二歩目 クレインを見る
この小説を書き始めたとき辺りから体調不良なのですが最近は悪くなっています。
ストックも切れたので投稿は遅くなるかもしれませんし。自分のページをチェックすることもほぼできないと思いますがよろしくお願いします。
俺は気が付いたら暖かい布団の中に寝ていた。見慣れない窓がまず目に入る。俺の世界ならアンティーク趣味なものだと思った時ここがトロイメライ出ないことを思い出す。ここは教会なのか?俺は周囲を見回すと布団が引っ張られる感覚がありそちらを見る。
「すぅすぅ・・・。」
エナがベットに顔をうずめてベットに縋り付いて寝ていた。
「見ててくれたのか・・・。」
感謝の念を感じつつ俺は扉を見る。
「早くフィレリアさんに伝えたに言った方がいいよな。」
おれは重要人物だろうから起きたことは報告した方がいい気がする。
エナを起こさないように起き上がろうとするが斜陽房が左腕に接合していることに気が付く。
「んあ?」
エナがゆっくりと頭を上げる。目をこすって意識が虚ろだったのもつかの間、はっ!という効果音が聞こえてきそうなリアクションで俺が起きたのに気付いた。
「大丈夫ですか!ケイさん痛いところはないですかこことか!こことか!お水とご飯はどうですか!もしかして寝たりなかったりしませんか!」
いい子だけど寝起きのマシンガントークはつらい。すぐに察してごめんなさいといって。下げた頭からちらっと視線だけうかがう。愛嬌があってかわいい。
「大丈夫だよ。」
左手を上げようとするが重さで現状を思い出す。
「その腕は大丈夫なんですか?私たちが外そうとしても外れなかったんですよ。」
エネが心配そうに腕を見る。
「大丈夫だよ。レモン汁をかけたらとれるから。」
俺はリュックからレモン汁の入った容器を取り出し斜陽房に振りかける。
「えっ!考えた人頭おかしいんですか!」
正論が来たな。
「えっ!きもちわるっ!なんでちょっと目に入ったみたいにさっと離れていくんですか!」
「レモン嫌いらしいんだよこいつ。」
「えぇ・・・。」
「そんなことよりフィレリアに起きたことを報告したいんだけどどこにいるの?」
「そんなことで済むことじゃないと思いますけどケイさんもキマッてますね。」
「そっちこそそんなことじゃないですか。」
上司への報告をそんなこと呼ばわりってやばいなこいつ。
しかし、エナは露骨に目を泳がせる。すこし逡巡した後しっかりとこちらを見る。
「いまフィレリアさんは葬儀の準備をしています。」
教会の中庭ではシスターたちが参列して葬儀が始まろうとしていた。変装のためシスターの服を着た俺はその末席に参列した。棺桶が並べられた先頭にある祭壇の前にフィレリアが現れ言葉を述べる。
「先にお詫びします。現在我々は未曽有の災害に合い復旧を急がねばなりません。ゆえに葬儀も略式となります。申し訳ありません。ですがこれ以上あなたたちと同じ苦しみを広げないためどうか私たちをお許しください。」
フィレリアは祭壇に一礼すると聖書を開きこちらを向く。あくまでこちらに語る形だ。死者に祈るのはこの教会の[正式]な儀式ではないのだろう。
「彼女たちは艱難辛苦の中逞しく歩んでいき我らの前の石を取り除き我々の道を切り開いてくれました。だから彼女らは神の御座の前にいて、昼夜を問わず仕えているのです。そして御座におられる方の上には幕屋が張られているのです。彼女らは飢えることも恐怖におびえることもありません。」
フィレリアは聖書を閉じてこちらを向く。
「後悔しなくてよいのです。彼女たちの御霊は安らかにあります。ですから気を揉むことなく前を向いていいのです。」
参列席からところどころ嗚咽が聞こえてくる。
俺は救えなかった紫髪の子を思い出す。
どこからか号泣する声が聞こえる。連鎖するように謝罪の言葉亡くなったことへの怒りのような何かをぶつける叫び。この世のすべての悲嘆がここに響き渡る。
