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パラレルワールドハレム  作者: 和泉日生
1/18

プロローグと半歩目

初めまして。和泉日生です。

読みやすい文字数である程度の頻度で投稿できればと思います。

やることないときにでもちょくちょく読んでやってください。



Xももしかしたら開設するかも。

世界に男女が半分ずつだとして生まれたときに周りに女の子しかいなかった。そんなこと一億人に一人ぐらいはいたかもしれない。だけど俺の周りはそうじゃなかった。それは現実は妄想のようにいかないみたいな意味じゃない。周りにではなくこの俺の住んでいる世界中見渡しても男は俺しかいなかった。


「単刀直入に話すぞ。すべてに平行世界を含めて男性はあなた一人しかいない。」


そう思ったんだけどなぁ。実際はこの異世界中だった。



俺は研究所の実験室で丸い台座の上に立っていた。


「ケイくん心の準備はどう?」


「はい!任務の心構えはいかなる時もできています。」


ケイ。俺の名前が呼ばれて大きな声で返事をしたが相手にはびっくりさせてしまったようで声をかけてくれたこのプロジェクトの責任者のリリィは目をぱちくりさせ驚いていた。

失敗した。普段と同じ調子で返事をしてしまったことを後悔する。


「今回の任務は失敗できない。だから本当にあなたのタイミングに合わせたいの。」


リリィは俺が緊張していると思ったのかそうなだめてくれた。

実は俺も緊張していたからその助け舟はありがたかった。

俺は周りを見回す。研究所はよくドラマや映画で見るような真っ白い部屋にまたお約束のように真ん中に俺の乗る台座がある。俺が正面に視線を戻すと壁に区切られガラス越しにこちらを観察できるモニター室があった。そこにはリリィのほかに多くの人が詰めているその中に見たくない人がいた。いやな記憶がフラッシュバックするわけじゃないがその人との記憶がよみがえる。


数週間ほど前

「ユキハナさんはいらっしゃらないのですか・・・。」


俺は研究所に呼ばれてその一室にセンさんと二人きりだった。見たくない人とはそのセンさんだった。


「いるけど会えないわよ。あなたも親離れしたらどう。」



親離れって・・・。たまに親の顔を見るのもダメなのかよ。心の中で悪態をつくがセンさんには逆らえない。


「あなたには異世界に行ってもらうわ。」


は?と俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。何言ってんだこいつ。

そう思っているとセンさんは素っ頓狂なことを言ってるのに特に動じた様子もなく3Dモニターに映像を映す。


「私たちの世界になぜ女性しかいないのか。他の動物は雌雄一対で繁殖している。なのに人間は原則女性しか生まれていない。人工子宮アンジィスファムによって人間は繁殖しているが自然ではないことは明らかだ。その原因を研究してきたがようやく一つの可能性が浮かんだ。」


いきなり説明が始まる。インディーゲームのような唐突具合だ。

3Dモニターには複数の球体が映る複数の世界を示すようにカラフルな色の球体が映っていた。さらに同じ色の球体は輪唱の様に後追いで同じ変化をして様々な時間軸が並行して存在していることを示していた。


「この世界は世界改変がされた可能性がある。」


訳が分からない。だが置いてかれないように3Dモニターをしっかり見る。

3Dモニターに赤い波が流れる。すると球体が少し赤みがかる。


「どうしてわかったんですか。」


俺が質問すると少し不快そうにこちらを見る。いいたいことを先に言われたときのリアクションだ。


「世界改変もエネルギーの流れだ。そのエネルギーの残滓を確認できた。把握しているエネルギー同士が干渉した揺らぎだと思ったがそうではなかった。そのエネルギーの波形は過去の観測データからさかのぼると漸減していた。我々の解析できていないエネルギーは現状ない。我々の知らない概念以外を除いては。」


センさんはまるで自分たちの知らない概念が許せないように語気を強める。

把握していないエネルギーを調べたら世界改変だったってだけか。分かりづらい言い方。


「人工的に引き起こされた世界改変。」


センに聞かれないように呟く。


「これが人工的に引き起こされたと仮定した場合もう一度引き起こされるかもしれない。例外があれど男性が消失した世界だ。我々人類を全滅させようとしている可能性がある。」


「そんな・・・の・・・。」


にわかには信じられない話をされ呑み込めない。世界が改変されている?女性しかいない現状を見れば納得できるかもしれない。それが人工的に引き起こされた?女性しかいないのが人間ピンポイントだと考えればわからなくもない。だが本当に?理屈の方ではなく心が納得できない。

