貴族街・ワーランド邸(3)
「逆にいうと、ワーランド領から今後も数十年に亘り、領家の利益をどこかに垂れ流し続ける構造になっているということです。普通なら、そんな財政構造、領家の者は誰も認めないでしょう。
ただ、『それは未来への投資であり、必ず莫大な利益として領家に戻ってくる』と確信しているなら別です。その誤解に気が付くまで、ずっと域外に収益を流出させたままになります。
まして、それを主導させる者に、『ダルトーム独自の寄親寄子の協定』があることを知らず、いざとなれば流出先に損失を肩代わりさせることができると、まちがって認識させていたら?」
こうやってムラクさんから事情を聞くと、改めて気分が悪くなりますね。
きっと自分の声もすごく冷たくなっていると思います。
「……動くなよ。マリス。」
僕は、瞬時に応接室のテーブルを乗り越え、この場から逃げようとした筆頭家人のマリスの襟を握り、ソファから引き摺り下ろして、マリスを床に押し付けました。
おそらく、父上もウェデル(もう呼び捨てでいいですよね)も、一瞬のことで、僕がどう動いたかはあまり認識できなかったでしょう。
騎士ウォードが、胸元から一通の書類を、テーブルに広げました。
「御屋形様からの査察に関する令状です。【王都】のモランツ子爵家から、当家寄子であるワーランド子爵家に対する不当介入の恐れがあると判断しました。これ以降、関係者への聞き取りと関係書類の提出を命じるとのこと。
特に、細君と筆頭家人には、念入りに話をしてもらえればと思います。」
「お。俺は……」
「ウェデル殿、ご安心を。あなたからは関係者としてお話を伺う位でしょう。交遊会での不祥事は家宰殿が見なかったことにすると申されましたし、本日、この場での振る舞いはエーデ卿に誠意を見せていただいたものと思っています。
あと……、『操り人形』にわざわざ話を聞く必要は……、社交の場での活躍を望むなら、今少し落ち着きをもたれたらどうですかな。まあ、そのような場はもうないと思いますが、ウェデル。」
先程、騎士ウォードからちょっとした殺気を放たれてチビっていたことを忘れたのか、少し嫌味を言われただけで敵愾心を露にし、再び、騎士ウォードからちょっとした殺気を放たれてチビっているという。
あまりに情けない姿ですが、一応、僕の兄なんです。
……、ええと、ワーランド家の家督って、これからどうするの?