第18話:信用
今回短いかも?です。
外の物音がしなくなった。
結奈は諦めたのか?
…それにしてもここの部屋の主には感謝だ。この部屋の鍵が開いてなければ俺は今頃結奈に捕まっていたことだろう。
俺は玄関のドアにもたれ掛かったまま辺りを見回した。
綺麗に磨かれた床。埃も見あたらない。俺が行った事のある部屋(洋介、ダンのオッサン、前から零番隊の人たちの部屋)でここまで綺麗な所はなかった。だけど…
どこか懐かしい感じがするのは気のせいか?
「水無月 翔…?!」
俺は声のする方を見た。そこには、いつもポニーテールにしていた頭を下ろし、黒のズボンと白のタンクトップの上からベージュのカーデガンを羽織ったレシルだった。
「レシル…?!ということは、ここはダンのオッサンの部屋なのか?!」
そんなはずはない、と俺のブレイン(脳)が認めるのを拒んでいる。
オッサンは片付けが苦手な人種だったよな?
この部屋がオッサンのものならなんでこんなに綺麗なんだ?!
「何?分かってて入ったんじゃないの?」
「急いでたから偶然入っただけだよ。今すぐ出てくから安心しろ」
レシルはそこで初めて苛立ちと悲しみが混じった複雑な表情をした。
「あんた、あたしに攻撃しないんだ?」
「……はぁ?」
「最初会った時、両親のかたきって言って攻撃してきたじゃない。なんで今チャンスなのに攻撃しないの?」
俺は正直言ってかなり驚いた。自分を攻撃するチャンスを相手に教えるか普通。
「…どうして黙ってんの?!何か言いなさい!」
「あー…うー…」
言いたい事ががうまく出てこない。
「言葉を話せって言ってんの!」
「…るっせえ!ギャーギャー言うな馬鹿女!」
あっ!つい本音言っちゃった。
「馬鹿女ですってぇ?!かたき討ちもろくに出来ない馬鹿に言われたくないわ!」
「なんだと!お前なんかやろうと思えば指一本で一捻りだっつーの!」
「それなら何でやらないのよ!あたしはあんたのにっくきカタキなのよ!」
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…
俺たちはお互い息を切らしながら睨み合った。
あーあ。俺とした事が冷静さを欠いてしまったな。つか、レシルってこんなに煩いヤツだったっけ。
俺はコホン、と小さく咳払いをすると落ち着いた声で馬鹿女に尋ねた。
「俺にかたきを討てとか言ってるけど、お前は操られてたんじゃないのかよ?もし操られてたってのが本当ならお前も被害者じゃ…」
「あんた、やっぱり馬鹿!」
「…は?」
「操られてようが操られてなかろうがあんたの両親を殺したのはあたしなんでしょ?!だからあたしを殺すのは当然じゃない!」
俺は思った。
――こいつは殺されようとしている。
「お前、死ぬ事で罪悪感から逃れて楽になりたいだけだろ」
「なっ!」
レシルの口が引きつった。
「そんな訳ないじゃない!人を殺したんだから殺されるのは当然!自分が楽になりたいからなんて…」
そこまで言うとレシルは黙り込んだ。
「………」
俺はレシルが口を開くのをただ待っていた。
沈黙が続く。
時が永遠に感じられた頃、レシルはぽつり、ぽつりと話し出した。
「楽になりたいだけ、確かにそうなのかも知れないわ……。あたしはあたしの知らないとこで沢山の人に憎まれてる」
レシルはそこで深く息を吸い込むと、微かに涙声で続けた。
「だからあたしは恐かった。あんたみたいな状況の人たちに憎まれているっていう事実が。そして、自分が知らないうちにやってしまった悪行を知るのが」
レシルの声は震えて、消えた。
何て声をかけていいのかも分からない。
ただ分かる事は、俺がここにとどまる事はレシルを罪悪感に陥れ、苦しめている。それだけだった。
「……鍵、閉めとけよ。危ないから」
俺は部屋を出ることにした。
俺は自分の部屋へゆっくりと向かう。
「ハア~」
どうやってもあいつは殺しをするような奴にはどうやっても見れない。いちいち罪悪感を感じる奴が殺人なんてどうして続けられる?憎まれるのを恐れる奴がどうして人を殺せる?
俺の部屋は開けっ放しで放置されていた。
俺も人に鍵をかけろとか言える立場じゃねえじゃん。
そんなことを思いつつ、部屋に入ると後ろ手にドアを閉め、しっかり鍵をかける。そして口の端をつり上げて笑った。
「レシル…」
俺はお前が操られてたって話を信じることにするぜ。悪いのは宗教団体。両親のかたきも宗教団体。レシルを苦しめた原因も宗教団体。だから何が言いたいかというと…
「宗教団体ぶっつぶす!」
まあ、そういうこと。