フィレリアさんは目をつぶりみんなが落ち着くのを待つ。一通り静けさを取り戻す。
「これより。棺の埋葬に取り掛かります。」
段取りがあったのかみんな整然とそれぞれの棺の前につく。俺も手伝おうと列に従い移動をする。
「ケイさん。」
「!フィレリアさん。」
フィレリアさんが俺に耳打ちをしてくる。
「起きていらしたのですね。みんなのお別れに参加していただいてありがとうございます。ケイさんはこちらにお願いします。」
そういわれて俺はフィレリアさんについていく。とある棺の前に着く。
「その子はあなたを守って亡くなった子です。」
棺を見て一瞬目を背けそうになるがこらえて向かい合い棺を担いだ。
静かにつつがなく埋葬が進む。最後の一人の埋葬が終わったところでフィレリアさんがみんなを見る。
「次はみんなで笑顔でここに報告しに来ましょう。」
フィレリアさんは笑う。メーフィアが大粒の涙を流しているそれだけじゃない大勢が涙を流す。でもみんなフィレリアの言葉に強く頷く。
***教会のどこかの部屋?***
「この世界クレインには大きく分けて二つのグループがある。都市と村落その二つ。肥沃な南部に大きな町を一つ構えているのが都市クリューソス。この世界の中心で文明レベルは村落を圧倒する支配階級いや支配するまでもなく自給自足で村落を無視できるグループ。そして南部の肥沃な土地から外れた都市以北に点在する村落。点在した村々は規模が小さく日々の生活が精いっぱいどころかこの世界に男性がいないせいで人口が増えることなく今の生活を維持することすら不可能なグループ。そして村落を支援するために存在するのが教会で合っていますか?」
俺は簡単に説明された内容を復唱する。見つめる先のフィレリアさんのにこやかな表情に安堵する。この世界のことが少しわかった。
「都市にとって村落は絶対に必要ではありません。ですから私たちが支援しなければならないのです。」
「でも、この状況・・・。この後どうなるんですか?」
俺は不安になりながらフィレリアさんに尋ねる。
「いえいえどうにもなりませんよー。」
フィレリアさんはにこやかに笑う今の俺にはそれが怖い。
俺は両手にバケツをもって部屋の隅に立っていた。
「あっ!敬語はやめてもらっていいですよ。私みたいに口癖化しているのでなければ、エナさんたちにはそうみたいですから同じ感じで。」
そういうフィレリアさんともう一人の教会の軍を統括しているメリーさんの二人は立ちながら肩に物干し竿を肩に引っかけてその両端に水入りバケツを紐で吊るしていた。二人は空いた手にはペンを持ち首から下げた画板に書類を置いて目を通していた。
「どうにもならないならどうしてこんな格好をするんですか。」
「あっ!敬語は大丈夫ですよ。ケイさんの世界では一般的ではないと思いますが悪いことをしたらバケツを持って廊下に立つんですよ。」
と答えるフィレリア。
「悪いこと・・・。」
昨日のことを思い出しうつむく。俺はフィレリアとの約束を破った。
「昨日はどうすれば良かったんでしょう・・・。」
「昨日の貴様は最善の行動をした。」
書類に目を通しながらメリーさんは答える。
「えぇ。その通りです。貴方は正しかったです。私たちを守っていただいてありがとうございます」
俺は顔を上げる。
「でも約束を破ったのは本当です。そして私とメリーさんはあなたに約束を破らせてしまいました。だからみんなで反省です。」
多分本当はこんなことしなくていいんだと思う。でも俺の気持ちの整理とそして何となくだが仲間に入る儀式のように感じた。同じ罰を受けるのは同じ法律を受けることコミュニティの仲間には入れた気がした。
「ケイさんは相当ませてますねぇー。」
「?何のことです?」
何でもないですよ~。とフィレリアさんが笑うと書類仕事に戻った。
「ケイ。貴様今から修練場に付き合え。」
