第3話:フラッシュバック
親睦会は、現零番隊と新零番隊が一緒に飯屋に行って飲んだり食べたりするだけというものだった。今いるのは、《九十九》というビールが美味いと評判の居酒屋。
俺はビールは飲める方だが、万が一飲み過ぎて我を失って雪ちゃんの前で腹踊りをしようものなら、ドン引きされかねない。実際に洋介はそれを好きな娘の前でやって実証済みだ。
「雪ちゃん、これ食べる?」
話しかける内容が思い付かなかったが、無理矢理内容を捻り出して声をかける。俺が差し出したのはイカのつまみだった。
「うふふ、ありがとう」
ああ可愛い。
勘のいい人なら気付くかもしれないが、雪ちゃんの口調が敬語からくだけた口調に変わっている。
雪ちゃんは零番隊では後輩だが、実年齢的に言うと俺より2個上だった。俺はそれを理由に雪ちゃんを説得して俺に対しての敬語をやめてもらった。ま、本当のところは敬語を使われると雪ちゃんと仲良くなった気がしなくて嫌だったからなのだが。
「あら?ねえ見て。あの娘1人なのかしら?」
雪ちゃんが不思議そうに俺に話しかけてきた。
雪ちゃんが見つめる先は、俺らが親睦会をやってるテーブルから2つ程離れたテーブルに座っている金髪の少女。
その少女は、目を閉じて考え事をしているようだった。
眠ってはない、と断言出来るわけではないのだが。
「1人かあ~。どうだろうな?誰かを待ってるように見えなくもないけど…。それより今は楽しもうぜ!」
そんな俺の提案に雪ちゃんはにっこり頷いて、グラスを引き寄せビールを飲んだ。
――あれから2時間は経過した。
零番隊の殆どはすっかり酔いつぶれ(雪ちゃんはそんなに飲んでいないので平気そうだった)、俺は新しく入った零番隊の少し悪めの兄ちゃんと話し込んでいた。
「――でよー、その女その時何て言ったと思う?」
酒で顔を真っ赤にして、昔の女の話に花を咲かせる少し悪めの兄ちゃんこと、永谷 亮太(25)。
「今夜は月がきれいだね?」
俺は全く答えが浮かばなかったので適当にボケてみた。
「ぶぁっか!クク…正解は“あなたの×××が欲しい”だ」
「うっわ!やるな!その女!聞いてるこっちが照れるぜ………あ?」
俺は目を疑った。
「どうした?弟分よ」
「俺一応上司…まあいい。あの女の子まだいるよ」
――そうなのだ。2時間もすれば大抵の客は帰ってしまう。(俺達は例外ね。)
それなのに、あの少女は何をするでもなく。ただ目をつむり、座っていたのだ。
何も食わなくてただ居るって迷惑の極みのような気もするが…。
…何かあったのかもしれねえな。
一応声をかけてみるか。
そう思い俺は立ち上がりかけたが、亮太に腕を引っ張られまた椅子に逆戻りする。
「事情は何となーく分かった。俺が様子聞きに行ってやるよ。お前は座ってな」
「あ…あぁ。」
多少戸惑ったが亮太に任せることにした。
それにしても何で亮太は自分から少女の様子を聞きに行ったんだ?話を聞いてるとめんどくさがりっていう印象しか受けなかったんだが。
少女に近寄る亮太に目を移すと、何となく嬉しそうなオーラが出ていた。
――なるほど!
謎の金髪少女は目をつむってはいるが、ハッキリ言って美形だ。
この短時間で分かった事は亮太は女好き。
それらを照らし合わせてみると、亮太の行動の理由に説明がつく。
我ながらホームズもびっくりの推理だね。
翔が自分の推理に酔いしれている一方、
亮太はいそいそと近付くと、目を閉じたままの少女に話しかけた。
「君ィ、1人ー?」
…これではナンパと寸分違わない事に彼はきづいているのだろうか。
美少女はその声にビクリと肩を震わせ目を開けた――。
――それは深い青の瞳。
「おっやっぱり可愛いねぇ」
亮太は嬉しそうににやつく。
その時だった。
ゴォッ!!
風を切って何かが飛んで来る音がした。
亮太が気付いた時には、火塊が金髪美少女にあと2メートルてぶつかるというところ。
――間に合わねえっ!
亮太が声も出ずに固まっていると、
「何してんだ!翔っ!!」
ボウッ
ダンが目にも止まらぬ素早さで少女の前に飛び出し、火塊をかき消した。
「てめえら!放せよ!」
俺は零番隊のメンバーに取り押さえられた体を自由にしようと必死に暴れる。
「翔!落ち着けよ!!」
洋介は俺を落ち着かせようと必死だった。
「落ち着いていられるかよぉ!!そこの女は―――」
折り重なるように倒れている両親。
血のついたナイフを舐める少女。
そして深い青の瞳。
――忘れようがない。
「俺の両親を殺した女だ!!!」