第5話:罪
シリアス入りま~す。
まあ前から少し入ってたけど。
あたしは朝早く目が覚めた。まだ外はうっすら暗い。
あたしは今零国の零軍が所有している建物の空き部屋に泊まっている。
本当は一般人は利用してはいけないらしいのだが、今回は特別なんだそうだ。
あたしは目を閉じて今までの回想をする。
昨日――あたしはある教団から逃げ出した。
理由は、あたしへの扱い。教団にいると度々記憶のないことはあったのだが、教団の幹部からは病気だと説明されてきた。しかし、その後それが嘘だと気付くようになる。
事の発端は2ヵ月前。
あたしは目を疑った。
我にかえったら体が勝手に動いて――見ず知らずの男性をナイフでとどめを刺していたのだ。
体の自由が効かない。まるで誰かが動かしているかのように動くあたしの身体は、倒れて俯せになった男性の身体を蹴って仰向けにさせた。
それは、やっぱりあたしの知らない人だった。
おかしい。あたしの記憶が正しいのなら、あたしは教団の自室で本を読んでいたハズ…。
こんな男性なんか殺す理由もないし、第一こんな場所来た覚えもない。
そこから記憶が飛んで、目が覚めたあたしは教団の自室のベッドで寝て居た。
――酷い夢を見た。
その時はそう思った。
それからというもの、あたしが誰かを殺す夢は殆ど毎日続くようになる。
そして、ある日見てしまった。
いつものようにベッドから起き上がると、手に付着した僅かな血液。
これは夢ではないんだ。
そう確信した瞬間だった。
あたしは密かに教団の本棚を漁り、人を操る魔法について調べた。
これは病気ではないと何となく気付いていたからだ。
そして――見つけた。
それは黒い皮表紙のほんに記されていて。
そこからあたしが分かったことは、
古い魔法だが、強力だということ。
呪文を行使された対象は操られている間記憶を失うこと。
そして、何度も同じ対象に使い続けるうちにその対象は操られている間も、自分の意思、記憶を失わなくなるということだ。
思わず手が震えた。
自分の症状とぴったり一致したからだ。
正直、今まであたしが知らない間に手に掛けてきた人の数を思うと叫びだしそうになった。
あたしが最初に記憶を失い出したのは8歳の頃。恐らくその頃から操られていたに違いない。
あたしは利用されていた。
そしてその事実があたしが教団から逃亡するきっかけとなった。
逃げ出すのは簡単だった。教団の奴等は今までずっと逃げ出す素振りも見せなかったあたしが、今になって逃げ出すとは思っていなかったらしく、誰一人として警戒していなかったのだ。
あたしは今までのお礼として、教団の建物の出入口に油をサッと撒くと、
「Flame:小球」
魔法でその上にちっさな火の玉を落とした。
一気に燃え上がる出入口。あたしはそれを背に走って教団の建物から離れた。
背後から悲鳴や怒鳴り声がする。それと一緒に何人かの足音が迫ってくるような気がしたので、ぐんぐんとスピードを上げて走った。
「ハァ、ハァ」
――たどり着いたのは《九十九》という居酒屋。
そしてあたしを憎む少年と出会ってしまった。
あたしが知らぬ間とはいえ犯してしまった罪の罰を受けなければならないのなら喜んで受けよう。
――あの少年の気が済むまで。