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とある夢のひと時、そして――――。(終)

ぼかして書いていますが、性に関するニュアンスがあります。そういった事が苦手な方はブラウザバックをお願いします。


 気がついたらそこに立っていた女性は思う。


――ああ、これは夢だなと。


 今いる場所は、女性が実家を飛び出して、しばらくの間住み続けていたアパートの一室だった。


 その部屋の片隅で、蹲っている”自分”がいるのだから、これは現実で無い事がわかる。


 夢だと認識しているためか、女性は冷静だった。


「・・・・・・」


 少しずつ歩いて、女性は蹲っている自分の前までやってくる。


「・・・・・・」


 すっと腰を下ろして、過去の自分の顔を良く見てみた。


「・・・・・・っ」


 その瞳は何も映さず、ぎゅっと自分の膝を抱えこんで、静かに座り込んでいる。


――ああ、そうだったと思う。


 外ではバカみたいに明るく振る舞って、一人になったらいつもこうして塞ぎこんでいた。


 その時その時で誰かと過ごす事はあっても、結局長続きしない。


 相手がロクでもない人間ではあったけれど、自分にだって問題はあった。


 だから、思ったのだ。


 自分はずっと一人ぼっちだと。


 苦しくて、どうしようもなかった。


 自傷行為や、行きずりの人間と身体を重ねる事で紛らわしても、一人になれば、未来に希望が持てないことを自覚して、ただ時間が過ぎるのを待っていた。


 何かに期待をして、でも結局諦めて、ただただ耐える。


 空っぽの笑顔と、押し込めた不安で一杯の心。


 それが、”過去の私”だ。


 救いが欲しくて欲しくて、でもどうしたらいいのかわからないから、必死に耐え続けていた毎日。


 もういっその事、自分で終わらしてしまいたいと願っても、消えてしまうのがたまらなく怖くて、結局

ずるずると生きてきてしまった。


 そんな自分が溜まらなく嫌いだった。


 いなくなってしまえばいいと。こんな自分が生まれてきたのは間違っていたと。


 何度も自分に向かって吐き捨ててきた。


 そんな自分を、こうして改めて見て――。



――今溜まらなく愛おしく思えた。



 すっと手を伸ばしたが、過去の自分を素通りする。


 ああ、触れられないんだと女性は悟った。


 夢だからか、過去だからなのか、自分には触れず、恐らく声も聞こえない。


「ねえ・・・・・・」


 それでも、抱きしめようとせずにはいられなかった。


 声をかけずにはいられなかった。



――私は、私の事が嫌いで、どうしようもなくて、足掻いて苦しんで、でも、どこかで諦めてた――。



 自分は絶対に幸せな未来なんて来ないって。


――けど必ず来るから。


 諦めながら、それでも歩き続けて。


 汚いと思う事沢山してきて、どこかで他人と線を引いて。


 それでも。


 そんな自分に興味を持って、今までしてきたことも知って、一緒にいてくれる人が現れる。


 最初はとても嬉しくて、バカみたいにはしゃいで。


 ふと、過去の自分のしてきた事を振り返り、手放す事を考える時もあった。


 怖くなってしまったのだ。


 望んでいた幸せが当り前ように目の前に転がりこんで、自分の今までがどれだけ汚れているか、それを自覚してしまったから。


――そんな風に、一時は塞ぎ混んでしまう時もあるけど。


――諦めないで。


――そこで終わらせないで。


――あなたが出会った人は、あなたが想像しているより、とっても素敵な人。


――その人とは喧嘩はする、意見が食い違う事もある。理不尽な事を口にしてしまう事もある。


――けど、それでも私に幸せを与えたくれた人はね。


 知らず、女性の涙が溢れ、零れ出す。

 