メリーさんが肩にかけた物干し竿と画板を外して近づいてくる。
「貴様の紗陽という武器に興味がある。いざ問う時の戦力としても貴様を知っておきたい。ついて来るように。」
メリーさんが俺の紗陽を持って渡してくる。俺はバケツを置いて受け取る。メリーさんの眼は俺を射抜くように鋭かった。緊張に総毛を立たせ俺はうなずく。
「あっ!じゃあメリーに頼みたいのですが町のパン屋さんからお菓子を買ってきてもらえますか?はちみつビスケットの奴です~。」
緊張感のかけらもないフィレリアさんの言葉を無視してメリーさんは部屋を後にする。
「ケイさん、メリーにしつこく言っといてくださいね。」
「言うのは構いませんが。」
と、俺は反応のないメリーをちらりと見る。
「メリーったら頼んでも忘れてたって買ってきてくれないんですよ~。私が武器の発注一個間違えただけで怒ったのに。」
「それは重要性が違うだろう。」
部屋の外で待っていたメリーがあきれるように反論する。あきれ方が尋常ではなくもはや見下してすら見える。
「それ一回とお菓子はいっぱいですよ!積もり積もった重要性でおあいこになります!」
フィレリアさんのバケツの水少しこぼれてるなー。
あまりのどうでもよさに集中力が切れかける。
何というか複雑そうな表情を浮かべるメリーさん。ため息を一つついてメリーさんは口を開く。
「実はな、昔買いに行ったとき他のシスターに見られていたんだ。その時ひどくからかわれてな。それ以後パン屋に行っても素通りする他無くなった。」
メリーさんは真顔で言い切る。いやそこは照れて言うんじゃないのか。
「それなら言ってくださいよー。」
フィレリアさんは得心いったように笑う。
「それなら言ってくださいよー。メリーが甘いものが好きだって噂流しておきますから定着すれば恥ずかしくなりますよー。」
(えっ!そこっ!)
「はちみつの甘さが苦手でな。ケイの技術レベルでは信じられないかもしれないが、普及している甘味はちみつくらいしかない。それ以外は都市の上流階級の贅沢品だ。」
なんというか、ずれ続ける会話も長い付き合いのなせる業なのかなと突っ込み切れないと悟った。
「報告します!」
メーフィアが息を切らして部屋の中に入ってくる。
「山賊が・・・。山賊が襲来しました!」
メリーさんの目が変わる。
「ケイ丁度よい。修練場は中止だ。だがともに来い。」
***城壁の上にて***
俺は膝を破壊されかけていた。偽装のためプレートアーマーを装備させられて最低10メートル以上もある城砦を歩いて登らされた。正直ほかの教会の兵士の人も同じ装備をしていなければ心が折れていたかも。
「あれが山賊。」
眼下に広がる小人たちを見て俺は呟いた。みすぼらしいなんてもんじゃな。ボロボロな布切れを纏い肌はあざや虫に噛まれた跡。シミが目立っている。少なくとも定住する場所があればああはならない。それほどひどい姿でボロボロの剣を携えて教会へ向かって進軍している。
「警告する!お前たちは教会の警戒区域を侵犯している。敵対の意思がなければ即座に撤退せよ。教会軍団長メリーが勧告する。」
しかし彼女たちは聞く耳を持たずに前進してくる。その迷いのなさは後がないからのように見えた。
「彼女たちはなぜ教会に?」
俺の問いに渋い顔を浮かべるメリーさん。
「村落で飢饉やシィクロウィーンなどの襲撃で村が壊滅したときその住民はどうするであろう?」
隣接する村に助けを求めるそれがはじめに出てきた。でもそれは無理だということを気が付く。
「そう。近隣村などに助けなど求められない。なぜなら普段でも手一杯な状況の上に同じ被害を抱えておるからだ。」
メリーさんの渋い表情の理由が分かった。山賊のみんなは教会で救えなかった人間たちで構成されている。メリーさんからすれば掬い上げた砂粒のこぼれてしまった人たちに攻められているのだ。
