アンリさんをけん制してるみたいに言います。初対面同士の猫みたいに警戒してます。
「こういうとき嘘の一つでも言えて疑念を消せればいいんでしょうけど腹芸は得意に離れませんね。」
アンリさんが自嘲気味に呟きます。まるで過去を振り返るように見えました。でも私は嘘をつかないことはいいことだと思います。アンリさんの言葉が本当ならですが。私にはアンリさんの言葉は霧がかかっています。
「通常業務のシスターでも兵士のシスターでも幹部の方でもない部外者はないじゃあ誰なのでしょうか。」
そんなこんなしてるうちに遠くから呼んでいたシスターが着きました。
「アンリさんフィレリアさんがお呼びですよ。」
シスターは私とレイナさんを見ます。ケイさんを連れまわしてることを睨んでるみたいです。これは報告されますね・・・。
「じゃあアンリはここまでだねー。」
えっ!レイナさんの言葉に私とケイさんは驚きの声を上げます。一瞬目が合いましたが少し照れますね。
「アンリさんを返しちゃっていいんですか。」
偏見抜きにすれば白に近い灰色ではあると思いますが他に有力な犯人候補はいません。そんなアンリさんを離すのは・・・。
「相対的に重要容疑者だって確認はできたしシャミちゃんとか身内以外にも認知してもらえたし今は十分。」
「・・・いまアンリさんを困らせると後々教会が困りそうですね。」
自分を納得させます。
「うん、今は緊急時だからね。アンリみたいな教会のコアになる人を拘束しすぎるのはね。」
なんというかレイナさんは私と同じようにアンリさんにいい感情を持ってないですがここら辺は冷静ですね。フィレリアさんが任せたアンリさんという味方という感じなのでしょうか。
「てな感じでアンリはいってらっしゃーい。」
レイナさんはアンリさんの背中を押します。というか素早すぎる身のこなしで後ろ見回りましたね。
「レイナさんありがとうございます。ではケイさんメーフィアさん行ってきます。」
アンリさんの姿が遠ざかっていきます。わたしたちはどうしましょう。
「では私も行きますね。」
シャミさんはそういうと私に一瞥して踵を返します。今度ゆっくり話したいですね。
「そうそう。皆さんご飯は食べましたか?そろそろ食堂はしまりますよ。」
シャミさんは振り返って言ってからまた歩き出します。
「具体的なあてはありませんし、いったん休憩にしませんか。」
私の提案にレイナさんはそうだねー。と肩を鳴らして入っていた力を抜きます。
「休憩・・・。」
ケイさんが呟きます。そんなに引っかかるワードでしょうか。
「レイナさん、メーフィアさん一人気になる人がいるんだ。」
***シスター寮 一時間後***
ケイさんから犯人を聞いたときにわかには信じられませんでした。いえ、落ち着いた今でも信じられません。なにかの間違いであってほしいです。そうですケイさんは教会に詳しくないんです。間違ってても仕方ないです。
ちらりとレイナさんを見ますレイナさんも落ち着かないようで頬に汗をかいています。
私たちはここで寝泊まりしているシスターが現れるのを待ちます。
すると入口の方から小さな人の影が現れました。小さな思っていた通りの。
「お疲れ様。エネ。」
「おっ、お疲れ様です。レイナさん・・・。えと・・・。訓練ですたよね。どうしてここへ?」
物陰からレイナさんが現れます。ひょっこりといったようでさっきの汗は隠しています。
エネさんは困惑してますね。レイナさんは仕事中のはずですからまっとうな反応だと思います。兵士のエースですから余計に怖いでしょう。
「いや―ちょっとメーフィアが可愛すぎちゃってね。サボってこれから寮に帰って遊ぼうてとこ。」
レイナさんは隠れている私を引っ張り出します。ちょ、服伸びちゃいます力つよいです。
「珍しくないです?訓練にはまじめだと思いましたが。」
エネさんは小首をかしげてレイナさんを見ます小動物ですね。狙われていることも知らないのもそれらしいです。
「ここ最近みんな殺気立ってね~。ちょっといい意味で手を抜くのもいいよって~見せたくてね。ほら大事でしょこういうの。」