 その涙は過去の自分を素通り、静かに消えていく。


 今までの過去と、現在まで得てきた感情が女性の心を埋めていく。


 それは決してなくならない過去の傷と、訪れた幸福が折り混ぜっていた。


――こんな私に手を伸ばす事をやめずにいてくれる人。


――間違っても、そこで終わらずに、一緒に悩んでくれる人。


――最後は笑い合いたいと、絶えず声をかけ続けてくれる人。


――そんな人と出会って、一緒にいて、私も頑張ろう、自分だけでなくこの人も幸せにしてあげたい。


――そう思える。思えるようになるんだよ。


――いつも、自分の事ばかり考えていた私が、隣にいる人を幸せにしてあげたいって思えるようになる。


――だから、生きて。


――私の事が大嫌いな私。


――この嫌いだった私を、嫌々生きてきただけの認めてくれる、この世の何より大事な人に出会えるまで。


 女性は過去の自分に向かって、笑いかける。


――今までのあなたがいたから、今の私がいるんだよ。


 顔を上げて、過去の女性が自分を見た、気がした。


 そんな自分を見て、満面の笑みを浮かべる。




――だから、ありがとう”私”。




 夢は、そこで終わりを迎えた。













「おい、大丈夫か?」


「――う、ん?」


 目を覚めてみれば、愛しい男性が自分を見下ろしていた。


 ぼんやりとした意識のまま、もそもそと身体を起こす。


 すると、身体に違和感を覚える



 衣服は身につけていない、女性も男性も。


 生まれたままの姿だった。


 一瞬女性は呆けてしまうが、すぐに思い出す。


 昨晩、隣の男性と愛し合っていた事を。


 だからその事については問題ない。


 気になるのは、男性の表情。


 どうして、自分を心配そうに見つめているのだろうかと思う。


 もう、自分は自傷行為をやめているし、男性に心配かける事はなにもないはず。


「・・・・・・あれ?」


 そこまで考えていた所で、頬が濡れていることに気がついた。


 手を当てると湿り気を帯び、そのまま目の辺りまで移動させる。


「私・・・・・・ないて、た?」


「そうだよっ。目が覚めて隣に見たら、お前が泣いてるからびっくりして、思わず声をかけたんだ? なあ大丈夫か? 怖い夢でも見たのか?」

 

「・・・・・・」


 目を軽くこすって涙を拭っている所で、男性がそう声をかけてくれる。


 出会いからずっと、自分を見守り寄り添ってくれる人wp。 


 そんな男性に大丈夫と告げた。


「――――覚えてないけど、多分・・・・・・怖い夢じゃなかった」


「・・・・・・そう、かー。ならいいんだけど、もし大丈夫じゃないならちゃんと言ってくれよ? いつも言っているけど、悩んだりしているときは口にだして、一人でため込むなよ」


「わかってるわかってる」


 本当に? と声に出さずに表情で示す男性に、本当だと苦笑して見せた。


 夢の内容を覚えていないけど、怖い夢でなかった事はわかってる。


 何故なら、今自分はとても温かい気持ちで満たされているから。


 だから、きっと自分の見た夢はいいものだったのだろう。


 どんな夢かはわからないけれど、それは実感出来た。


 そして。


「・・・・・・」


「どうし・・・・・・んむ!?」


 その余韻のせいだろう。女性は溜まらなくなり、男性と唇を重ねた。


 唐突の事に男性は困惑するも、女性は首に腕を回し、離さないと言わんとばかりに力を込める。


 すると、根負けしたのか男性から力が抜け、腰に手を回してきた。


 その事に気分が良くなり、唇を重ね続ける。


 時間にして数秒。


 女性は満足し、唇を離し、男性をじっと見つめる。


 その表情は嬉しそうでもあり、楽しそうでもあった。


 男性はその事に若干戸惑いつつも口を開こうとしたが。


 それよりも前に、女性が口を開く。


「私さぁ――」


「な、何でしょうか?」


「したいなぁ」


「はいぃっ?」


 男性にとって爆弾発言。


 そのため、身体が硬直するが、女性はじりじりと距離を詰めて。


「だから、頂きます♪」


 男性に飛びかかった。 


「ちょ、まっ――」


 慌てる男性に問答無用と言わんばかりに再度唇を重ねながら、押し倒す。


 衣類は身につけておらず、身に纏う布団は跳ね飛ばした。


 それにより、女性も男性も生まれた姿を露わにしている。


「・・・・・・」


 その事に男性は照れていたようで、顔が赤くなっていた。


 何度も身体を重ねているのに、初々しい反応をしている男性に女性は笑う。


――本当に可愛らしくて、愛おしい。


  大事な人、絶対に離れたくないと思う。


――一緒に幸せに・・・・・・はちょっと違うかな。


 人生は、楽しい事だけではないと、自分はよく知っている。


 だから。


 どんな事も二人で乗り越えて。


 最後の最後まで一緒にいて、満足できたと笑えるよう。


 二人で、ひと時の時間を積み重ねていこう。


 その時間の一つ一つを大事にして。


 時には幸せじゃない出来事も、いつかそんな事もあったなと笑い合える。


――そんな人生を、あなたと私、二人で送っていくんだ――。


 そう、胸に刻みつけた。


 そうして――――。













 時間は流れて。男性と女性の間に新たな命が誕生し、数年。


「ママ~、パパまだ寝てるよ~」


「そうね、パパお寝坊さんだから、ママと一緒に起こしにいこうか」


「行く~」


 女性は愛娘と手を繋いで寝室へ向かう。


 扉を開け、眠っている男性を起こし、ご飯を食べ、その日を一緒に過ごしていく。


 様々なひと時の時間を。


 男性と女性と愛娘の。


 家族、みんなで――。


思いつきから始まった本編を、ここまで読んで頂きました誠にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から全部読ませていただきました。 大人の男女ですね。 冒頭から会話が自然で、一緒にいて心地よい相手、一緒に過ごすことを大切に思える相手、いいですね。 彼女の自己否定してきた過去が少しず…
[良い点]  少し幸せだなぁと思うと、逆に嫌なことがフラッシュバックすることがあると思います。過去の辛い思い出を夢で何度も見たりとか……そうしたものを克服するのは並大抵のことではありません。ただ過去を…
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