第1話:主人公の名は水無月 翔!
「父さーん?母さーん?」
真っ赤な髪。まだ10歳にもなっていない少年が家の中を親の名を呼びながら歩いている。
――ガタッ
隣りの部屋で音がした。
「父さん?いるの?」
隣りの部屋を覗いた少年は思わず言葉を失う。
――彼が見たのは、折り重なるようにして倒れている両親の姿。
先程の物音を立てたらしい人物は短刀に纏りついた血を舐め、少年を見た。
それはゾクッとする程の深い青の眼。そして恐るべき事に、少女だった。
少女はもう用はないとばかりに踵を返すと、開きっ放しの窓を飛び出し少年と、もう呼んでも返事をする事もない彼の両親を置いて夜の闇へと溶け込んでいった。
――そしてこの出来事をきっかけに少年の人生は大きく変わる事になる。
「――いってぇ!!」
俺は飛び起きた。
傍らでは俺の心のオアシスである愛猫・プー太郎があろうことか、御主人様である俺の腕に爪を突き立てている。
うん、可愛い。
思わずニヤけてしまう親バカな俺。
「つか、痛えって」
やべ、にこにこしながらそんなこと言っても痛そうじゃねえか。
「ニャーオ」
そんなことを思っている間にプー太郎は自ら突き立てていた爪を引っ込めた。
「いい子だ」
俺は深く深呼吸をすると、プー太郎の頭を撫でながら輝く朝日が出て来た空を眺める。
一応説明しておこう。
俺の名前は、水無月 翔。18歳。職業は零国最強の特殊部隊である零番隊に所属している。俺って結構つおいんだよ(ハート)
そして俺が今いるのは我が家のベッドの上。壁際にくっつけられたベッドの横には四角いよくあるデザインの窓があり、そこからここ、零国の景色がある程度は眺める事が可能だ。
ちなみにここの建物には零番隊しか住んでいない。零番隊はたったの10人しかいないため、俺らは選び抜かれたエリートって訳だ。
「ニャン」
「お?飯食いてぇのか?可愛いヤツめ」
俺はベッドから抜け出すと、部屋の角っこを占領しているでっかい水槽に近寄り、水槽の中を優雅に泳いでいた魚を掴み取って皿の上に置いた。
――ビチビチビチ…
魚が皿の上で暴れているのをプー太郎が押さえつけ貪り食う。
うん、分かってる。これは普通の家庭の餌のやり方じゃないんだよね。
俺最近その事実を知っちゃったから今さらって感じ。
「さあてと、今日の予定は」
しばらくプー太郎の様子を温かく見守っていた俺だったが、ふと本日の予定が気になったので確認する事にした。
カレンダーには俺の美しい字でこう書いてあった。
「“新メンバー紹介”…そっか、前回卒隊した先輩方の穴を埋めなきゃイケねーもんな」
…ん?待てよ??落ち着こうか、俺。
さっきチラッと集合時間が書いてあったような…。
目をこすってもう一度確認。あっ時間書いてある。
「6時30分集合。今の時間は…6時20分」
ちょいちょいちょーい!待って頂戴。俺ついて行けないわ。こんな朝から悪い冗談止めてくれ。かの有名なエイプリルフールは明後日だぜ!?
まだこんなドッキリ早いからあ〜!
とか言いつつも、震えながら用意をする小心者の僕。
ガタガタガタ。
ちぃっ。俺の身体をピンポイントに震度7弱が襲ってやがる。
ほら見ろ、プー太郎もびっくりしてこっちを見てるじゃん。表情ないけど。
――結局俺が部屋を飛び出したのはそれから30分後。今集合場所である璃念川のほとりに向かっている。
今から待ち受ける運命を考えると、つい猫に囲まれた哀れなネズミの気持ちになってしまい溜め息をつくのだった。