レイナさんは目を細めて脱力したような表情をします。割と本気で思ってそうですね。
「たしかに最近みんなピリピリしてますからねー。みんなのことを考えてるなんてすごいです!」
目がキラキラしてます。エネさんはあっさり信じましたね。やっぱりだましだまされのできる人じゃないと思いますが。
「でもどうして廊下の陰に隠れていたんですか。」
「そんなのエネを誘うために決まってんじゃん。ほらエネがお昼ごはん食べるだろうから料理長に言っといたんだけど。エネはまだ来てないっていってたんだよ。」
エネさんは皆さんより早く起きる分朝は保存食で昼も早めに一人で食べます。食堂を閉めた後で他の人はいないので料理長が見逃すはずありません。
「え!あっそうだった気がします!ちょっと料理長が何かいってましたけど聞き流してました。レイナさんって言ってたかも。」
その言葉を聞いたとき私の心から何か抜け落ちる気がしました。
「それはあり得ないんです。」
私のつぶやきにえっ!エネさんは驚きます。まるで嘘に聞こえないその驚きが余計に私の心を締め付けます。
「料理長がエネさんに伝言することはないんです。レイナさんが料理長に言ったのは最低限のこと以外話さないことでした。」
その答えはエネさんがご飯を食べずに何かしていたことの自白です。
「どういうことですか!?なんでそんなことをしたんですか。」
私も動揺してますね。これだけではエネさんには伝わりません。
「・・・。」
でもわたしもレイナさんも言葉に詰まります。二人思案してフリーズしてしまいます。
「あなたが落とした斧はこの焦げ跡のついた斧ですか?と聞けば分かるかな。」
隠れていたケイさんが斧をもって現れます。
その瞬間エネさんの表情がこわばります。
「聞こえてますか?」
硬直したエネさんにケイさんは尋ねますが反応はありません。言い訳を考えているという風ではなくただショックのようです。ならなんでやましいなことを・・・。
「佳境までは語っちゃっていいよ。」
レイナさんが言葉の止まったケイさんに促します。笑ってはいますが瞳が揺れてます。大雨の日の水たまりのように揺れています
「この事件は作業場から斧が紛失してその斧に異常があったところから始まりました。斧には何かを焼いた跡があった。食べ物を焼いたのでしょうか。そうであればわざわざ斧なんて使わないで食堂に持ち込めばいいです。では何を?やましいものでしょう。この世界の毒には濃縮するために高温水分を蒸発させて濃度を上げるものがあると聞きます。斧が紛失した作業場やあの辺りは屋外作業場ばかりで毒の揮発にも対処できます。これらのことから毒の作成だとにらみました。捜査は教会の全員が容疑者の候補の状態から始まりました。手掛かりは犯人が昨日と今日あの時間に一人で活動していたこと。それが当てはまらない人を容疑者から除外しました。一般のシスターが容疑者の候補から消え。兵士をするシスターが消え。幹部の方も一応消え。教会のほぼ全員が容疑者から消えました。」
エネさん。ケイさんの言葉でエネさんの意識が戻ります。そしてエネさんの顔が真っ白に染まります。
「ちっ!違います!私・・・。」
エネさんは慌てますがケイさんは語ります。
「今までの容疑者が消えた理由はあの時間にアリバイがあったか、現場の引きずり跡からそれを残さなく済む兵士のように力のある人だったからです。エネさん。あなたの仕事はほかのシスターとは違いますね。俺は朝の鐘と・・・。俺も食事の時間を料理長にずらされてるので知ってますが食事の時間がほかの人と違う。ぐらいしか知らなかったですがメーフィアさんたちに詳しく教えてもらいました。」
ケイさんの食事の時間はみんなとの接触を避けさせるため料理長が勝手にやってるそうです。料理長に言われてたのに私とご飯を食べようとしたのが後ろめたかったのでしょうかケイさんの言葉がそこだけ小さくなります。
「エネさんは朝誰よりも早く起きて教会の解錠。仕事場の異常がないかの確認私たち朝番の兵士の休憩の鐘などを教会でみんなが働く下準備をします。力仕事ではありませんね。それにみんなが働いている午前中はちょうど休憩をしています。あの時間帯にまとめた時間を作れるんです。犯人はあなたですね。」
