第7話:想定内さ!
――30分後。
俺と結奈はそれぞれ馬に乗って目的地である西の洞窟へ向かっていた。ま、今日中には絶対着かないから取りあえず今日はその中間地点までだけど。
「今日はなんで任務受けに来てたんだ?」
会話がないのもアレなんで会話をフってみた。
「あなたとおーんなじ理由よン」
なんだ。気晴らしか。
あ!そういえばまた心読まれてる!
「なぁ、その心読む能力って読むつもりなくても読めちまうってヤツか?」
「ウフ。そんなわけないじゃな~い」
つまり?
結奈は自分の意思で俺の心を読んでいた、と。
「あったり~」
……だめだ。
文句言おうとしたが、勝てそうにない。
だってこいつ、常識通じなさそうなんだもん。
「しょうがないわねぇ~。読まれるのが嫌ならたまに読むくらいにしてあげるわよ」
「常識通じてるようで通じてないな。普通ならこれからは読まないって言うんじゃね?!」
「普通ってなあによ?」
「……もういいっす」
俺は諦めた。
そんな俺の紅い目に飛び込んできたのは、行く手を遮るように倒れている1人の老婆。
馬でそのまま轢く訳にもいかないので、
「Fly:飛行」
老婆を邪魔にならない道の端へ空中浮遊で移動させた。
「よし、これで大丈夫」
スッキリした表情を見せる俺に、
「助けないのねェ?」
疑問を口にしながらも、楽しそうな結奈。
「いいんだよ。ここら辺はいろんな魔物がよくいるんだ。あの婆さんも魔物かもしれないだろ」
俺は昔読んだ本で、魔物の扮した美しい女性が、通り掛かりの男性に「助けて下さい」と言って男性が近付いた所を襲いかかるという手口を知っている。
古文かなんかであったよな?
俺はその本を読んで恐怖を植え付けられたから、こうして今も老婆を助けない。ごめんネ(ハート)。
考えてる間にも俺たちは老婆の横を通り過ぎようとしていた。
老婆は道の右端に大人しく倒れているようだ。
ちなみに、俺が先頭を走ってその後を結奈が続く順番ね。
俺が何事もなく通り過ぎると、
「きゃあっ?!」
ズシャッ
ズザザザザ!
後ろから何かが落とされ、引きずられるような音が聞こえると同時に響いた結奈の悲鳴。
俺は馬を止め後ろを振り向く。そこには老婆に足を掴まれ引きずられる結奈がいた。
いきなり乗り手のいなくなった結奈の馬は、道を逸れて狂ったように走り去っていく。
「やっぱ魔物かよ!」
老婆の目は血走り、耳まで裂けた口。歯の一本一本がナイフのようにとがっていた。
結奈の足に食い込んだ爪は鋭く、結奈の足からは血が滴り落ちている。
「くっ!tear:裂け」
結奈が魔法を唱えると、老婆の身体中から噴水のように緑の血が吹き出した。
『グギャアァアァア!』
老婆の悲鳴が響き渡る。今がチャンス!
「cut:切断」
俺の魔法で結奈を掴んでいた老婆の腕が切断された。結奈が自由になった所を俺が素早く引き寄せる。そして、持ち主を離れてもなおしっかりと結奈の足を掴んでいる老婆の手をはがした。
「うわ~、こりゃひでえな。」
思わず感想。
結奈の足は血だらけで、傷も結構深いようだ。
「翔くん、後ろ!」
「あぁ、分かってるよ」
慌てる結奈に冷静に返すと、腰に下げている長剣を抜きながらクルッと回り老婆を斬った。
狙いは――首。
「狙い通りだな」
老婆の首が飛ぶ。
それから緑色の雨が降った。
「死んだのねぇ…?」
結奈が確かめるように聞いてきたが、ぶっちゃけ確かめるまでもない。
俺はただ無言で頷いた。そして座り込んでいる結奈を見下ろすと、
「恐かったか?」
優しく笑いかけた。
深い意味はない。前に怪我人には優しくすんのが一番ってダンのオッサンがいってたからね。
「やっぱり強い…わぁ」
結奈はぼんやりと呟いた。