「今の救済するのは無理なんですか。」
「彼女たちはすでに村落に爪を立てておる。後戻りはよほどのことがなければまかり通らぬ。」
近隣の村にも食べ物も無かった彼女たちが今も生きている。そういう事だろう。
「だが殺しはご法度だ。全員へ城壁を登り切ったものに適宜対処せよ!」
お手製と思われる鈎縄を使って10メートル以上ある城壁を上ってきている。手から血を流しても縄がちぎれ仲間が高所から地面に激突してピクリとも動かなくなっても。必死に上り続ける彼女たちに哀れみすら覚える。彼女たちは運が悪かった。運が悪くて村が滅んでそして仲間を襲った。
「教会の品を盗んでそれを都市に売り教会がそれを買い戻す。彼女たちの狙いはそれだ。」
メリーさんが解説してくれる。教会ばかり狙っているというわけではないのだろうが、金銭面でも精神面でも教会を狙うのがいいのだろうか。村落の自分たちの直接の仲間から憎しみをぶつけられるのは苦しい。
「登ってくるぞ。貴様の番だ。」
「えっ・・・。」
俺はメリーさんに背中を押されてみんなの前に出るそこには肩で息をしている山賊の少女が立っていた。
これは現実なのか俺の目の前には殺意を瞳に宿した少女が立っている。手からは血を流し鬼の形相で見てくる。怖い確かの目の前の彼女は弱っているでもそうじゃない。殺すという意思が。俺を委縮されてくる。
「あああっ!」
俺は足を動かそうとするが鎧の重さに加え相手に気おされて動けない。
「くそっ!」
俺は両手をクロスさせて鎧で少女の剣を受け止める。
「どうしたその程度か新入り。シィクロウィーンとの闘いはどうした?」
メリーさんはメルアシアから俺の動きを聞いている。明らかに動きが違うのが分かるだろう。・・・確かに俺は人と戦う恐怖で動きが固い。でも原因はそれだけじゃない。
「殺さないように制圧しなければ貴様が死ぬぞ。」
こんな状況で注文まであんのかよ!
俺は覚悟を決め腰に差した木刀を抜く。相手の剣はなまくらだ切り裂かれることはない。でも叩き折られる可能性はある。そんなことはどうでもいい。慣れない剣でどこまでやれるんだ?
少女はなぜか攻撃してこない疲弊しているのかいや俺の警戒の裏を突いてくるのか!?
だめだ彼女の呼吸の肩の動きにすら何かあるんじゃないかと考えてしまう。俺は戦闘経験はないんだよ。
「この草を食べないか!」
俺は城砦の床のこぼれた土に生えていた草を少女の前に差し出す。告白で一輪の花を差し出すような姿勢だけれどただの雑草だ。でもこれの調理方法を知っているそれさえあれば外でだって生きて・・・!
「お前・・・!都市の人間だから見下しているのか!」
少女は激高して剣を抱えながら切っ先を向けて突貫してくる。俯瞰すれば無謀な突撃だろうでも俺には足場が崩れるような抗えない恐怖で体が動かない。
(いや殺さないんだ!発想を切り替えろ!)
そう思うと不思議と体が動いた。俺は少女を受け止める。勿論剣の刃が当たらないような体捌きで受け止める。俺はトロイメライでは警備部隊だった。トロイメライは都市を砂漠に囲まれた都市だ。外への調査のため研究者の護衛だってする。しかし外はシィクロウィーンの巣窟だ。錯乱した研究者が銃を握っていてもナイフを握っていても抑え込まねばならなかった。
今だってそうだ。俺は少女の背中に回り込み腕をひねり上げ剣を取り落とさせる。そのまま腕を押さえて地面に伏せさせる。
「っ!これで・・・いいか!」
俺は熱気の籠る体にいら立ちを覚えつつメリーさんに言い放つ。
「おい。山賊どもを連れて行け。」
山賊たちが気絶させられ連れていかれる。米俵のように担がれて消えていった。
「貴様手を抜いていたのか?シィクロウィーンとの闘いでは勇猛であったと聞いているぞ。」
「俺の戦闘能力は紗陽に依存してるんだよ!」
俺はイラつきを隠せずメリーに怒鳴りつける。目隠しをして崖に立たされた気分だ!