それでもセンさんは俺にかまわず話の流れを止めない。


「人類を滅ぼさせるわけにはいかない。私たちには対抗策を用意した。お前には異世界に行ってもらう。」




そこで現在のセンさんに呼び起こされる。


「ケイ!ケイ!」


「は、はい!」


つい物思いにふけってしまった。


「時間をかけるのはいい。だが明日までそうしているつもりか。」


「ご、ごめんなさい」


彼女に叱られるとつい委縮してしまう。幼いころの癖は治らないものなのか。


「おまえ以外に異世界に行ける奴はいない。だからお前を待っているのだ。」


「俺だけなんですよね。」


信じられない。ただ納得もできる。俺はこの世界で唯一の男つまりイレギュラーだ。


「センさん私が話すからあなたは下がって。」


「リリィ一つだけケイに言わせてくれ。異世界への干渉は最小限にしろ。相手の世界を搔き乱すの本意ではない。」


リリィさんが俺の様子を見て提案してくれる。センさんも悪い人じゃないことは知ってるでも苦手なのは事実なのでほっとする。


「・・・。怖いよね。マウスの実験ではマウスが穴だらけになって。あなたの髪の毛だけが生物のもので唯一穴だらけにならなかった。生きて世界移動できる保証なんてない。」


だから俺が選ばれた。俺しか可能性がないから。


「気休めかもしれないけど。今日はいないユキハナさんのお墨付きだから。私たちも何度も再実験をしてる。大丈夫。」


ぎこちないながらもリリィさんが励ましてくれる。リリィさんは年下なので正直照れるが元気がもらえた。


「あなたは異世界で世界を繋ぐ装置の設置の許可を得る。そしてそれの維持をお願いする。その交渉してもらう。だからそれ以外の準備は私たちに任せて」


「はい!準備をお願いします。」


「世界移動装置アリス起動!」


俺の言葉にリリィさんがうなずく号令を上げる。すると俺の乗る台座が光を放ち始める。


「そうそう」


覚悟が決まったところにセンさんが水を差してくる。


「今回ケイを飛ばす異世界は初めてだから与しやすい世界を選んである。男性が神の使いと呼ばれている世界だ。だからこそ下手に対応すると怒りに触れる。」


「どうなるんですか。」


今言う?もうすぐ転送されるんだけど!


「お前のウインナーがチャーハンサイズに切り刻まれるぞ」


「ひい!」


まって心の準備させて!心が揺れてる!


「転送開始!」


俺の心の叫びを言葉にする暇もなく俺は光に包まれる。リリィさんたちが最後に見た俺の姿は青ざめた顔になるのかな・・・。


「っ!」


俺はまばゆさに目を閉じていたがその光が収まるのを感じるとそこは不思議な空間だった。俺は足場の見えない空間に立っていた。白色に螺鈿(らでん)をちりばめたような世界だ。


「これが世界と世界の間・・・。」


ここは世界間移動の間の世界だと説明があった。先ほどのことを一周でも忘れてしまうほど美しかった。

俺はそこを浮遊していると勝手に体が進んでいるのを周囲の景色の変化で感じる。

するとこの空間に入ったときと同じ光を放つ扉のようなものが現れる。

もう迷ってる暇はない。そう確信させられる。


「大丈夫だ。上手く演じればいいだけだ。文化面の差もある。神様の使いでもぼろが出ないはず。」


自分を鼓舞する。寒い朝布団を出るときよりも強く。俺は意を決して門に飛び込む。


「なんだ・・・。この抵抗感」


扉はただの光だと思ったが何やら水中のように抵抗感がある上に無重力のように俺の体を回転させる。まばゆさに目を空けられない。俺はもがいたまま光を進むしかなかった。

これはまずい!落ちる場所次第で死ねる!


「待って立て直させて!」


無情にも光が薄くなっていくのを感じる。そこは異世界だろう。座標は決めてるらしいけど不測の事態もあるらしい。こんなぐるぐる突っ込んだらもしかしたら崖かも・・・!



