(子爵)エミリ・ファン・ダルトーム(4)
「……!」
「私はまだ王立学園の学生であり、この度、成人したばかり。多少の勘違いはしょうがないものとは思っています。ですが、あなたの振る舞いはあまりにひどい!態度を弁えるべきはどちらなのですか!」
少し感情的になってしまったかも知れない。
伯爵家の嫡子として、子爵家の当主として、あまり褒められたものではないかも知れない。
しかし、ウェデル・ワーランド、嫡子とはいえ「子爵の子」が公式の場で取る態度としては、あまりに図々しく、礼を失した態度を取った者に対しては、叱責すべきなのだと思う。
つまり、この場だけで納めるべき事柄では無くなったということだ。
ウェデルの顔色は真っ青になり、リード君を掴んだ手を離しました。私に対して小さく頭を下げつつ、しかし、一言も詫びをいうことなく、後ろに下がった。
一言の詫びもない……つまり、この者は「この場だけで納めるべき事柄では無くなった」事を理解していないということだ。
「リード君、大丈夫……?」
「姫様、僕は問題ありません。」
一流の探索者であり、高位の術具の装備による身体強化を施したリード君には、【王都】にて流行りにかぶれた青年貴族に掴まれたところで、身体的な影響は一切ないであろう。
とはいえ、リード君は王立学園の第一学年で、まだまだ子どもなのだ。
実の兄が、実の弟に対して、「名前を聞き」「胸倉を掴みかかり」、それでも実の弟として認識しないのは、いかに貴族の家での出来事とはいえ、いかがなものか。
先に、「貴族の家というのは、外見はよくてもその中身は、とても外の人達に見せたものではない事が多い。」とも言ったが、ウェデルがリード君に対して抱いたのは、「肉親たる弟に対する何等かの憎悪」ではなく、「単に身分の低い小姓が自分に楯突いたことに対する憎悪」なのだ。
怒りを感じると同時に、全く感情の動きを表情にださないリード君を憐れに思ってしまう。
……
ともあれ、「この場だけで収めるるべき事柄では無くなった」以上、ワーランド子爵家に対して、当家は何等かの要求を行う口実を得たとも云える。そんな事を考える自分に、少し嫌気を感じてしまった。