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第16話:油断は命取りだよ



俺達は辺りを見回した。左、右、上、下…一通り確認したところで警戒を強める。どこから狙って来るか気配を出さない敵程厄介なものはない。


ケンジョードは腕に、俺は背中に刺し傷を負っている。俺の傷は敵の攻撃に反応しきれなかったロイレンを庇って出来た傷だ。


「油断するなよ」


俺は2人に呼び掛けた。返事は返ってこなかったが、何となく2人が頷いたのが分かった。


――俺たちは今正体不明の敵を相手にしていた。敵は5人でなかなかの強者らしく、チームワークも抜群だ。


何故今こんな状況にあるのか、それは10分程前に遡る――。




チャリーン。


「あっ僕のお金!」


ロイレンが小銭を落としたのが始まりだった。

コロコロとどこまでも転がっていく小銭。

今思えば不自然な程転がり続けていた小銭。魔法で転がされてたんだと今なら気付けるが後の祭り。


それはとうとう人通りの少ない路地裏へ入り込んだ。俺とケンジョードは走るロイレンを見失わないように追いかけた。


俺たちがロイレンに追い付いた頃には、ロイレンは路地裏で小銭を拾おうとしゃがみ込んでいた。


そんなロイレンの頭上に何か光る物が見えた俺は、


「あぶねぇっ!」


咄嗟にロイレンを抱き締めその場を離れようとした。しかし、


「翔くん!!」


背中に刃物が刺さり、暖かい液体が背中を伝う。


直後、風を切る音と共に俺たちを挟むように建っている建物の屋上という屋上から、数百ものナイフが襲いかかって来た。


「ケンジョード!」


「了解、で御座る!」


ケンジョードは腰の杖を抜きながら目にも止まらぬスピードで俺と抱き抱えたままのロイレンの前に出ると結界を張った。


ナイフが結界に当たっては弾かれる音が数秒続く。


「翔くん、ありがと。もう大丈夫…」


「ん?

あっ!そうだったな。顔赤いぞ、大丈夫かお前?」


俺はロイレンを自分の腕から解放すると、背中に刺さったままのナイフを抜いた。


良かった、大した傷じゃない。(多分)


結界の外ではナイフでの猛攻は終わったようだ。俺が上を見上げると建物の屋上には4、5人の人影がうごめいている。


ケンジョードはいつの間にか腕に刺し傷を負っていた。


「油断するなよ」



――そうして今に至る。



何故俺たちが襲われているかは分からない。だが、1つ分かる事はロイレンが関係しているという事だ。


奴等は小銭を操ることでロイレンを路地裏へおびき寄せ、真っ先にロイレンだけを狙った。


俺は隣りにいるロイレンを見やった。ロイレンは顔を強張らせ、一点を見つめている。


「――あいつらに心当たりは?」


考えてたって分からない。俺はロイレンに問い掛けた。


「分かんない。けど、何となくこの鍵を―」


そこでロイレンは胸に手を当てた。


「―狙っているような気がする。」


「そうか」


俺は短く答えた。

その鍵がどんな役割を持つか、など聞きたい事は沢山あった。しかし今はその時ではない。


「ケンジョード、お前はロイレンと自分の周りだけ結界を張ってろ。俺はあいつらに直接聞きたい事がある」


そう言うや否や、俺は結界の外に出た。


建物の屋上にいる襲撃者たちは俺が近付くのに気付き、杖を構える。


次々と放たれる魔法は、零番隊のマントに刺繍されたドラゴンの眼が怪しく光ると同時に吸収されていく。


「鬱陶しい!」


俺はちまちまとした相手の攻撃に怒りを爆発させ、自分の魔力を一気に体外に放出した。


弾丸のように四方八方に向かう魔力は襲撃者全員を仕留めたようだ。


俺は屋上にひとっとびで着地すると、俯せに倒れている襲撃者のかぶっているフードを捲りあげる。


「なんだ?!これは!」


そこには腹話術の人がよく使うような人形の顔があった。


「どうしたで御座る?!」


ケンジョードとロイレンも屋上に来た。


俺が状況を説明するとケンジョードは深刻な顔で考え込み、ロイレンは不安そうな目で俺を見つめた。


「一刻も早く零国に帰ろ!ここは危険だよ」


ケンジョードが頷く。


「確かに、この人形たちを操っている者を捕まえない限り、拙者たちもここでは安心出来ないで御座るな…」


「よし、今すぐここを発とう。その前に…」


俺はそこらの屋上を飛び回り、襲撃者全員の顔を覗いた。もしかしたら人間も混じっているかも知れないという希望は見事に打ち砕かれた。フードの中は全て人形だったのだ。


俺たちは零国に帰ってじっくりと調べる為に人形を一体持ち帰ることにした。ロイレンいわく、気持ち悪くて触りたくないとのことだったので、ケンジョードと俺でジャンケンしてどちらが人形持つかを決めた。






「―――で、お前が人形を持っている、と」


「そのとーり!」


目の前には深刻な顔をしたダンのオッサンと我関せずのレシル。


ケンジョードは俺の横でちらちらとレシルを盗み見て、ロイレンは俺の後ろに隠れている。


あれから俺たちはロイレンの呼び出した召喚獣に乗って驚異的なスピードで帰ってきた。(馬車で3時間かかっていたところを30分ですよ、30分!)


そして今、俺の腕には例の人形がグデンとのし掛かっており、俺が動くにつれカクンカクンと顎が揺れている。

ジャンケンの結果は言わなくても分かるよな?


「なあ、オッサン!この人形について調べてくれよ」


頼み込む俺に対し、オッサンはうーむ、と唸り口を開く。


「俺はあいにく調べる暇がない。しかし可愛い隊員の為だ。知り合いにそういう人形に詳しい奴がいる。そいつにこの人形について調べるよう頼んでみよう」


「やったー!ナイスだオッサン!」


俺はオッサンに人形を渡した。そしてくるりとロイレンに振り向き、「良かったな」とにっこりと笑う。


俺と目が合うとロイレンは顔を赤くしながらも嬉しそうに笑った。


そんなロイレンを見ているとある感情が生まれてきた。こいつを男と勘違いしていた時には生まれそうもなかった感情だが……


「かわいー!」


「わあっ!?

ちょっと翔くん?」


俺はロイレンを抱き締めた。


ケンジョードはレシルを見つめることに必死で、レシルは俺たちを見てはいるものの無表情。唯一驚いているのはダンのオッサンだった。

オッサンは目を真ん丸にして「男同士で…」と呟いている。


それが聞こえたのか、ロイレンは「女です!」と叫ぶと腕の中で大人しくなった。


俺はそんなロイレンの頭をグリグリと撫でながら言った。


「いやあ~本当にこいつってペットみてえ!」


――その途端気温が下がった気がした。ケンジョードでさえもレシルを見つめる作業を止め、俺たちを注視している。


「翔くんのばかあっ!!!」


強烈なアッパー炸裂。

何が何だか分からないまま、俺は本日2度目の気絶を味わったのだった。

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