(伯爵)ノーマン・フォン・ダルトーム(8)
この土曜日、日曜日は、10時と19時に投稿させてもらっています。
よろしくお願いします。
現在、辺境各領の課題であった経済面ではどうであろうか。
宰相トルドの視線に対し、文官のマーサス・ムラクが答えた。
「そうですね、【ソロム】は20年をかけて補填や保証を行うこと、という文言を組み込めました。
これは事実上、経済的な負担からみると、『ソロム侯爵家が、20年間に亘り、他の各伯爵領の属領扱い』になるということです。
特に、当家は多くの【魔石】を使用するため、その使用量に応じて補償額が高額となるということは、財政的に非常に大きいと考えます。そもそも……」
財政的には優位となるというが、少しムラクが暗い表情をしている。
「そもそも、【魔獣暴走】を制圧しないと、【ソロム】やソロム侯爵家が滅亡し、【南の国】全体に大きな被害が生じます。
当家としては、領民のためにも、古来の習わしによる王命に応えるためにも、【ソロム】の滅亡という事態を防ぐ義務があります。【ソロム】と、……【王家】の尻拭いのために【迷宮】からの侵攻を命ぜられるというのも歯がゆい部分はありますが。」
そもそも論でいえば、うちは王家を守る必要があるし、ソロムを支援する必要もあるが、その経緯と理由を考えると納得できないのも事実だ。
ただ、これまで、当家の立ち位置は「頭の固い、旧来の姿を体現する伯爵家」であったが、これからは当家の姿勢こそ貴族の取るべき姿であることを示すことができる。それに反発されるにしても【王の矛】としての威圧が可能となる。
とはいえ、【ソロム】の【魔獣暴走】を喰いとめることが急務なのだが。
「御屋形様、まずはサーラの宝具を騎士団に受領させます。確認しなければ分かりませんが、機能的にみて、使いようによっては高い効果も得られると思うし、騎士団の面子は脇に置いて【協会】の力を借りることも検討させようと思います。」
「【翡翠の大鎧】については、騎士団員の使用は難しいだろう。そのため、場合によっては娘に使用させることも検討してく……」
「何を馬鹿なことを!
【翡翠の大鎧】の使用については騎士団に拘らず検討します。高位魔石の確保や体格は小柄だが優秀な探索者はいないか、アーチボルトに検討させます。
大体、これまでアイツは好き放題やってきたのですから、この有事、【ダルトーム探索者協会】の協会長としての責務を存分に果たさせてやろうと思います。
姫様の出陣など罷りなりませんぞ。当然、『御屋形様も』ですからな!」
宰相トルド・グレインの恫喝が、ダルトーム伯の館に響くのであった。
いつも、誤字報告や感想をいただき、ありがとうございます。
そろそろ終わりに近づいてきましたが、折角ですので、最後までお付き合いの程、よろしくお願いします。
作者の性格で、あまり派手なシーンのない「マイルドインフレ+何となくクライマックスな感じ」の作品ですが、ご了承いただければ幸いです。
あと、可能な範囲で、評価もいただければ嬉しいです。