(伯爵)ノーマン・フォン・ダルトーム(2)
【王都】王城。
こんな夜分に、謁見の間ではなく応接室に呼ばれたということは、内々の話ということだろう。
しかも、その応接室には3人の男しかいなかった。
俺、ノーマン・フォン・ダルトーム
【南の国】宰相、ラルク・フォン・ベルナシソス
そして、【南の国】国王、テリウス・サーラ
俺も剣は護衛に預けたが、王も護衛の騎士を部屋から外している。
「すまんがノーマン。力を貸してほしい。」
開口一番。王が頭を下げた。
この男、基本的に武力思考である俺達ダルトーム派を相当舐めている。しかし、王族としては珍しく、無駄な自尊心はあまり持っていない。莫大な利益が得られるなら、頭の一つや二つ、軽々に下げて見せるタイプだ。
それが分かっていても、思わず声が出なくなる。社交術は一歩も二歩も王の方が上だ。
家宰などからは「御屋形様、王の前では一言もしゃべらないくらいでいいのですぞ。」とは言われていたが、家宰も俺も、おそらく【迷宮】絡み~しかも【魔獣暴走】~案件であると思っている。絶対に巻き込まれるに違いないのは確かだ。
「……、陛下、力を貸すも何も、まずは何事かを教えていただかないと。」
「うむ、伯を相手に余計なことをいっても仕方なかろう。【魔獣暴走】について、である。」
「もしかして、どこぞの【小迷宮】で【魔獣暴走】の兆しがあらわれましたか。」
生まれてこの方、【魔獣暴走】などは体験したことがない。ただ、祖父や親の代には、偶発的に発生する【小迷宮】に対応できず、小規模の【魔獣暴走】が引き起り、少なくない被害が生じたことは周知の事実である。
特に子爵領あたりで、リスク管理能力が相当低い領主の場合、万一、【小迷宮】が発生した場合、それに対する知識や未来予測、そして対応能力も低いため、領において甚大な被害が生じる事は想像に難くない。
ただ、いかに【王家】や諸卿が【迷宮】に対する関心が薄れているにせよ、これだけ道路網の整備が進み未踏破地域が減少している事実は、もっと評価されていいものだと思う。