第4話:謎
――ざわっ
零番隊のメンバーだけでなく、たまたま店に来ていた客も一緒になってどよめいた。
俺は構わず続けた。
「お前、どっかで見た事あるなあと思ってたんだ。親父逹を殺った次は俺を殺りにでも来たのかよ?」
少女は目を見開き、俺を見つめる。困惑を隠せない様子だ。そして深く息を吸い込むと、かすかに震える声でこう言った。
「あたしはアンタなんか知らない。人違いよ」
「人違いなんかじゃねえ!確かにお前…」
「落ち着け。熱くなったって、なーんにも変わんねえぞ」
俺の言葉はダンのオッサンによって遮られた。
そしてオッサンは少女に向かって言った。
「ここじゃ落ち着いて話も出来ねえ。着いて来てくれるか?」
少女は一瞬戸惑ったように目を泳がせたが、
「いいわよ」
とだけ答えた。
騒動から約1時間後。
俺は今零国の軍の本部にいる。軍に本部がある理由?
それは、零国の軍っていっても、零国はそんなもん要らないくらい平和だ。平和になると必然的に戦士達は訓練以外暇になるので、ここ本部で零国の各地で起こる問題(主に魔物が異常発生とかだな)の情報を集めてきて、戦士達に退治の任務を与えるんだ。
結構重要なんだぜ。
部隊の強さと任務の難易度は細かく分けられる。
部隊の強さは下から順に、十番隊から零番隊となる。
任務は簡単な方から、星一個から星十一個まで。
部隊と任務を細かく順に分けるのも、戦士がレベルに合ってない任務に当たらないようにする為だ。
レベルに合わない任務をさせて死者を出しちまうと親族の方々が黙っちゃいない。
家族の誰かが殺されたらそりゃ許せねえだろう。
俺の場合も…そうだ。
しかし、今回少女の話を落ち着いて聞いてみると、怒りは勿論あったが、それよりも疑問が風船のようにゆっくりと膨らんできた。
本人は俺の両親なんて知らないし記憶にない、だけど殺したのかもしれない。と、ぽつりと言ったのだ。
その後ダンのオッサンが詳しく話を聞くと、彼女はある教団から命からがら逃げてきた事が判明した。
そしてなんと、彼女はずっと教団の人に魔法で操られていたと言うのだ。
彼女が言うには、
「しょっちゅう記憶のない部分がある。そこが操られていた時間じゃないかしら」
らしい。
洋介と俺は人で賑やかな本部の廊下を歩いていた。
「なあ、俺アイツが言ってる事信じていいのかわかんねーよ。洋介はどう思う?」
俺はとにかく誰かの意見を聞きたかった。例えそれがうんこたれの洋介でも。
「たれてねーよ!」
「ふーん?で、どう思うんだ?」
「たれてないって信じてねーな。ったく!」
洋介はそこでコロッと表情を一変させ、真面目な顔つきで続けた。
「うーん…あの子の事は俺は信じるぜ。」
「信じるのかよ!」
「ああ。だってあの子よく見たら傷だらけだったぜ?見るからに謎の教団から酷い扱い受けてきたって感じだった。
魔法で操られたりとかも余裕であるんじゃねえの?」
傷だらけだったのか…。怒りでアイツの事ちゃんと見てなかった。
「そうか…」
俺らはその後、零番隊所有の建物に着くとそれぞれの部屋に解散した。
俺はすり寄って来るプー太郎に魚をあげると、まだ夕方の5時過ぎだったがベッドに倒れこみ、眠ろうと目をつむった。
頭の中では謎の教団や金髪少女がぐるぐると回っている。
――翔が結局眠りについたのは夜の11時を超えていた。