第2話:新メンバーと恋の始まり
俺が息を切らして璃念川ほとりに到着するやいなや、俺を迎えて下さったのは俺の育ての親であり、零番隊隊長である、水無月 ダンからの容赦ないげんこつだった。
ガチーンと音が響き渡り、ありがちな表現だが星が見えた気がした。これがめっちゃ痛い。家で準備する際に震度7弱が俺を襲ったのも、このオッサンのげんこつを身体が覚えていたからである。
水無月 ダン(いつもオッサンと呼ばせていただいている)は、テカテカの黒い髪をいつもオールバックにしているムキムキマッチョのオッサンだ。説教する事が大すっきーな45歳である。
まあ、その説教の相手は大抵俺なんだが。
あ〜あ〜そんなに大きな声で怒鳴るんじゃねえよ。ほら、新人が怯えてるじゃん。
ついでに説教の内容は遅刻についてと、将来について(なぜ将来の事か?そりゃこっちが聞きたい)だ。
ぶっちゃけ、このオッサンのげんこつが恐いだけであとはな〜んにも恐くない。
うん、ヤマは去ったね。
俺はオッサンの説教を聞くフリをして、オッサンの肩越しに新メンバーの観察を始めた。
どうやら新メンバーは5人だけのようだ。
男3人女2人で男の方は見るからに強そうなゴツめの男が一人いる。
俺が新メンバーを見ている事に気付いたのか、ダンのオッサンは溜め息をついて、
「しょうがねえ、
この糞餓鬼の為にもう一度自己紹介してくれねえか?」
とおっしゃった。
もう自己紹介終わってたのね。
新人さんたちは2度目の自己紹介なのでさすがに慣れたのか、1人1人と自己紹介をしていく。
その中でも俺の気を引いたのは水色の長い髪の女性だった。(もう1人の色香溢れる美女は俺には刺激が強すぎた。)
この水色の髪のおしとやかそうな女性はなんと言うか……これ言うの照れるな……いや、ハッキリ言おう。俺の好みのタイプど真ん中だったのだ!
俺が運命の出会い?に感動していると、
「オイオ〜イ。な〜に見とれてるのかな?翔く〜ん?」
俺の親友であり、元からの零番隊の武田 洋介が茶化してきた。
洋介は茶色の短髪が爽やかな俺と同じ18歳だ。
「ほっといてくれ。今俺は彼女の自己紹介を脳ミソにに焼き付ける準備をしているんだ」
と、そこへ噂の彼女の自己紹介が始まった。
「私の名前は冬川 雪っていいます。20歳で、得意な魔法は盾の呪文です。頑張って皆を守れるように頑張りたいと思うので、どうぞよろしくお願いします」
深々と一礼する雪ちゃん。礼儀正しいとこも俺好み。10点プラスだな!
この雪ちゃんの自己紹介は一生忘れんだろう。
「それにしても良かったな?翔」
洋介がポンポンと肩を叩いてきた。俺は頷く。
「ああ、こんなど真ん中めったにいねえもん」
「いや、そうじゃなくてよ。まあ一応それもあるんだけど」
俺は首を傾げた。
「何かあんのか?」
「お前ダン隊長から聞いてねえの?!」
洋介は驚きながらも続ける。
「この後新メンバーとの親睦会があるんだぜ?雪ちゃんと仲良くなれるチャンスじゃねえの」
――まじかよ。俺知らねえし。あのオッサンの連絡ミスなんだろうな、どうせ。
俺が、大事な事を言わなかったオッサンへのどうしようもない怒りを押し込めようと努力していると、我がアイドルの雪ちゃんと目が合った。
彼女はなんと!ふんわりとはにかんだように微笑んできて下さった。
「ドッキーン」
「翔、お前口に出てるぞ」
すかさず洋介にダメ出しされるが、俺は気にしない。
これから春の予感がする。どうやら未来は明るいらしい。俺はスキップしたい衝動を抑えて、親睦会で雪ちゃんとお近付きになろう作戦を立てるのだった。