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とあるデートのひと時

今回もちょっと性的なニュアンスを含みますので、苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


『初デートってこんなに緊張するものなんだな……』


『二人で出かけるって初めてじゃないのに、変な事言うのね』


『俺は年齢=彼女いない暦だったんだぞ。それが急に付き合う事になって、緊張しないほうがおかしいっていうか……』


『ふうん。とりあえず手を繋ぎましょうか?』


『はい?』


『二人で並んで歩くじゃ、味気ないでしょ?』


『いや、別にそんな事は……』


『いいから、はいっ』


 付き合って初めてのデート。わかるくらいに表情を強張らせているのが可笑しくて、からかい半分、繋ぎたい本心が半分。


 戸惑う男性の手をとって指を絡めれば、顔を赤くしてそっぽを向く彼が新鮮でとても可愛いと思う女性。


 今まで、異性と関わる時は『体だけの関係』と呼ばれるもので、こうして手で触れるだけで反応する人間は見たことがない。


 本当にいるんだなーと思いつつ、少しだけ申し訳なくも思う。


 彼は、今まで関係してきた人物と違い。自分自身をきちんと見てくれる。


 一人の人間として、好ましく思える人間と「恋人として付き合いたい」と思い結ばれてから、少したった今。


 この男性は人並みに性欲こそあれ、付き合ってからも女性と言う人間を「体」だけで見てはいない。


 女性の言葉や行動を見て、一緒にいてくれる。


『私が、一生したくないっていったらどうする?』


 冗談半分の言葉に彼は『うーん』と頭を悩ませて。


『したくないなら、仕方ない。けど俺も聖人君子じゃないし、『一生しなくてもいいから一緒にいよう』って嘘になるかもしれないことを言えない。だからお互いが納得できるよう、話合うんじゃないかな?』


 そういうの抜きにしても付き合う事ができるのか、それがわからないから、綺麗事じゃなくて、本心で話合いたいという男性。


『話して話して、結果その形で落ち着いたなら、いいんじゃないか?』


 今断言できなくて申し訳ないけど、と答える男性に首を横に振る。


 甘い言葉や、綺麗事だけの言葉じゃなくて。


 拙くて、曖昧な言葉でも、きちんと向き合ってくれているのがわかるから。


 その事が嬉しい。


 今までにそんな人いなかったから。


 甘い言葉を囁いて、いなくなった。


 綺麗事を口にして、捨てられた。


 数多くの経験で得てきた教訓は。



――結局、私の体目当てで、私自身を見てくれる人間はこの世にいない



 それを、否定してくれた初めての人。


 だから、決して離したくないと思う。


 しかし。


『ごめんね』


『はっ?』


『はじめての彼女がこんなんでさ』 


 苦笑する女性に、何言ってんの? と言わんばかり首を傾げる男性。


『俺、それ言われるたびに思うんだけど。別に嫌々付き合ってないぞ』


 分かってる、男性は優しい。だからこんな事を言っても困るだけだとわかっていても、言わずにはいられなかった。けれどそいうことではないと言いたげに女性を見る。


『こういう時、お前は俺が優しいとかそんな事言うけど、別に俺は慈善事業で付き合ってるわけじゃない』


 歩みを止めて、男性は少しだけ握りしめたいた手を強く握った。


『俺が一緒にいたいから、楽しくて、面白くて、隣で笑ってくれているから』


『えっ』


『お前のさ、人生は聞いていて色々思ったけど、それでもさ……今まであきらめずに生きてきたことがスゲェて思って。そんな人間が俺といて笑ってくれるなんて、夢みたいに嬉しい』


 男性は笑う。


『だから、変に俺を上げようなんて思わないで、一緒に楽しもうぜ』


 お互い、一緒にいたいと思って付き合ってるんだから。


 そう言われて、胸の内が熱くなる。


 ああ、本当に。


 もし神様なんてものが、この世にいるのだとしたら。


 今まで散々私を苦しめてきたけど。


 それでも、彼に出会えた事だけは。


 素直に感謝してあげてもいいと思う。


『っで、今日はどこ行くんだ?』


 私に任せてっていったもんなー、と歩みを再開させながらそんな事を呟く。


『んっ楽しみにしといて』


 滲んだ涙を拭って女性は笑う。


『今日はあんたも楽しめるようにデートプラン組んだからさ』


『サンキュー。俺そういうのからっきしだから助かる』


 あれ? でも、それだとお前が楽しくないか? と悩みだす男性に。


『それだったら、次は色々話してから決めましょ』


 笑ってそう言えば。


『うん、そうしよう。お前が楽しめるように、俺も色々知りたいし』


 同じく笑って頷く男性。


 二人で話し合いながら、行き先を決める少しだか先の未来。

 

 その光景は想像するだけでも、とても楽しそうな光景で。


 まだ、歩いているだけだというのに。

 

 とても、楽しいひと時を過ごしていると実感できた。

 

 こんなに胸を高鳴らせながら過すのは、いつぶりだろうか。


 そう思い、少しだけ神の存在を認めた女性は、胸の内で呟く。

 