「うああああ!」


俺は縦回転する形で飛び出すこととなった。ゴロゴロ数回転後両手で受け身を取るが勢いを殺しきれず顔面を強く打ちつけ鼻血が流れるが顔を上げることはできない。最悪の出だしになった。転がりながら見えた風景は大聖堂のように彫像や長椅子の並べられた場所だった。もしかすればここが信仰の拠点かもしれない・・・。


(お前のウインナーがチャーハンサイズに切り刻まれるぞ)


センさんの言葉がフラッシュバックする。

やばいやばいやばい!明らかに神の使いがやっちゃいけないムーブだ・・・。神の使いを騙るものとして問答無用で処刑されるかも・・・。あーやばいリリィさんがあんなに励ましてくれたのに。こんなんなるんだったらセンさんを一発殴っとくんだった。やばいやばい・・・。俺が死んだら冷蔵庫のごはんの作り置きどうなるんだろうなー腐ったものを処分してもらうのは忍びないなー。俺が逃避している間にも雰囲気で自分に視線が集まりながらも一歩引かれているのが分かる。

あぁ。終わった。そう思った。


「あの・・・。大丈夫ですか?」


目の前に影ができる。頭を地面にこすりつけているがその状態でも見えるほど地面近くに手を差し伸べてくれている人がいた。


「・・・。ありがとうございます。」


俺はその人の好意を無碍にできず目をそらしながら汗を垂れ流して差し伸べられた手を取る。


「顔の怪我は大丈夫ですか。」


「大丈夫です。」


俺はうつむいて助けてくれた人の顔も見れない。普通に恥ずかしくて相手の顔も見れない。

時間だけが進んでいく。


「もしかしてあなたは男性?でしょうか。」


沈黙に耐えかねてその人は俺に声をかけてくる。さすがにずっと顔を伏せているわけにはいかない俺は覚悟を決め顔を上げる。目の前にいるのは俺より2・3歳年下に見えるシスター服を着た少女が目の前にいた。さて。先の答えをするとしようか。


「違います。」


「えと、聖書によればその者清らかな聖域から顕現す。とされています。それにそのほか複数の特徴が男性と一致しているのですが違うのですか?」


少女が俺の出て来たところを指す。そこは祭壇のモニュメントが屹立していた。


「ごめんなさい。女性の方だったのですね。・・・でも、そうであればなぜ何もない空間から出てこれたのですか。本当に女性なのですか?」


信仰深いだけあって男性であれば奇跡を起こせると思っているのだろう。そういう世界に来てしまった。その緊張が俺を支配する。そして俺は観念して。


「違います。」


出来なかった。普通にこの後が怖い。


「もしかして言葉が違う?たまたま通じてるように聞こえてるだけ?」


メーフィア天使像持ってきて。と少女が話しかけると白い服を着たシスターが天使像を少女に渡す。渡された少女はフィレリアと呼ばれていた。


「アナタハコレデスカ。」


手振り身振りで天使像を指す。

ここまで入念に天使か調べているなんてこれはまだチャンスはあるのか・・・。正常性バイアスじゃないか・・・?

今ならやり直せる?当初の目的通り神様の使いとして・・・。


「ふん!」


俺に考えている時間はなかった。フィレリアさんは股間を鷲づかみにして握りつぶす。


「あああああああああっああああぁああ!」


俺の目の前は真っ黒になった。



俺は応接室の椅子に座っていた。股間がまだ痛む。

大聖堂での出来事の顛末を思い出す。股間を握られた後両ひざをついて突っ伏す。


「もう一度聞きますね。あなたは男性で合っていますか。」


フィレリアさんの声色は優しかったのに俺を見下ろす悪魔のように冷たく聞こえた。いや本当は優しい声だったけど。

こんな怪しい奴を尋問室にぶち込まないだけ優しいと思うが、この後の詰問を考えると辟易してしまう。あんなふざけた問答の末の結論が自分たちの信仰していた男性だなんて信じたくないだろう。いや彼女たちの定義の男性じゃないが。

俺が応接室をきょろきょろ見回してみる。宗教画のような絵画がいくつか飾ってある。全裸で筋肉質な肉体いきり立った逸物、俗にイケメン女子と呼ばれる顔立ちでまさに聖書に書かれた特徴をデフォルメしたような男性の絵画が飾ってあった。


「しつれいしまーす。エナと申しまーす!」


元気な声で扉が開かれる。自らをエナと名乗る少女のシスターは俺の前のテーブルにお茶を準備する。芳醇な香りも俺を落ち着けるのは叶わない。


「ありがとうございます。・・・?」


エネが俺をきょろきょろと見回してくる。


「なにかごよう?」


エネは俺に聞かれて少し逡巡するがすぐに決心したように前のめりになる。


「あなたは本当に男性なのですか!」


エネが食い入るように聞いてくる。何となく懐かしい気持ちになる。


「そうだよ。」


目の前10センチの距離にエネの顔が近づいてくるがそれも懐かしかった。


「本当ですか!いやー私たちの日頃の信仰が実りの時をいえ!お茶の熟成の時を迎えたんですねぇ!ずっと聖書の中の創作だと思ってましたが、本当にいるんですね~。感動しました!クレインで初めて男性を見れたなんてすごすぎですよ。だって神話生物ですから。人類の勝利ですよ。あなたも人類ですけど。あぁ早くソロルスの皆に自慢したいけど反応を見るのは直にあってからにしたいどうすればいいんでしょう!あなたがおいしいといったお茶を売ればうちの商会も繁盛間違いなしです!」


