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第25話:神の力なんて信じねーもん!

誤字脱字感想お待ちしてます(^ω^)!


「ヘイらっしゃい!お兄ちゃん何をお探しかね?」


でっぷりとした体格で、威勢の良いおばさんが揉み手をしながら店の奥から出て来た。


俺はうーん、と考えた後にこう尋ねる。


「今旬の野菜って何だ?」


おばさんは店の入口付近に置いてある色とりどりの野菜を指差しながら言った。


「今が旬なのはここらへんに置いてある野菜だね。お兄ちゃん一人暮らしかい?」


「そだよ。なかなか大変でさあ~!」


入口付近の野菜を手に取ってみる。その野菜は黄色い光沢を放ち、食べてくださいと言ってるようだ。


「食べてください…」


…あれ?


「おばさん、さっきの声…」


「ん?なんだい?」


「いや、何でもねーっす」


このおばさんが言う訳…ねえよな。俺は警戒しながらまた野菜に目を向ける。


その瞬間、野菜に入れてあった切れ込みがパックリ開き、



「食べてください!」


物申した!


「ぅわあっ!?」


ボテッ


つい野菜を取り落とす。


「な、な、な!

野菜が喋った…!」


尋常でないくらい驚く俺におばさんは笑顔で近付いた。


「これはゴールドチャッターって言う野菜でね、炒め物とかに向いてるんだよ。」


「へ、へー…そおなの。」


心臓に悪い野菜だなっ!もう!


心臓がやかましい俺を余所に、おばさんは言う。


「しかし、この野菜を知らないなんて珍しいね。私の息子は5歳になるけど店に置いてある野菜は空で言えるよ」


世間知らずですいませーん。でも八百屋の息子と比べないで頂きたい。


「そうっすか…」


「今度うちにご飯食べに来ないかい?

息子が零番隊の大ファンでさ。話を聞かせて欲しいんだ。」


俺はゴールドチャッターを拾い上げた。


「いいのか?ありがとう!


それと、これ落としちまったから買うわ。あとその緑の葉っぱも買おうかな!」


「ラッピン草だね?毎度あり~。

じゃあお兄ちゃんの為に腕を振るったご馳走を用意しとくよ。」


おばさんは笑顔で手を振った。俺も立ち去りながらそれに答える。


「おう!期待しとくぜ!」


大股に八百屋を出て、角を曲がった所で立ち止まった。


「あのおばさん、何で俺が零番隊って事知ってんだ…?」


今は私服でマントも着ていない。任務中はマントで顔を隠すので零番隊のメンバーの顔は世間に知れ渡ってないはずだ。今の俺の姿で零番隊と結び付ける事は難しいだろう。


なのに、何故。


何の変哲もない八百屋が?


「あーもう!」


むしゃくしゃして地面に落ちていた石を蹴る。それは2、3回跳ねてまた何事もなかったかの様に大人しくなった。


最近頭使う事だらけだ。謎の教団の出現にロイレンの問題、次は八百屋のおばさんと来た!

俺の頭はそんなに強くねーんだよォ!


足音も荒く自宅へ戻る俺を見て何故か恐怖で失禁する者が沢山いたというのはまた別の話。


◆◇◆◇◆◇◆◇


赤髪の少年が去った後――



八百屋のおばさんこと、ラックスは肉付きのよい腕を組むと店の奥の暗闇に目を向けた。


「こんな感じでいいのかい?」


一見独り言のように呟かれたそれは、さっきまでいなかったはずの人物に向けられていた。


暗がりの人物は静かに頷く。


「そうかい、それは良かったよ。それにしてもお前さんもよくやるねえ。」


おばさんの感心したような、それでいて呆れたような声。言葉は続く。


「そう言えば、食事に誘うのは明後日で本当に良かったのかい?」


暗がりの人物は再び頷いた――。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


食卓の上には肉中心の素晴らしい夕飯!

我ながら自分の料理の上手さに惚れ惚れするぜ!


ほんの1時間前にブチ切れそうだった事をすっかり忘れ、自らの料理に酔い痴れる俺。


俺の足にはプー太郎が俺の素晴らしい料理のセンスを褒めたたえようとすり寄ってくる。


「さあ!

召し上がれ俺!」


いっただーきまーす!と手を合わせ、手近な唐揚げを一口パクリ。


「んまー!!」


このカリカリ感!味も濃過ぎず薄過ぎず!


サイコーだ…


ピンポーン

ピンポーン


ぜ?


「……客か……チッ

タイミングの悪いヤツめ」


渋々席を立ち(よい子の皆は食事中に席を立たないでね!)玄関に向かう。


そしていつもの癖でドア越しに透視の魔法で訪問者を見てみた。


「珍しいな~」


ドアの外に立っていたのは短い金髪のショタガール。フワフワした白い部屋着姿で何やら落ち着かない様子だ。


「入っていいぞ」


俺はドアを開けるなり言った。


「翔君、こんな時間にごめんね?……今大丈夫?」


本当は食事中なんですけど…


「全っ然大丈夫だ

まァ座れよ!」


俺は出来るだけ明るくリビングに案内し、ソファーに座るよう促した。


ロイレンは落ちつかなげに俺の部屋を見回し、ソロソロとソファーに座る。そして、


「わー!猫ちゃんだ!」


と、するりとロイレンの足元を駆け抜けたプー太郎を見て目を輝かせた。


「こいつはプー太郎って言うんだ。俺の愛猫!」


「ニャオ」


プー太郎を持ち上げて紹介をする。

ロイレンは更に目の輝きを強めた。


「かわいー!!!」


……こいつは何しに来たんだ?