みんながエネさんを見ます。彼女は顔が蒼白のまま口を開きます。苦痛から逃れるため反射で動いているように見えます。
「私は毒なんて作ってないです。」
ですが彼女の表情はそんなことを言ってませんでした。やましいことがあるというように自信のない顔です。伏せた目元の影はタイムカプセルに土をかぶせるように本心を何重にも隠しているように見えます。私が嘘を見抜けないからそう見えるだけそのはずです・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
エネさんが長く逡巡したのち口を開きます。
「私が作ってたのはお菓子ですよ・・・。」
レイナさんもケイさんも信じていません。そりゃあそうです。お菓子ならなんでわざわざ斧で焼くんですか。
「それは・・・。」
「本当のことですよ~。」
入口の方から聞きなじみのある声が聞こえます。
「えっ!フィレリア!?」
レイナが驚きの声を上げます。寮の入口からフィレリアさんが現れます。
どうして。とケイさんが私を見ます私も分からないですよ。
「今お忙しいはずではなかったのですか?」
私はフィレリアさんに尋ねます。みんなの相談の時間を削っているので最大級忙しいはずです。
「エネさんに午後から手伝ってほしいことがありまして。ごはん休憩のついでに呼びに来ました。」
そうなんですか。エネさんは通常のシスターの業務に混ざる以外は割とフィレリアさんに付き添ってますね。見ていると親についていく小動物みたいでこんな状況でなければいやされます。フィレリアさんはエネさんは毒ではなくお菓子を作っていたと言いましたが根拠がなければさすがに信じれません。
「フィレリアさんは私たちの状況をご存じなんですか。」
その前に私は尋ねます。フィレリアさんはエネさんがお菓子を作っていることを肯定しただけで私たちがどうしてエネさんを探していたか知っているか分かりません。これでは私たちがエネさんをいじめてるだけです。
「アンリさんに聞きました。」
なるほど。
「フィレリアさんごめんなさい。」
エネさんが申し訳なさそうに謝ります。二人の秘密の約束がばれたみたいにですね。
「いつかはばれるものですよ。それより誤解されちゃってるみたいですね。その方が問題です。」
私、レイナさん、ケイさんは三人で顔を見合わせます。あまりに弛緩した二人の態度に毒気が抜かれます。もしかして私たちのやってきたことは・・・。
フィレリアさんは笑顔で私たちを見ます。
「実はですね。エネさんは斧の上ではちみつを焼いていたんです。」
「えっ!はちみつ?!」
レイナさんが信じられないような素っ頓狂な声を出します。いやその言葉は予測できるわけありません。
「はい。はちみつを焼くと飴みたいになっておいしいんですよ。」
いえ問題はそこじゃないでしょう・・・。困惑が広がります。
「どうして斧で焼いたの。料理長に言えばフライパンを貸してもらえるよね。」
レイナさんが言います。そうなんです。わざわざ斧を使い必要はないんです。
「教会では嗜好品類の量を制限していますね。」
フィレリアさんはいいます。私たちは本質的には村落の支援ですが、建前上は聖書に書かれた罪の贖罪を目的としています。そのための節制が義務付けられています。
「この子ですね隠れてよく食べているのですよ。それで隠れて好きなはちみつ飴を密造しているんです。」
「えっ!そこからまずくない?!」
レイナさんのまっとうなツッコミにエネさんが気まずそうになります。あぁかわいそうに。正直下手すると教会の危機ですから容疑者だったときは容赦なく疑いましたけどそうでないならあまり責めたくないです。
「隠れていっぱい食べられるよりお菓子の量の制限を緩和した方がまだいいですから。それで今の仕事をすることと引き換えにみんなにばれないようにちょっとお菓子の量を増やす約束をしたのです。」
フィレリアさんはにっこりしてますが・・・。えっ!いつですか!エネさんが起床係になったときから!私何十年も気が付いてなかったんですか!