「トロイメライでは人が自身が武力を持つと市民に危害が加えられる可能性があるからシィクロウィーンに対してのみに対して起動する戦闘システムで戦っているんだ!」
「つまり貴様本人は張りぼてか。」
そうだけど・・・。でも基礎訓練はしているんだ。体力作りに体捌きを鍛える訓練戦闘システムに耐えるだけの努力はしているから素直に受け入れられなかった。
言い返そうとした瞬間俺の首ものに剣の刃が当てられる。
「心しておけ。そのからくりがあろうと関係ない次にお前が剣抜くのは人間だ。貴様がこの世界でことを成す一番の障害は都市であろう。一筋縄ではいかぬ戦わねばならぬ時もあるやもしれん。その時貴様は戦えるか?」
都市まだ詳しくは分からないでもこの世界の有力勢力らしい。でもそれより・・・。
「人を斬る・・・」
覚悟をできる気なんてしない。軍に所属しているが相手はシィクロウィーンだけだ。人を傷つけるなんて・・・。
心臓がどきどきする。メリーさんに剣を向けられただけじゃない。ひとを・・・。
「絶対に殺し合うというわけではない。」
呆然としている俺に少し優しい口調で話しかけてくれる。
「要求をのませるために必要かもしれないだけだ。この世界を知れ。言葉はそうすればわかるだろう。そして貴様は教会に着いた幸運を感じる。」
***牢屋***
「しつれいしまーす。山賊さんのお食事持ってきましたー。」
「エネお疲れ様。ごめんねこの時間からみんなの仕事に入ってもらうとこだったのに。」
私は普通の方と別の仕事をしていますからこういう仕事をすることが多いのです。
「いえいえ。山賊の皆さんも何日も食べていないですから気合を入れて作りましたよ!」
警備の人が笑います。気合入れたのがそんなに変でしょうか?
「他の牢屋は白服のシスターが出しとくから。ここの牢屋の子は大分落ち込んでてねエネなら励ませるよね?」
パナさんが片手で拝むように私にお願いしてきます。其れなら頑張るまでです!
「こんにちは!」
私が牢屋の中に入ると中でボロボロの服を着た女の子が体を押さえて隅っこで怯えていました。
「大丈夫ですよ。ご飯を食べたら解放してあげますから。」
わたしはトレイを彼女に差し出して笑いかけます。それでも怯えているので皿からパンを一つまみ。ちぎって差し出してみます。強情ですねそれでも受け取りません。
私は毒がないですよーとパンを口に含みます。
「んちゅ。」
私は怯えている彼女に口移しでパンを流し込みます。くさいですね彼女は野生のにおいがします。
でも効果てきめんです。彼女はびっくりしてパンを食べてくれました。
「食べても大丈夫でしょう?」
女の子はうつむいてます。ちょっと刺激的過ぎましたかね。
「お名前はなんていうんですか。」
「クーです。」
「ではクーさんご飯をどうぞ。」
クーさんは一瞬逡巡しますが私を見て頬を朱に染めてから食べ始めます。いい調子です。
「大丈夫ですよご飯を食べたらお仲間さんと一緒に開放しますからね。」
クーさんがびくっと肩を震わせます。何というかお掃除のくじ引きで外れた人に遊ぼうと誘った感じですね。
「ご飯を食べなきゃここにいていいの?」
・・・。
「いえ。二時間後には出て行ってもらいます・・・。」
山賊さんはどこにも居場所がありません。外に出ても村落の人間、シィクロウィーン、野生の動物、飢餓、感染病すべてのものに怯えなくてはなりません。彼女たちは不運で村が壊滅してしまった人たちそして追い詰められて友達の村を襲った人たち。どうしようもなく彷徨うしかできないんです。
「ここに入れて!お願い死にたくないよ!私縮こまっていればここにおいてもらえるってそう思って思い込んで小さくなってたの!だからお願い・・・。ここにいさせて・・・」
「でもそしたら仲間はどうするの?」
彼女の涙は止まりません。それは自分だけの事しか考えられなくなった瞳です。誰にでもある絶望にまみれた瞳。
「もういいんです!一緒にいても喧嘩ばかり!それでも生きるために一緒にいて・・・一人ずつ減っていく。だから・・・助けて・・・。」
「お疲れさまでした!」
私は牢屋をゆっくりと出てきます。