でもまあプー太郎を褒められて悪い気はしないが。


「ロイレン、用事って…?」


「あ、ああ!

昼に話した事覚えてる?」


重要な事をそんなにすぐ忘れる程記憶力は悪くないぞ。


「勿論」


「ボクとドレイシア王国の関係を知りたがってたよね?

あれから色々考えたんだけど、翔くんには言おうと思って…。」


「…確かに俺は昼間『話して欲しい』みたいな事は言った。

だけど、重要な秘密だったんなら無理して俺に言わなくてもいいんだぞ?」


ロイレンにとっては今更な俺の発言。ロイレンは困ったように笑った。


「翔くんに言おうと決めてここまで来たんだよ?もう気持ちは変わらないよ。」


「そうか…」


ロイレンの真っ直ぐな目を前にして俯く。

そんな俺にロイレンは静かに問い掛けた。


「ボクがドレイシア出身って言うのは知ってるよね?自己紹介で言ったから。」


え!嘘だ。知らねー…。そのとき雪ちゃんの自己紹介に夢中だったからな。


俺はさも知っているかのように頷く。

ロイレンはそれを見て、唐突に言った。


「任務中、ボク達を襲ったのはボクの友達だよ」


「…どうして分かったんだ?」


ただの勘違いかもしれない。友達が友達を襲うだと?そんなこと簡単にあっていいもんじゃねぇだろ。


「ドレイシア王国っていうのはとっても小さい国でね、元々人形師をやってる人間なんて二人しかいなかったんだ。


その一人は去年寿命で亡くなってさ。……残るはボクの友達しかいないんだ。」


ロイレンの目が哀しそうな色を帯びる。


「……まだ分かんねーだろ」


「……何が?」


「ドレイシアの材料で作られた人形だった。ただそれだけで友達だと決め付けんのはよくねーぞ」


俺はロイレンと目を合わせながら言い切った。

早とちりはよくないもんね!


「そもそも狙う理由がないだろ?」


「うん…」


アラ!何やら煮え切らない返事。そもそもあの時鍵がなんとかって言ってたっけ…?それが何か関係あんのかな。


「鍵ってなんなんだ?」


その言葉にロイレンは暫く考え込んだ後、慎重に口を開いた。


「ボクの父親が鉱山で見つけたっていう鍵だよ」


「何でそれが狙われる?」


「ボクはまだ信じられないけど、神の力を開放するって噂があるからかな…。

父もその噂信じちゃってさ。家族で一番強くて、他国に行くボクに鍵を預けたんだ」


神の力だァ!?馬鹿らしい!そんな物のためにロイレンが狙われんのかよ。


「……今持ってんのか」


ロイレンはコクリと首を縦に振ると、首に掛けていたネックレスを俺に見えるように服の中から引っ張り出した。


「何だこの鍵…!?」


それは何枚ものお札でグルグル巻きにされていた。辛うじて見える鍵の表面は透明で眩いばかりに輝いている。


「魔力が強過ぎてお札で押さえないとこれを狙ってる人にすぐバレちゃうんだ」


そう言ってまたすぐに服の中へ入れ込んだ。


神やらなんやらは嘘だとしても、売ればかなりのお金になるだろう。


「ロイレンはどうしてソレを守り続けるんだ?

メリットとかねぇだろ」


俺はベットに腰掛けた。ずっと立ったままじゃ辛いものがあったんですよ。


「うーん…これは父の意見なんだけど、神の力は人に宿っているらしいんだ。


人は良い人も悪い人もいる。もし神の力が宿ってる人物が悪い人だったら神の力を開放されるとまずいから、じゃないかな…」


んーなるほど。

親父さんはきっと正義感が強いんだろう。


「そっかァ…お前も大変なんだな。」


話が一段落しかけた丁度その時、


クゥー…


ショタガールのお腹が可愛らしい音を立てた。


「あっ…」


さっきまでしみったれていた顔が一気に恥ずかしそうな顔に変わる。


「…飯食ってねーの?」


仕方なく…仕方なーく聞いた。本当は無視したかったが。


「うん…。ゴチになりまーす!」


そう言うやいなや、ソファーを勢い良く立ち上がり俺の自信作達が並ぶ食卓へ…


「ぎゃああぁああっ!!何してんのお前ェっ!」


俺がまばたきを一回した後にはもう愛しい料理達は消えていた。

傍らには白いハンカチで口元をゆっくり、満足げに拭くロイレン。


「お前…もしかしてずっと狙って……?」


「ボクが…?そんな事ないよー。クスッ」


「うああああああ!!

返せぇえぇえええ!!

俺のりょーり!!

自信作ぅうう!!!」


俺は何年ぶりかの絶叫を漏らした。


【後日談】


洋介曰く、

俺の魂の叫びは建物中に響き渡ったという…。

つまり雪ちゃんに聞かれたぜ。ぐすん。



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