 願わくば。


 こんな日々がいつまでも続きますように―――。






「なんてことも、あったわねー」


 最初のデートを思い返しつつ、目の前で商品を眺めている男性を見る。


 今回のデートは、午前はウインドウショッピング。午後に映画を見て夕飯は女性が食べたいと思ってお店で食べるといったモノ。


 同棲しているため、デートというより、お出かけと言った方が正しいのかもしれないが。


 それはともかくとして。


「……マンネリ化してないかしら」


 行く場所は話し合って決めているし、時には出かける時間をずらすなどしているものの、なんというか、最初のようなトキメキみたいなものがない。


 いや、別に今が嫌とか駄目とかそういう事ではなくて。


「あいつが慣れてきた感じが、モノ足りないというか」


 今でも十分楽しい。


 けれど男性が初デートのように緊張したり、照れたりすることがなくなった。


 あれは、可愛かったなーと思う。


 付き合ってみてわかった事。


 女性は、男性の可愛い仕草や行動が好きだ。


 子供のように笑ったり、二十歳を超えた男がとるとは思えない行動。


 それを狙ったりせず、あくまで自然にすることが魅力の一つだと思っている。


 そのため、料理を作ったり、悪戯などするなどしてそういった行動引き出しているわけだが。


「また、見せてくれないかしら」


 手を繋ぐだけで頬を染める、あの時の行動を思い出して頬が緩んだ。


「とはいえ、今更手を繋いだくらいじゃあんな表情はしないし」


 何だったら、先ほどまで腕を組んで歩いていたのだ。


 なので、急に握っても驚きこそするだろうが、それだけで終わってしまう。


「うーん、夜の営みだったら、まだ色々思いつくんだけど」


 経験豊富により様々なパターンを知っているので、それを駆使すれば男性の表情を引き出せる自信があるが、今は夜の営みで見るのではなく。


 デートで照れている男性が見たい。


 そう思って、ふと周りを見渡せば。


 ショッピングモールに展開する一軒のお店が。


 最初は何となく見ていたが、閃いた。


「よし、ここに入ろう。ねぇ、私見たいものがあるから一緒に来てくれない?」


「ああ、わかった」


 声をかければ、商品から目を離して、ゆっくりと男性は女性の下へとやってきた。


「欲しい物あった?」


「欲しい物、っていうか時間があれば又見にきたいなーくらい」


「そっか、じゃあ後で又来ましょう。さぁ行くわよ」


「……何か嫌な予感がするんだけど」


「そう?」


「だって、この前激辛食わされた時と表情が一緒……」


「はいはい」


 ふふっ、と笑う女性に男性は半眼で眺めるが、女性は気にする事なく男性の手を取ってお目当ての店まで歩いていき。


「……えっ、いやなんだけど」


 辿り付いた時に男性は顔を引き攣らせた。


「えっ、聞く気ないけど」


 女性は、男性の台詞に合わせて言葉を返す。


「だって、あれじゃん? ここあれだろ? 男性は入店拒否だろ絶対」


「大丈夫大丈夫、そんな決まりないから」


 逃げ出そうとする男性の手を強く握りしめて、ずるずると引きずるように歩いていく。

 

入店して、店員やお客として商品を見ている人間はちらりと男性を眺めるが、それ以上特に何もいう事はない。


 だが、男性はその視線に堪えたようで。


「お願いです、俺をここから立ち去る事を許して」


「大丈夫大丈夫っ」


 すがるように女性を見たが、当然無視。


 店内に入り、どれがいいかなーなんて品物を物色しはじめる。


 その傍らで、ちらりと見れば。


 うん、照れてる照れてる。


 こちらの考えていた通り、頬を赤く染めて。


 視線もあっちへきたりこっちへきたりとしている。


 まぁ当然かな。こんな店入る機会なかったもんねー。


 そういって品物を一つ。黒く花柄の刺繍が施されたブラジャーを取って男性に見せる。


 そう、ここはランジェリーショップ。


 入店拒否されることはないが、基本男性が立ち寄る事がない場所で。


 男性も当然入ったことはないだろう。


「ねえ、こんなのどうかな?」


「……いいんじゃないでしょうか」


 男性の前に広げて見せれば、ちらりと見て、顔を逸らして堪える。


 その行動に、これこれ。と頬を緩ませる。


 この表情が見たかったのだ。


「そんな一瞬じゃよくわからないでしょう? ほらよくみて」


「マジデカンベンシテクダイ」


「ふふっ」


 内心ごめんねーと思いながらも、やっぱりやめられそうにない。


 好きな人が照れている姿に、こんなに胸が高鳴るのだから。


 だからこれからもきっと困らせてしまうけれど。


 その分、ちゃーんと返していくから。


 もう少しだけ付き合って。 


 ねっ? 私の大好きな人。


 そう思って、女性は次なる下着を物色しはじめたのだった。 



ここまで読んで頂きありがとうございました。

機会があれば次回もお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  特別なことじゃなくて何気ない日常のありふれた中に、大切なものが眠っているそう感じさせてくれますね。好きな人が自分に飽きてしまうという不安は男女問わず漠然とあるかと思います。そうならないよ…
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