第14話:温泉でゆったり
「翔くんちゃっかり女の子に住所と電話番号渡してたね~!」
「深い意味はねぇぞ」
「それはどうであろうか?」
「黙れ、ケンジョード」
ここはテンジリア王国、とある喫茶店。
落ち着いた雰囲気が特徴の洒落た喫茶店だ。
あれから女性を助けた俺は、勝手に出て行った俺を待っていた馬車に女性を一緒に乗せてテンジリア王国へやってきた。
任務の内容は無事にテンジリア王国へ成金おっちゃんを送り届ける事だったので、あっさりと任務は終了。
何か金目当ての輩が襲って来ると身構えてただけに拍子抜け過ぎた。
まあ、人生ってそんなもんだよな。
任務終了ということで、渋っていた成金から報酬を巻き上げ(成金いわく、『働いてないから払いたくなかった』だそうだ)成金、助けた女性と解散して今に至る。
「これからどうしよっか~」
ロイレンはチーズケーキをフォークで切りながら溜め息をついた。
「さっき報酬を貰ったばかりだから金ならあるしなあ~」
俺は手に持ったコーヒーをぼんやりと眺めた。
「困った時は温泉で御座ろう?」
言い忘れていたが、テンジリア王国は温泉で有名な国でもある。ケンジョードが温泉温泉と言っているのもそれが理由なのだろう。
「あ~、やることないし温泉にするか。ここ有名だしな」
「そうであったのか?!」
「……は?」
……やっぱコイツジジイだ。温泉の名所だから温泉に行きたいとかじゃなくて純粋に温泉が好きだっただけなんだな。
いや、まあ温泉が好きっていうこと自体は別に悪くないとは思うが。
喫茶店を出た俺たちはいろんな種類の温泉が集まった施設に行くことにした。
地図を見ながら歩くこと数十分。
それらしき建物が見えた途端俺は声を上げた。
「うわぁ~でけえな!」
俺達の目の前に広がる一見デカすぎる屋敷。この中にたくさんの種類の温泉が集まっているというのも納得の大きさだ。
屋敷に入り受付けを済ませた所で、俺は皆に提案した。
「今から解散して1人で自由にまわろうぜ?」
「賛成で御座る」
「当たり前だよ~」
誰も反対意見はなかった。
俺は今むさ苦しい男同士でいろんな温泉をまわる気分じゃなかった。
話変わるけど、皆で一緒に~とか駄々こねそうなロイレンが俺の提案に賛成したのは正直驚きだな。
まあどうでもいいけど。
「んじゃあこの場所に5時集合な。遅れんなよ」
そうして俺らは解散した。
今の時刻は2時だから、5時になる頃にはしわしわだな。
「う゛~~~っ」
そんな声を発した直後、ケンジョードのことをジジイジジイ言ってられないくらい自分もジジイだと気付く俺。
俺は頭にタオルを乗せ、「地獄風呂」というのに入っていた。「地獄」と言うからどんなものかと思い入ってみると地獄どころか天国だ。まあ、風呂の色は血のように真っ赤だが。
「お?」
湯気の向こうに人影が見えた。
ここは確か混浴の筈。相手が女の子だったら気まずすぎる。
そう思いつつ、顔のみを見て男か女かだけでも確かめようと目を凝らした。
「――あ?なんだ、ロイレンか」
俺は安心しきってロイレンに近付いた。
「ロイレ………え?!」
「キャアアアアアアア!!!!」
バチーンという音と共に俺の意識は遠のいていった………。