「どうしてそれで斧ではちみつを焼くなんて変なことやってたの。ていうか私数十年も気が付かなかった。」
レイナさんも意外に動揺してます。
「うん・・・。そうだ!なんで今まで気が付かれなかったの?ていうか今まで斧にはちみつの焼き跡が見当たらなかったの?!」
意外とてんぱり症ですよね。レイナさんが思いついたことを口走ってます。
「それはですね!」
エネさんが割り込んできます。まるでいたずらのネタ晴らしをするようなウキウキ具合です。何というか私は本当身嘘を見抜けないですね。エネさんに裏の裏まであると思ってたのがばからしいです。
「普段は倉庫にある予備のスコップを使ってるんです。毎日毎日みんなの仕事のスケジュールを確認して絶対に来ない倉庫を探してぜっっっったいににつからないところではちみつを焼いてたんです。ほらこのノート!」
エネさんは分厚いノートを見せびらかします。にっこにこでかわいいです。
「でも教会の破損で予備の倉庫は全部使ってしまっていてスコップを借りられなくなってしまったんです。」
「え!じゃあ作業場からスコップ借りればよかったじゃん。斧より管理は厳しくないから今回みたいなことにならなかったよ。」
持ち出し厳禁なのは変わりませんが持ち出した時の対応が違います。
「使用済みのスコップは土がついて汚いじゃないですか!だったら薪を切った斧の方がましですよ!」
エネさんが乗り出してます。それはすごい勢いです。食い意地すごいですね。
「洗えばよくない?」
レイナさんの正論パンチ!
「よくないですよっ!」
まぁまぁとレイナさんに噛みつくエネさんを仲裁します。
「つまり私たちの捜査は無駄だったのか~。」
レイナさんが少し遠い目をしています。
私も一気に疲れました。人を疑うのはやはり柄じゃありません。それにこの結末ですから。
「レイナさん今日軍の再編任務をさぼりましたよね。」
レイナさんはふぇ?と返しますがフィレリアさんの声には冷たさがこもってました。
「でっ・・・でも犯人捜ししなきゃだし・・・。」
レイナさんがおたおたしてます。
「それは私たちに伝えるのが一番の近道ですよね。現行犯でなければ連絡をする。教会のマニュアルにありますよね。軍の再編は悪い人を捕まえるためにするためでもありますよね。」
逃げ道を塞いでいきます。その調子ですフィレリアさん。
「は・・・い・・・。」
レイナさんが涙目になってフィレリアさんをみつめています。
「まったくメリーたち軍のみんながどれだけ探してたと思ってるんですか。」
「ごめんなさい。」
レイナさんは深々と頭を下げます。
「それは軍のみんなにお願いします。反省してるようですから私も口添えしますから。」
「フィレリア・・・。」
「一人で2週間大聖堂の4・5階の掃除をメリーにお願いしてみますね。」
レイナさんの顔が青ざめます。あそこですか・・・。
「あの広いところを・・・。うそでしょー!」
私は飛び火しないように黙ります。ていうかケイさんは関心が向かないようにフィレリアさんが来てからずっと黙ってますね。
「ケイさんとメーフィアさん。まずメーフィアさん。いつかの朝礼でケイさんの接触禁止令を出しましたよね。レイナさんはともかくメーフィアさんも破るのですか?」
「それは!えぇっとですね・・・。押し切られてこんなことに・・・。」
それならとフィレリアさんはケイさんの方を向きます。
「ではケイさん。部屋の外からは極力出ないように言いましたよね。」
「・・・。いうべきか分かりませんが俺はこの世界で独りです。だれか一人にでも大切に思ってもらわなければ情勢の都合で切り捨てられてしまいます。だから友達が欲しかった。任務を達成できずに犬死なんてできない。」
「そうですか。そうですね。」
フィレリアさんはそれ以上言いません。何となく任務という部分で頬がこわばっていました。
ん?
「そもそも私とケイさんが怒られてるのはフィレリアさんがケイさんに朝礼の件を伝えておけば私がケイさんに押し切られることもケイさんが強引になることもなかったんじゃないですか?」
「・・・ごめーんね?」
私とどさくさに紛れてレイナさんがフィレリアさんの頭をポカっと殴ります。
「いたた。ケイさんが図書室に行ってこの世界の勉強してたみたいでうまく会えなかったんですよ。」
「そうだったんですか。それは悪かったです。そういえばさっきの朝礼の話って何ですか。」
それはですね・・・。とフィレリアさんは経緯を話します。
「なるほどもっとこの世界の状況を知らないとですね。」
ケイさんはたぶん都市と教会の微妙な関係は分かっていないと思います。それだけ複雑ですから。
「ですよね。ですから明日からアンリさんに先生になってもらってクレインの事をいろいろ教わってもらいたいんです!」
えっ私ですか!!アンリさんの声が聞こえた気がしました。