「エネどうしたの!上着を脱いで!」
私はパナさんにびっくりされます。何故なら肌着姿で出てきましたから。
「寒そうでしたのでお貸ししました。」
「そう・・・。」
若干釈然としない様子ですが正面を向いて警備に戻ります。今です私は手を引いて少し待ってから歩き出します。
「ちょいまて!」
「はいなんでしょう?」
「何でしょうじゃないでしょ!ぴったりくっついても二人分の厚さがあれば気が付くわ!山賊は連れてかない!」
ぐえぇ。ばれました。クーさん小さいですから常に陰になるように動けばばれなおと思ったのに。
「走れ!」
ダッシュです二人だダッシュします。私が先頭でクーさんが付いてきます。
「おいまて!くっ!人手不足でここを離れられないのに!」
パナさんが鐘を鳴らしています。遠くから甲高い音色が響いています。
「とりあえず隠れましょう!とりあえずほかの山賊さんが解放されてしばらく逃げ切れば一人で放りだされることはないはずです。あとは任せてください。」
私たちは廊下を走り抜けます。建物の崩れた区画で今、人が作業していないところは分かっています。そこに潜んでやり過ごせばあとは私が交渉して教会で働かせられます。でも。
「本当に仲間を裏切っていいんですね。」
クーさんに聞きます。私には分からないです自分のために裏切るなんて。でもそれほど追い詰められていたはず。ただそれでも後悔しないかそれを聞きたかったです。
「後悔しない選択なんてないんですよ。だからちょっとでもいい方へ行くんです。」
それは生きてきた中での教訓でしょう。正直この世界の人はいい人ばかりだと思います。でも文明が崩壊したらそうはいってられないのも知ってます。私は知っているだけですが彼女は体感していたのでしょう。
建物から外に出た瞬間ピーっと口笛の音が響きます。この音は。私は横に飛び退きます。それは不意にぬめったものに触れた時のように反射で動きましたがこれは教会で訓練されていたことです非戦闘民の避難命令です。つまりクーさんはその場に立ち尽くしています。
「きゃー!」
「クーさん!」
クーさんの上から青い液体が降り注ぎます。上の窓に白服のシスターがバケツを持ってい待っていました。あの液体はなんですか?
「大丈夫ですか!クーさん!」
黒い服が青く染まっていますがクーさんは目元を拭うだけで大丈夫ですと返事をくれます。
でもどうしてこんなことを。
後ろからガチャンという音が響きます。遠くに鎧兜がありました。なぜ兵士ではなく鎧兜といったかと言うとだらんと四肢をぶらつかせていたからです。まるで幽霊でも入ってるみたいで。
「エネさん走って!」
化け物でした。鎧兜の胸甲がぶっ飛んできて手足を全速力で走ったときのマフラーのようにたなびかせます。いや化け物じゃないですか!流星が突っ込んできてるみたいなもんですよ!
「無理ですよ!逃げ切れない!」
私がそういった瞬間に鎧兜がクーさんに抱き着きます。
「ふぐっ!」
クーさんはそう漏らすと鎧兜に押し倒されて気を失います。鎧兜はさっきまでの勢いはどこにやら。ぐったりとクーさんを押し倒して動かなくなりました。
「クーさん!」
私は鎧を剥いでクーさんの状態を見ます。気絶していますが見たところ大丈夫そうです。背中から抱き着かれたのが功を奏して頭は両手でガードしていました命にかかわることにはなっていないと思います。
後ろから誰かの足音が聞こえます。振り返るとそこへいるのはメーフィアさんでした。
「エネさん。メリーさんがめちゃくちゃ怒ってますよ・・・。」
途中まで走ってたのに呼吸を整えることもせず私を心配しています。
「どのくらい怒ってました?」
そう言われると急に私も怖気づいちゃいます。どうしましょう結構勢いで逃げ出しちゃいましたけど。・・・でも!クーさんだって必死だったんです!後悔はするかもしれません・・・。
「二時間お説教で許してくれるそうです・・・。」
罰のお仕事よりいやです。だったお仕事なら不機嫌なメリーさんと五分向き合えばいいだけですけど説教はずっと一緒にいるんです。だったらさらに罰を上乗せされてもいいです!
