「秋の交遊会」(7)
駆け引きのつもりなのでしょうか。自分のことを名前で呼んで欲しいと要望することで、ウェデルはあえて「エミリ様」と呼んでいます。上席の貴族家に対し、失礼であることには違いないのですが、これも交渉術の一つなのかも知れません。
でも、姫様の様子を見る限り、これっぽっちも好感や親近感も生み出していないようです。
「エミリ様。【王都】では時代が変わりつつあります。【迷宮】や土地から単に財を生み出すのではなく、それを活用して新しい産品を生み出し、それを他の国に流通させることこそ、人々を支える大きな富を生み出すことが、【王都】ではわかってまいりました。」
後ろで、ウェデルの後ろにいるワーランド家の寄子である男爵家の子息達も頷いている様子。
「私はそうした手管に長けた者達とつながりを持っています。そして、私はこう思っているのです。【王都】で取り入れられつつある新たな手法は、私のワーランド領のみならず、というより、ダルトーム派閥の各領全体で活用されるべきではないかと。」
「つながり」って何なのでしょうか。それは兎も角。
姫様の表情は見えないけれど、ウェデルの様子を見る限り、相当、姫様も表情を取り繕っている様子と思われます。まずは言わせておけって感じでしょうか。
「私自身は、そのためなら家督を弟に譲ってでも、僭越ながらダルトーム伯爵家の一端として力を尽くしても良いと考えています。自分の事だけではなく、みんなの為に力を使っていきたい、『たとえば、エミリ様と一緒にダルトーム領のために尽くしても良い』そんな風に考えているのです。」
え、エミリ様と一緒に……ですか?
「家督を弟君に……ですか?」
「我が弟パールはまだ幼く、来年度、王立学校に入学する齢ですが、真面目で領民の事を思う心根の優しい者に育っております。ああは言いましたが、私自身も、当然ながら自らの領地のため、様々な知恵を講じていくものと考えております。」
「ワーランド殿。それであれば、まずは自らの領地を父君と共に豊かにするところからはじめれば良いのではないでしょうか。それが、最終的には我がダルトーム領を豊かにすることに繋がります。」
「いえいえ、エミリ様。私は、伯爵家のためにも、私の力を振るいたいと思っているのです。ご遠慮いただかなくても、私が力添えをすれば「遠慮などしておりませんよ。」