第21話:オペーラ
今回もちょっと短いです。資料探し完結です。
――今すぐ逃げよう。
そう言った洋介の声はかすれ、目は一点を見つめている。
「何見て……後ろか?」
俺は後ろを振り向いた。
「へ…?」
そこには俺が資料をあさっている時に無性に気になっていた仮面が地面から1~2メートル上を漂っていた。
「仮面が宙に浮いているだけで御座ろう?洋介殿は何をそんなに怖がっているので御座るか?」
ケンジョードが冷静な意見を言った。それを聞いた洋介は信じられない、と目を見開く。
「馬鹿か!アレは『オペーラ座の怪獣』で有名な仮面だぞ!第一、ただ浮かぶだけならこんな資料室に厳重に保護しねぇって!」
「『オペーラ座の怪獣』の仮面だと…?」
俺は素早く腰の剣に手を掛けていつでも抜けるように準備した。
『オペーラ座の怪獣』の仮面といえば、2年前ある地域で無差別大量殺人事件がおこって、その殺人犯がつけていた真っ白な仮面の事だよな。その仮面は被害者たちの返り血をたっぷりと吸い込み、怨念の呪いがかかったことで有名だったが…。まさかこの資料室に保管されてたなんてな。
あー面倒。つか呪いってどういう呪いかハッキリ分かんねえから怖いんだけど。
隣りのケンジョードは『オペーラ座の怪獣』のことを知らなかったらしく、困惑しつつも杖を取り出している。
――すると。
2年前に返り血を浴びたはずなのに不気味な程真っ白な仮面の半月型に開いている口から、これまた白く尖った鋭い牙がギチギチと妙な音を立てながら生えてきた。
「俺たちを噛み千切るつもりか」
洋介が呟く。その両手には長さ60センチ程の反った剣がそれぞれ握られていた。
洋介はシスコンのどうしようもないヤツだが、これでも二刀流の使い手だ。剣の腕は俺と張り合えるだろうな。剣だけなら。
ガチン、ガチンと仮面の牙が噛み合う音が資料室に響く。
仮面は歯をガチガチ言わせるだけでまだ攻撃を仕掛けてこない。もし攻撃してきてもこの仮面を粉砕する事は簡単だろう。
けど――。
俺は悩んだ。
資料室に保管されている物を無断で壊していいのか?仮に壊したとしたら、この仮面を研究しようとしていた研究チームから怨み言を言われるのは俺たちだ。
――零番隊に所属していながらこの程度の仮面ごときをどうして壊さずに鎮めれなかったのか?僕たちのこれからの研究はどうすればいいんだ!ってな。
「『オペーラ座の怪獣』仮面、活動反応確認。」
資料室全体についさっきどっかで聞いた声が流れた。
ウ~ウ~。
天井に取り付けられていた警報がやかましく鳴り出す。
「な、何事で御座る!」
ケンジョードが驚きながら辺りを見回した。
そして、バアン!と資料室のドアの開く音と共に白ウサギがナガーイ銃をもって現われた。
「『オペーラ座の怪獣』仮面、捕獲します!」
ポオンッと軽い音を発しながら銃から弾丸のように飛び出したそれは弾丸ではない。その物体はあっという間に仮面の上空で大きく広がると、仮面を包み込むように落下した。
「網、か?」
今や仮面を地面に押さえ付けている物体は網だった。仮面は網を噛み切ろうと歯を鳴らしているが網は魔法で強化されているのかびくともしなかった。
「この仮面は叫び声に反応するんです。誰か資料室で叫びませんでした?」
ここで叫んだヤツ…確かレシルの呪文を見つけた時にアイツが……。
「スイマセン。俺です」
そう言って恥ずかしそうに手を挙げるのはやっぱり洋介。
「洋介、後でリンチな」
「洋介殿、しっかりするで御座る」
俺は洋介をリンチすると心に誓いながら、呪文の資料を強く握った。