第19話:休暇三日目
今日も零国の空は青く澄み渡り、民家という民家の庭では洗濯物がハタハタと気持ち良さそうに揺れている。
――今日は休暇三日目。
休暇二日目の昨日はこれといって何もなかった。謎の宗教団体を見つけだそうとも思ったが、何から探していいのか分からない。
俺はプー太郎を撫でながら昼飯のカップラーメンが出来上がるのを待っていた。
――レシルが操られていた呪文も詳しく知りたい。
(……特別資料室に行くか)
俺は溜め息をつくと、床にプー太郎を下ろした。
実は、零国には零番隊と政府のトップや王族、貴族の一部の人物だけしか入れない特別な資料室がある。そこには極秘の資料やら何やらが保存されていて、資料室に入るには厳重なチェックを受けなくちゃならない。ハァ、めんど。
俺が知りたい情報が民間の図書館にあればいいが、人を操る呪文は禁じられていたハズだ。だとするとレシルのかけられた呪文は一般の図書館には無いだろう無いに違いない無いと思うんだけどなあ。
「いただきまーす」
資料室には午後行くとして今は飯だ飯。
考え事をしている間に3分以上経っていたらしく、膨張した麺を俺はズズズ、と食べ始めた。
俺はチャイムを鳴らした。
俺が今誰の部屋のチャイムを鳴らしているのか?ヒントを言うなら俺が結奈から逃げている間のうのうと妹と買い物していたシスコン野郎の部屋だ。
ヒントじゃねえな。こりゃもう答えだ。
それとついでに言っとくが、俺がシスコン野郎の部屋ばっかによく行くのは友達がそいつだけだから、とかじゃねえからな!断じて違う!断じて――
「翔じゃねえか!……何ブツブツ独り言言ってんの?」
なんとまあバッドタイミングで現われたこと。つーかこれはブツブツ独り言とか根暗っぽいものじゃなくて、名前も知らない皆様に説明してるだけなんだが。
「……出たなシスコン野郎」
「お前から訪ねて来たんだろー!それに俺はシスコンじゃねえーー!!」
洋介のわめき声が辺りに響いた。うるっせえ。近所迷惑っつーのが分からんのかボケチン。
「あ゛~…お前と話している時間が惜しい。単刀直入に言う。今から手伝え」
「ぅおーい。いきなりだな!何の手伝いなんだ?」
「レシルを操っていた呪文についてを調べる手伝いだ」
洋介はびっくりした顔で数秒固まった後、ニヤァ~っと見てるだけでイラつく笑みを浮かべた。
「と、いうことはぁ?翔クンはレシルちゃんを信じる事にしたのか~?」
「ま、そゆこと」
「あんだけ憎んでたのにどうゆう風の吹き回しだ?……まさか!レシルちゃんと何かあったのかあ?!」
「……お前が期待してるラブロマンスなんてこれっぽっちもないぜ?あんな煩い女相手にそれは難しいだろうけどな」
俺が呆れたように言うと、洋介は心底がっかりした顔をした。いやいや、どんだけ期待してたんだお前。
「つまんねーえ。まあいいや、情報探し手伝ってやるよ」
俺がサンキューと言おうと口を開いた時、つい最近聞いた口調が割り込んできた。
「レシル殿のことで御座るか…実に興味深い話で御座る……」
俺たちが一斉に声のする方へ目を向けると、格好つけたように壁にもたれて腕を組んだケンジョードがいた。
「…話聞いてたのか。お前、俺たちに何か用か?」
「拙者は手伝いにきたのだ」
「別に頼んでないけどいいや。手伝いたいなら手伝え」
――こうして俺たち3人の異色のコラボは資料室に向かったのであった。