「フィレリアさんにお願いしてくれませんか?クーさんを教会においてくれないかって!」
当たって砕けろです乗り掛かった舟です。クーさんだけでも助けないと。
意を決して真剣な顔でメーフィアさんにお願いしますが想像していた曇天のような顔は無くてくすっと笑った顔がそこにはありました。
「フィレリアさんが構想していたらしい山賊の方の救済システムを試作段階で適用するそうです。山賊の方が襲撃をしていない遺恨の少ない地域の人手不足の村へ振り分ける更生プログラムだそうですよ。」
少しホッとしました。クーさんも村落でやり直せるなら納得してくれるはずです。そのシステムさえ完成すれば山賊で絶望する人も減るのでしょうか。
「でも。」
メーフィアさんが私の背中に手を当てます。
「メリーさんのところに行きましょう。」
同情するような視線で見ながらぐいぐいメーフィアさんが押してきます。
「謹んでお受けします。」
これからのことを考えたら憂鬱だけれどすっきりした気持ちです。
一時間後にはそんな気持ち吹き飛びましたが。
***メリーの視点へ***
エネの説教をした後、儂はフィレリアの執務室に向かった。ドアの前に立つといつもの鼻歌が聞こえてくる。音程も外れていてところどころあやふやなひどい歌だ。その歌はいくら聞こうと好けるものではなかった。いやその歌だけではない・・・。年季が入りきしみながら開く扉のノブを押す。
「あっメリー!お疲れ様です。ケイさんはどうでしたか。」
ぱたぱたとフィレイアは資料を片付け始める。儂の来る大分前に気が付いていただろうにあざとい奴だ。
「ただあの機械が本体らしい。本人は戦えぬな。今のところ。」
儂のため息にふたをするように手のひらを儂の口の高さに向けてくる。
「出会ったばかりは明るい話から。前を向かなきゃ未来は見えませんよ。その仔細は後で聞きましょう。」
フィレリアは接客用の小さな丸机にビスケットを二切れ用意し懐紙のような紙に乗せ、椅子に掛けるように促す。誘われたまま座り対面にフィレリアが座る。気に食わない顔が対面にいるが仕事の話だけであればまだいい。
「メリーが鍛えれば行けそうですか?」
水差しから水をコップに移しながらフィレリアは尋ねる。
「鍛えるかどうかはこれからの展開次第だろう?」
フィレリアは苦しそうにうつむく。いくら明るいとて、試練に立ってはずっと上は見てはいられぬ。足元を見ることで困難は抜けられる。
「・・・ケイさんと敵対する可能性はゼロではありません。ですが限りなく低いですから。」
フィレリアらしい答えだ。奴はこの世界の均衡を破壊する異分子になりえる存在だ。それほど男そして奴の交渉材料として提案してきた人工子宮は劇薬だ。抹殺する線を忘れていないか確認する必要があった。何しろ・・・。認めたくはないが教会の長だ、こいつが阿呆では教会が終わる。
教会は薄氷の上に存在している村落が風前の灯火であるのにもかかわらずそれを支援する教会もまた吹けば消える。
何故なら。
何故なら教会は都市から生まれ都市の支援で活動している。都市にとって村落は絶対的な価値はない。都市とのむやみな敵対は教会の破滅につながる。
「護衛は厚めにつけたほうが良いな。あいつの才能に任せるのはいささか賭けが過ぎる。まぁそれもこれも都市の動き次第だろう。」
***ケイがシィクロウィーンの群れを撃退したその時に戻る***
ケイがシィクロウィーンの群れを光の雲で消し去ってすぐワシとフィレリアは倒れたケイの元に駆け寄った。
メーフィアが正座でケイの状態を起こす形で抱きかかえていた。
「フィレリアさん!」
