別れ話
遠距離恋愛の彼氏が会いに来てくれる。飛行機に時間通りに乗れただろうか。彼は時間にルーズだ。
会うのはこれで最後になるかもしれない。別れるかも。
彼は珍しく時間通りに待ち合わせ場所に来た。二泊三日の割には身軽だ。
「荷物はどうしたの?」
「今回は身軽なんだ。・・・色々とね。」
私たちはいつもの喫茶店に入った。ここに来るのは何度目だろう。でももう最後かな。
ここに一人で来るにはあまりにも思い出が多すぎる。
いつからうまくいかなくなったんだろう。距離は離れていたけど心はずっとそばにいた。気がしていた。
ありきたりだけど、彼との価値観のズレに不満が溜まり、心の距離が遠くなっていったのかもしれない。
彼がコーヒーのカップを傾けながら重い口を開いた。
「元気?」
「うん、あなたが思ってる以上にね。」
つい嫌味が出てしまう。彼は多分、私の元気がないから連絡の回数が減って疎遠になってしまったのだと思っている。
私は元気です。
「そっか、、、それはよかった」
彼が微笑んだ。私は彼の笑顔を久しぶりに見て少し嬉しくなった。別に、別れたいわけじゃない。
元に戻れるなら戻りたい。楽しかった。
でも、何かがずれてしまった。修復できるのか分からない。自信はない。しばらく連絡も取ってなかったから忘れられたかもしれない。嫌われたかも。
久しぶりだから、少し気まずい時間が流れた。前はあんなにたくさん話してたのに。
しばらくすると彼が口を開いた。
「今日は、僕はまだ君のことが好きだって直接伝えるために来た。」
やっぱりそうか。彼はいつだってこうだ。そろそろ嫌いになってくれてもいいのに。
「最近、お互いに忙しくなって、考えないといけないことも増えて、お互いのことを想う時間が減ったかもしれない。たぶん、僕はこのままほっといたら君のことを忘れていくんだと思う。でも、お互いに好きになるって本当に凄いことだと思うし、この先ここまで好きになれる人が現れるかどうか分からない。だから僕はもう少し君と一緒にいたい。好きなんだ。あわよくばずっと一緒にいたい。」
少し涙ぐみながら気持ちを伝えてくれた彼を見て、気づけば自分も泣いていた。自分もまだ彼のことが好きなんだ。
その日は時間の許す限り彼と一緒にいた。最近話せていなかった色々なことを話した。会話が弾む。楽しい。安心する。
また明日も会う約束をした。2泊3日だ。迷惑じゃなければ明日も明後日も会いたい。
でも、別れ際の彼の顔は寂しそうだった。
明日も会うのに。
今日の昼に飛行機が墜落したと知ったのは家に帰ってからだった。亡くなった人の名簿には彼の名前があった。