第15話:ロイレンの正体
ショタ少年ロイレンの正体とは?
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明るい公園。
今日も沢山の親子連れで賑わっている。
そんな中、
「おかあさん、みてみて!」
泥団子を手に持ち母親らしき人に駆け寄る4、5歳の赤髪の少年。
「まあ、うまく出来たじゃないの!」
母親は優しく少年の頭を撫で、微笑んだ。そして哀しそうに小さく呟く。
「――あなたが幸せになれるように努力するからね」
「え?何?おかあさん」
少年の問い掛けに対し母親はにっこりと表情を作る。
「ええと、そのお団子をお父さんにも見せなきゃって言ったのよ」
「うっそだ~!ちがうこと言ってたよ~!」
「本当よ~」
和やかな雰囲気の中、少年は母親に手を引かれて家へと帰っていく。
それは、どこにでもあるような幸せな家庭だった。
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頬が疼く。
俺はゆっくりと目を開けた。懐かしい昔の記憶。母親がまだ生きていた頃の記憶。
「目が覚めたで御座るか。ロイレン殿は今は飲み物を買いに出ていないが、心配していたで御座るよ」
ケンジョードの声が頭上から降って来る。
俺は今の状況を確認した。
頭の後ろには少し固いが柔らかい感触。
それに加えケンジョードの顔が俺の顔の真上。
つまり、ケンジョードの
ひ ざ ま く ら
「ぎぇえぇええぇえぇええ!!!!!!はーなーれーろおぉぉおぉおお!!!!!!」
「痛い、で御座る」
俺はがむしゃらにケンジョードを押し退け素早く距離をとった。
「お前、男に膝枕なんて気持ち悪くねぇのかよ?!」
「特には…」
「じゃあ!!他人に見られたらどう思われるか考えたのかーっ!?」
「人それぞれ好きに思えばいいで御座ろう?」
「人の好きに思わせてたらどんな噂たつか分からんだろがあ!」
「アレぇ?何騒いでるの?」
この声は……。
俺はギクリ、と身を強張らせる。そこには3缶もの飲み物を両手に持ったロイレンがいた。
「ロイレン…」
「翔くん!目が覚めたんだあ!それにしてもびっくりしたよ。ビンタで気絶するなんてさ~!」
「いや、ショックで……。だって…」
だって、ロイレンがまさか……『女』だったなんて誰が想像できるで御座ろうか!
やべ、ケンジョードの口調が移った。
まあ確かに男にしてはかわいい顔立ちだし、声も高いし…。けどショタ系だったらそんなヤツいるだろうし…。(ごにょごにょ)
「何か言った~?」
「い、いぇ…何も…」
怖い!ロイレンの微笑みが怖いぞぉぉ!!
俺は誤魔化すように苦笑いした。そしてあることに気付く。
「……アレ?そういえば俺の服ロイレンが着せてくれたのか?ここが温泉施設のロビーってことだけはわかるんだけど」
そう、俺は裸のまま地獄風呂で倒れていたハズだった。しかし今は服を着てロビーの長椅子にいる。
「僕のハズないでしょ!従業員のお姉さんが服を着せて、ここまで運んでくれたの」
「へ?!お姉さん?女の人にか!?」
「うん!大変だったんだよ~?翔くんうなされてて、お姉さん4人がかりでやっと着せれたんだから」
「あ…そう…なんだ……」
チーン……俺の人生終わったぜ。女の子に一方的に裸を…しかも4人…。いや、ロイレン含めると5人か…。
俺が死にそうなくらい落ち込んでいると、誰かの目線を感じた。
「ん?」
「!」
エプロン姿の従業員のお姉さんと目があった。
お姉さんは俺と目が合うと顔を赤くして足早に去って行く。
「ハァ~」
きっとあの人は4人の従業員の中の1人に違いない。
「翔くん、元気出して!」
「そのような事で一々悩んでいたらキリがないで御座るよ。もとより、人間生まれた時は皆裸…」
「うるさい黙れケンジョード」
ケンジョードはそもそも恥という感情はあるのだろうか。いや、あるはずがない。(反語)
コイツなら大勢の前を裸で歩き回って「人間生まれた時は…(以下略)」とか言ってそうだな。
俺がそんなことを考えていると、ロイレンが思い出したように言った。
「そういえば!はい、これ」
俺とケンジョードにそれぞれ缶ジュースを渡す。
「これ飲んだら帰ろっ!ダン隊長に任務成功って報告しなきゃ」
「さんきゅ…」
缶ジュースには『オレンジジュース』と書かれていた。
隣りのケンジョードを見ると『お茶』。
「皆の好みとか分かんないからイメージで買ってきたんだっ!」
ちょっと待て。ロイレンの抱く俺のイメージってオレンジジュースみたいに子供っぽいのかよ。
俺は納得いかない感情がわき起こるのを感じつつも、グビリとオレンジジュースを飲んだ。
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――零国、同時刻。
とある地下の研究室ではやせ細った白髪交じりの初老の男が部屋の中を落ち着かなげに歩き回っていた。
手には手紙と見られる用紙。その用紙は男が強く握ったせいか、くしゃりとしわが寄っている。
部屋の隅にあるその男の物であろう机の上には大量の書類が乱雑に積まれ、その中の不安定だった用紙たちが数分置きにヒラリ、ヒラリと床に着地している。
そして本日12枚目の用紙が床にたどり着いた時だった。
――コン、コン。
扉がノックされる音。
男は遅い、とばかりにハァと溜め息をつき、せかせかと扉に近付いて、開けた。
そこにいたのは白いフードで顔を隠した怪しげな人物がボウッと立っていた。
「遅いじゃないか」
男の言葉には非難めいた響きが見受けられる。
「それはそれは、申し訳ありません」
反省を感じられない口調で話す白装束の声は、魔法で変えているのか男か女か区別がつかない。
そして男が「入れ」と扉を大きく開くやスルリと部屋に入り込んだ。
男は鍵をガチャンと閉め、痩せて落ちくぼんだ目で白装束の人物を見る。
「お前の用件は何だ」
「ええ、実はある人物を殺して頂きたくて、ね」
白装束は怪訝そうな顔の男を見てクスリ、と笑うとどこからともなく写真を取り出して見せた。
そこには赤目、赤髪の特徴的な少年が友達らしき少年と楽しそうに話している写真だった。
男はまじまじと写真を見つめると、ゆっくりと口を開く。
「何故私に頼む?」
私と違って殺しを専門にしている輩は沢山いるだろう、そう言いたげだった。
「いやね、貴方の実験材料が彼と同じ建物で暮らし始めたと風邪の噂で聞いたものでね」
「レシルが?!」
男は目を見開くと、すぐにニヤリと白装束の言いたい事が分かったと口の端を吊り上げた。
「つまり、レシルを利用して殺せ。そう言いたいのだな?だが、私に何のメリットがある?」
「御名答。メリットは……そうですね、貴方が今している研究の材料を好きなだけ調達…これでいかがかな?」
それを聞いた男は内心舌なめずりせんばかりに喜んだ。
「その話、本当なのだな?」
「約束しましょう。それでは契約を…」
研究所室内に紫の光が満ち、契約完了。
零国にはビュオッと不吉な風が吹き抜けた。
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