彼女を見たメーフィアが叫ぶ。
「ケイさんの脈はありますか!?呼吸はしていますか!?体温は下がっていってませんか!?」
フィレリアが震える声を張り上げる。
「大丈夫です!」
もう十分近づいているがメーフィアは声を張り上げる。その表情と同じで内心も余裕がないのだろう。それはフィレリアも同じそうだが。
「私に確認させてください。」
フィレリアはケイのそばでしゃがみ込むとケイの首元に手を当てて脈拍を測る。フィレリアの指先が冷えていたのかケイは顔をしかめて反応するとフィレリアは安堵の表情を浮かべる。担架を手配していますメーフィアさんもう少しだけ介抱をお願いします。
ピリついた雰囲気が少し緩む。だがその静寂はすぐに破られた。ワシが守っていた集団外側に戦闘員を配し内側に民間人を避難させていた。その内側の民間人の一人がどたどた走ってきていた。
「駄目です危ないですから戻ってください!」
一緒に走ってきたシスターが民間人の袖を引っ張る。
「しつこいな!危ないのはどこでも一緒だよ!だったら助けてくれた人にお礼を言わせてよ!」
追いついてきた増援のシスターが民間人の前に壁を作るが民間人はその壁を蹴破る。
「あの不思議な技を使ったのはどの子!?」
大声を出しながらにじり寄ってくる民間人。メーフィアはその迫力に気おされてぶんぶん首を振る。フィレリアはさりげなくケイと民間人の間に入り視界を遮る。だがそれでは限界がある。
「どのコッ!!」
ケイが視界に入るかという瞬間ワシは民間人の首にラリアットをかます。民間人は体液を吐き出し白目をむいて頭から倒れこむ。ざまあみろ。
「責任者の命令が聞けないのなら眠ってもらう。」
仕事半分怒り半分のラリアットはクズの意識を刈り取った。泡を吹いて倒れているが何の感情も湧きあがらない。助けてもらう身分が話も聞けなければこれでも優しかろう。
「こいつを運んでやれ。他のけが人の治療の後にでも直してやれ。」
民間人をシスターたちに運ばせる。
「まずいですねあの人。」
フィレリアが白目をむいて運ばれていく民間人を見ながら頬に汗をかいていた。
「都市の在教会駐在官。教会の動きを監視するために教会を取り囲む町に住んでいる都市の役人だな。ケイの顔話見られずともあの現象を見られた。」
「いずれケイさんの存在を知るでしょう。クレインでは私たち人間は他の生物とは異なり永遠に老いることもなく、そして新たな生命を生み出すことはありません。それは聖書によれば人々が大変罪深き時代に現れる罰だといわれています。その罪を償うことで正常な輪廻に戻す神の使いたる男性が現れる。らしいのです。つまり男性の存在はこの世界の根幹を揺るがす存在です。」
珍しくフィレリアと気が合う。珍しく余裕が一切見えない顔だ。儂よりはるかに知恵が働くフィレリアの脳内にはいくつも展開が駆け巡っているのだろう。
「[対となる男と新たな命生み出しし時罪が許され眠れる時が動き出す]という聖書に書かれた言葉が本当であれば人が老いることや人の増えることの無いクレインの常識を打ち破りかねない。だからこそケイは存在そのものが問題となる。」
フィレリアの言葉に同じことを重ねる。それほどまでに大ごとだ。だからこそ時が来るまでケイの存在を秘匿したかった。
「対策を打つ。いえそんな余裕があるの・・・。」
フィレリアの不安な表情は和らぐ。
「大丈夫です。大丈夫にして見せます。」
「展開によっては教会すら危うい。だからこそ手を尽くす。」
気に食わないが同じ向きを向いている時のこいつは頼りになる。絶対に同じ方に向きたくはないが。