「そ・・・そうか。よかったよ。」


エネのマシンガントークに気圧されながらもようやく笑顔が出た。癒される子だ。彼女のお茶を買えば笑顔とお茶で二重にリラックスできるだろう。


「エネ。お客様が困っていますからそろそろ解放してあげましょう。」


「フィレリアさん!」


エネが振り向いて太陽のような笑顔でフィレリアさんを迎えた。


「では失礼します!」


エネさんが部屋の外へ出ていく。どうでもいいが部屋の外と中で2人ずつ護衛の人が立っていた。

流石に俺は先ほどの笑みは消える。俺はこの世界に来た理由を説明しなければならない。

ただ対面のフィレリアさんはにこやかに笑う。恐らくこういう場に慣れている。気おされないようにしなければ。


「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ。まずは簡単な質問からしましょうか。」


ペースを握られているだけど逆に助かる。進行なんて俺には難しい。


「では手始めにあなたは侵略者ですか?」


俺はにっこり笑う。脳が処理できない。簡単な質問?この世界の住民は戦闘民族なの?


「大丈夫そうですね。」


俺が固まって居るのを見てフィレリアさんは吹き出すように笑う。


「いきなり何を言うんですか。」


「いえ大事なことです。知らない間に侵略されていたら大変ですから。神の使いとエネさんは言ってと思いますが私の立場ではそうはいきません。あなたが私たちの知らない何かを使って教会に来たのは事実です。それをできるのはクレインにはいませんからあなたは神に使わされたのか、別世界から来たかのどちらかでしょう。別世界から来たなんて信じられませんが神様の使いのほうが胡散臭いのでまだ説得力ありますね。何しろ百年以上生きてきましたが神様の思し召しなど偶然でしかありませんでした。なにより聖書に[男女つがいとなり新たな命生まれる]とありますので男性一人では救世主足りえません。登場の仕方もあれでしたし。」


大仰な大聖堂まで作っているのに信仰対象に対してずいぶんドライだ。それに察しがいい。


「ですので、別世界から来た可能性が高い。資源が目的の侵略者の可能性があると思ったんですね。」


「だとしたら固まっただけでなんで侵略者じゃないと思ったんですか。」


慎重に判断すべき事項なのにあまりにも簡単な判別だ。


「考えれば別世界から来る技術なら無人の世界を探して開拓した方が効率いいと思いまして。わざわざここ「クレイン」のように現地民の妨害がある世界には来ないと考えたんです。」


フィレリアさんはくすくす笑う。優しそうな笑みに底知れなさを感じる。


「その想定外!みたいなリアクションで確証が取れましたね。もし外れていてもあなたがこの世界にいる限り私は見てますからね~」


俺より年下にしか見えないのに彼女は俺よりはるかに大きい感じる。


「『私はあなたを愛します』。」


何のことだ?唐突な言葉に真意を測りかねる。


「この世界の神様とのやり取りです。続けられないということはこの世界の人でもないという事ですよ。あなたの世界を教えてくれませんか。」


俺は一瞬黙る。どこまで話すべきか。いや信用してもらうのが今は先決だ。


「俺はトロイメライという世界から来た。フィレリアさんの言う通り俺の世界の技術は高いと思う。みんなインターネット空間ってところに暮らしてて資源は少ないけど略奪するより技術で何とかしてる。俺たちの世界は安定していたけど・・・いやだからこそこの世界に来る必要があった。」


