「秋の交遊会」(4)
ダルトーム伯爵。
さすがに交遊会のパーティーの場で怒声をあげるような事はしないけれど、だらだらとした自画自賛の口上を全部聞く気はないらしい。もともと脳筋と云われても、原則論を重視する方である。浮ついた言葉とかは特に嫌う事は、付き合いの長い父上なら分かっているだろうに。
「エーデよ。別に若いモノに仕事をさせるな、なんていう気はない。お前も知っての通り、俺は大雑把な男なんでね。だが、【王都】の方にいる口だけの連中とオンナジ口上を聞かされても俺には響かないし、交遊会の挨拶の場でヤリトリできる程、つめていた提案でもないと思うが。」
「閣下。あ、いや。身びいきかもとは思いましたが、単に小麦を生み出すだけではなく、それを賢く売り捌くことも重要だと息子に気づかされ、その事をお伝えしたかっただけで……
息子も、私が物言いに詰まったところを見かねて発言したところで、閣下に失礼する他意などございません。非礼はお詫びいたします故、ご容赦いただければと……」
ワーランド子爵はそういって頭を下げました。
少し遅れてたどたどしいながら、兄ウェデルも、父に合わせて頭を下げます。
ただ、少し離れた私から見ても、その動きには「納得はいかないが、やむを得ないから」という態度が読み取れます。そのような雰囲気を相手方に掴ませてしまうのは、本当に失策だと思うのですが。
「……よい。エーデ、お前とは長い付き合いだ。だが、領民のためにも「身の丈にあった振る舞い」が必要だろう。そのあたり、俺が持っている懸念に対して、真摯に対応してくれれば良い。」
次の貴族も控えていることから、エーデ・フォン・ワーランド子爵は、少し頭を下げたまま一歩引き、そのまま後方の会場へと向かいました。
兄ウェデルの顔の表情も少し不満げです。本人は、貴族として公式の交遊の場の振る舞いとして、表情は消しているつもりなのでしょうが、消えていないですね。
「エミリ。会場に後輩達も来ているのだろう?この場は一旦外していいから、会場に来ている子息達に会ってきなさい。リードも、エミリについてやってくれ。万が一ということもある。「武装」しているお前なら安心だからな。」
ほんの少し苦々しい笑いをしながら、御屋形様は、姫様と僕に、席を外すよう促しました。
姫様も、やや苦笑しながら、
「それでは、父上のお言葉に甘えて、後輩達に顔を出してきますわ。リード君、一緒に行こう?父上はああいうけれど、警護っていっても変なことをする人なんていないから。」
「いや、いかなる時でも油断してはならない、と本来はいうべきなんだぞ?」
そういって、こちらに顔を向けた御屋形様は、本当に苦笑していました。
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