(家宰)トルド・グレイン(4)
「ムラクよ。あれで良かったと思うが、どうか。」
「家宰殿。このまま、ワーランドから資金を流出させておくと、領の財政が立ち行かなくなったとき、【王都】や【ソロム】にいる連中が、借入金の担保として、ダルトームの農業地域に介入してきたと考えられます。ですが、低利でワーランド家に貸付する商家や貴族はいない以上、左様な条件を突き付けておけば、これ以上の介入は防げるというものです。」
「うむ。よく各領の経済状況の把握をしてくれて助かった。お主は、ワーランドの次男坊が随分役に立っていたといったが……、まあ、ウェデルとかいう嫡男にあれだけの非礼をさせた事もなかなか凄いことだが。」
「エーデ卿の奥方は、特に【ソロム】と関係の深い【王都】の法衣貴族ですから、社交の場を利用して自分の息子の、より一層の地位の向上を企んだのでしょう。そこに商家の連中と、【王都】か【ソロム】が食い込み、高利で資金を貸し付け、領の財政が焦げ付いたところで麦を安価にせしめることを狙ったのだと思います。」
もともと、姫様に対するウェデルの狼藉には腹が据えかねるところがあったが、ワーランド家との協議の前に、御屋形様と私に対し、財務官僚のムラクから提案されたのは、ウェデルの非礼を材料に、ワーランド家に対する【王都】や【ソロム】の企ての芽を摘んでしまうことであった。
「財務室は、とんでもなく多忙だったろうに、よく、そこまで調整ができたな。」
「いやあ、本当に、今年の決算作業は、マジでリード君が活躍していましたからね。確かにリード君は12歳の子どもですけれど、そんなの関係ないですね。臨時の吏員扱いなんてもったいない。ぜひ、正式に財務室に引き抜かせていただきたい。
交遊会では護衛としても頑張ったとは聞きましたし、リード君の実力もちょっとは知っていますけど、騎士団の連中にはもったいない!」
「確かに騎士といういで立ちではないが。しかし、「最強の騎士」も【迷宮】内では、おそらくリードには勝てないといわしめる力の持ち主。当家の家風を考えると【迷宮】で働けることは非常に良い印象であろうな。御屋形様もあのような気質故、文官というよりは武官として見込んでいるかもな。」
「ぐぬぬぬ……」
ムラクとしては「ぜひ次年度に向けてリードを確保したい」という意向なのは分かった。
ただ、そもそもリードの身分はワーランド家の子で、当家の正式な家人ではない。
今回の案件で、ワーランド家がリードをどのように処遇するか。まさか伯爵家の意向を無視して、リードにペナルティを科すようなことを……