おれはこの世界クレインに来た理由を話す。フィレリアさんは顎に手を当てて真剣に聞く。正直失笑されると思っていたからその態度は意外だった。一通り話す。


「なるほど世界をつなげるですか。科学的な話の方が神様より信用できますね。」


俺はほっとした。フィレリアさんは神様を妄信する人ではない。そう思って洗いざらい話したが裏目に出なくてよかった。


「私たちに何をしてほしいのですか。」


来た。


「俺はトロイメライの使者として正式にお願いしたいことがあります。この世界に世界を繋げる楔を管理して欲しい。その代わりトロイメライの技術力を一つ。提供します。」


フィレリアさんは考える。ここで結論は出ない。むしろこの俺たちの技術提供が火種になるかもしれないでも譲歩無しに交渉は成立しない。


「子供を産む人工子宮などどうですか。」


クレインは理由は分からないが生殖などしようもないのに人が存続している。理由は分からないが事故死などで人口の減少はあり得るはず。この提案は魅力的だと思惟する。


「ケイさんの世界は神様の呪いは克服したのですか。」


「それは・・・?」


「この世界は人類は罪深い生き物でありその禊のために不老で生き続けることを強いられています。本来であれば罪を清算した段階で男性が降臨して他の生物同様、子を成して寿命で亡くなっていくとされています。その罪を機械で克服した・・・というわけではなさそうですね。」


フィレリアさんは俺の様子を見てひとりで納得していた。


「そうですねもともと呪いなんてなかったです。」


俺が補足すると。技術も違いますしそういうところも違いますよねという。


「人工子宮ですか。先ほども言った通り私たちはずっと生きる罰を受けていますが死者は出るものです。必ず行き詰まりが来ると思っていたので。魅力的です。即答はできませんが前向きに考えてみます。良いお返事ができた時の外部との交渉もお任せください。」


第一関門クリアか?とりあえず今日はこれぐらいしかできないだろうが追々。


「それでケイさんは海の先に行ったことありますか?」


は?と呆気にとられる。初交渉はこれで終わりだと思っていたら予想外のことを聞かれる。


「ごめんなさい困らせちゃいましたか。でもせっかくの出会いです。即興では交渉も大したお話はできてませんのでふつうにおしゃべりしたいんですよ。だって異世界人ですよ!」


フィレリアさんは目を輝かせて身を乗り出す。確かにこのまま仕事話だけというのはここでお世話になるには不愛想すぎる。


「海ですか。言葉では知っていますが見たことがないですね。俺の世界は町が砂漠に囲われていて海があるとは聞いてもそこまでいけないです。この世界にいるか分かりませんが怪物もいますから。だから海の向こうを見るなんて考えたこともなかったです。」


フィレリアさんが嬉しそうに笑う。さっきまでの包容力のあるものじゃなくて無邪気な笑いだ。でも変わらないのは彼女の笑顔は人に安心感を与える。


「そうなんですかー。そうなんですかー!ふふっー!世界を渡れる人たちも見たことのない場所に一番乗りなんて楽しみですねー。」


「そんな予定があるんですか。」


「教会で働いている皆さんのおかげですね。来年多分この世界初の海の外への旅行の予定があるんですよ。世界を超えられる人が知らないところに行けるなんて。海の先に肥沃な大地があると信じたいですね。」


彼女の声は願いに満ちていた。この世界はまだほとんど見ていない。だが恐らく俺たちの世界で言う中世から近世への過渡期とみえる。飢饉や病気が主役の時代だ。


「いいですねっ・・・!!」


その瞬間部屋の外から大きな衝撃音が響く。俺が立ち上がろうとするのをフィレリアさんは片手で静止しながら駆け寄ってきた見張りと話す。

ばん!と扉が開かれる。


「シィクロウィーンの大群が襲撃してきました!」


シィクロウィーンは俺がさっき言った怪物と同じ名前だ。この世界にもいる。曇天を体に写したような昏い灰色の悪魔が目に浮かぶ。


「メリーと合流します。案内をお願いします。」


フィレリアさんは毅然と伝令に命令する。伝令もまっすぐに彼女の言葉に頷く。シィクロウィーンは俺たちの世界ですら脅威の敵だ。臆さない彼女たちの姿に畏敬すら覚える。


「俺も行きます。シィクロウィーンとの闘いは慣れています。」


俺はこの世界に大きなリュックとそして武器を持ってきていた。この武器はシィクロウィーンのためにある。

だが立ち上がった俺の口元にフィレリアさんは人差し指を立てる。


「いいですかあなたはこの世界のことを知らないかもしれません。でも『私たちは誰にも勝てないほど弱いのです。』」


俺はこの世界のことを知らないだがその言葉の重みを感じる。戦ってきたものの言葉だ。


「聖書に[対となる男と新たな命生み出しし時罪が許され眠れる時が動き出す]、とあります。先ほどは一人だけではといいましたがあなたの男性は存在しているという事実だけでもクレインに大きな影響を与える可能性があるのです。だからあなたはここでじっとしていてください。戦いは剣を振るうだけではないのですから。」


と告げるとケイを椅子に座らせる。では行ってきますといってフィレリアは内側の護衛をしていた二人を連れてドアへ向かっていった。


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