第17話:俺に休息はやってくるのか?!
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A、B、Cどのチームも一日で終わる任務だったらしく、零番隊の皆はその日に戻って来た。
オッサンは集合した零番隊に今回の任務の反省点とこれからの任務に向けての目標をレポートにまとめるという課題を出し、明日から一週間休暇を与える事を告げた。
なんでもオッサンの大切な用事で零国を離れるので零番隊を見れないから、らしい。
「くあ~っ」
俺は欠伸をしてペンを落とした。ペンは足元で虚しく一回跳ねると動かなくなった。
これでレポートの課題は終わりだ。休暇一日目で課題終わらせるなんて俺って偉い子みたいだな。
時計を見てみた。AM10時10分。まだ始めてから10分しか経ってない。
「ニャーオ」
プー太郎が甘えるように鳴いた。
「分かってるよ」
俺はそう言ってキャットフードを取り出した。
水槽から魚を取るのは止めた。なぜかというと、飲み屋でたまたま隣りになった女性に餌は水槽から取ることを話したらドン引きされたからだ。
あの時の女性の顔は忘れられない。目は見開き、口は引きつり、鼻は―…
うん、考えるのはもう止めとこう。つまりそれだけショックだったってことだ。
「ふぁーあ」
本日二度目の欠伸をしつつ、キャットフードを皿によそう。
「いきなり一週間休みって言われても予定とか全然立ててねえしな~」
――ピンポーン。
お?俺の呟きを見計らったかのようなチャイムだな。
俺はいつものようにドアに近付き、扉の向こうを魔法で透視した。
「………」
ゆ、結奈…か…。
居留守だ居留守。
それに限る。
『翔くぅ~ん?心の声が聞こえてるわよぉ?』
扉の向こうからドSの悪魔が呼び掛けてくるが、恐怖で扉を開けられない弱虫チキンな俺。
「み、ミナヅキ ショウドノハ、タダイマデカケテオリマス(裏声)」
名付けて【なんちゃってメイド】。これは俺の家にメイドを雇っている設定で、《今私と話している相手は翔じゃなくメイドなんだ!》と訪問者に錯覚させる必殺技だ。
『フフ…あなた面白いのね、翔くん?』
ば、ばれてたー!!
「だだだダカラ、ワタシハタダのメイドデ…」
『心の声が焦ってるわよ~?開ける気ないならこちらから開けるわねぇ?』
直後、ズーンという重い音と共にドアが内側にへこみ出した。
もう一度ズーン。
さらに大きくへこむ俺のドアと心。
もう一度ズ「開けます!!開けさして下さい!!」
俺はギギィー…と音を響かせドアを開けた。3分前まではこんな音しなかったのに。
「ウフ、会いたかったわぁ翔」
「アレ、呼び捨て…」
「いいのよぉそんなこと。」
「ハイ…」
俺って先輩として見られてない気がする…結奈に限らず皆から。
ひっそりと落ち込む俺の横を通り過ぎ、結奈は部屋の奥へと勝手に進んで行った。
「あら!このベットいい感じじゃなぁい?楽しみねえ…」
ゾクッ!
「は、はは、そうだネ……何か飲む?」
「強引に話を変えるのねぇ?恥ずかしがっちゃってかわいーわぁ」
ダレカ~!この人を止めてクレ~!
「止める人なんていないわ~ここには二人きりだものねぇ」
結奈は俺の頬をゆっくりと撫でた。
「ニャン」
プー太郎が鳴いた。それはまるで二人きりではないと言いたげな鳴き声だった。
「あらあ?猫ちゃんだわぁ」
結奈の意識が俺からプー太郎に向くのが分かった。
すまん、プー太郎。ありがとう、プー太郎!!そしてそのまま…
「結奈の足止めをしててくれ~~っ!!」
「あっ!?翔!!」
俺は一目散に部屋から裸足で飛び出した。
皆が笑ってる~お日様も笑ってる~でもそんなの関係ねぇ!!
向かう所は既に決まっていた。階段をマッハで降り、洋介の部屋へ向かう。
ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!
俺は洋介の部屋のチャイムを連打した。
出ろ出ろ出ろ出ろ!!
そんな俺の思いも虚しく、反応を見せない糞洋介。
その頃の洋介は――
「うん、このアイス美味い!」
――妹と買い物中だった。
「翔~?出てきなさぁい!」
「!」
結奈の声が近付いてくる。俺は思考を読まれないように全ての感情を頭の外に追いやり、洋介が後で出すつもりで外に置いていたのであろうゴミ袋の山の影に隠れた。
カツーン、カツーン
結奈が階段を降りる音が響く。
結奈はとうとう洋介の部屋があり、俺が今隠れている階に来た。
「この階かしら~?」
どうやらこの階を探す気のようだ。
結奈は洋介の部屋のチャイムを鳴らし、目を閉じてしばらく待っていたが
「心の声が聞こえないわねぇ」
と呟き、俺が隠れているゴミ袋の山に目をやった。
「3袋もため込んじゃって…翔もさすがにこの影には隠れないかぁ」
そう言うと踵を返して階段を降りて行った。
ふぅ~~~~っ!
心臓によろしくないぜこれ!しかし今なら移動するチャンスだな。
俺はそう判断すると上の階へ上がろうと階段へ向かった。
そして階段に右足をかけたところで
「みぃーつけた!」
お声がかかった。
恐る恐る振り返ると俺より10段くらい下で腰に手を当てて妖艶に微笑む結奈が。
「うわぁあ!」
俺は階段を3段飛ばしでがむしゃらにのぼった。
「上に行くだけ無駄よぉ~?行き止まりだからねぇ!」
「くっ!」
俺は階段を上るのを止めた。必死過ぎて今何階にいるかも分からない。もし、あと少しで最上階なら俺は結奈に追いつかれてゲームオーバーだ。
「ゲームオーバーに絶対なってたまるかあぁ!」
俺は今いる階の部屋の主にかくまってもらうことに決め、近くのドアを開けると部屋の中に飛び込んだ。
「はあ、はあ」
この部屋の主は鍵も閉めていなかった。なんて不用心なんだろうとは思ったが今は有り難い。
俺はゆっくりと息を吐きながらズルズルとドアにもたれ掛かると、外の様子を窺おうと耳をそばだてた。
結奈は翔が入ったドアの前で立ち止まっていた。
扉のプレートには502と書かれている。
「502って確か隊長の部屋よねぇ…。いくら隊長がいないと言っても入れないわぁ」
翔も考えたわね、と溜め息をつく。
翔は自分がどこの部屋に入ったかも知らないことを結奈は知らない。
「ふう、今回は諦めてあげるわよぉ?あとコレ、借りてくから」
結奈は翔と自分を隔てているドアに向かって言う。手には翔が前に謎の店で買った小瓶が握られていた。