「秋の交遊会」(2)
通常なら、「交遊会」ではなく「各家での折衝・調整」に割り当てられるはずでした。
そもそも、今のお仕事は財務官僚であるマーサス・ムラクさんのお手伝いですし、「交遊会」のパーティーの運営は、家人である執事や侍従の皆さん、警護の騎士団が担当する訳です。
そうですね。現在の日本でいうなら、
「交遊会」は、各会社の社長たちが儀礼的に集う場であり、
「各家での折衝・調整」は、各会社の実務担当の役員同士が、実務的な折衝を行う機会である、
という感じです。
「先輩……いえ、姫様。やっぱり、僕はムラクさんのお手伝いをしたほうがいいんじゃないでしょうか。パーティーなんて出たことないし、姫様の部下が何か粗相をしたんじゃ、御屋形様にも姫様にもご迷惑をかけますし。」
「大丈夫よ。今日のパーティーは挨拶だけだし、リー君の本当の仕事は私の警護だから。しかも、ダルトーム領内でのパーティーだから、基本的に身内の人たちばかり。立っておくだけでいいのよ。」
エミリ姫様からは、「学園では先輩」「それ以外は姫様」と呼んでくれといつも言われています。
「リー君はこれまで、領内でのパーティーに参加していないから、パーティーの雰囲気や、実際にどんな人たちがいるかを肌で感じる機会がなかったでしょう。でも、私のそばからなら、しっかり雰囲気は掴めるし、各家の人たちの顔をみることができるわ。」
「(えええ、貴族の顔なんて、いちいち覚えられないよ。)」
「ふふふ、私だって、皆さんの顔を逐一覚えているわけではないわ。皆さん、自己紹介をされるし、伝えたいことの要点は向こうから切り出してくれるから、状況だけ整理できていれば、あとは「慣れ」だけ。リー君の場合、この休暇内でいろんな家の事情は把握できたみたいだから、雰囲気を経験してくれたら、それで大丈夫なの。」
「(えええ、僕は探索者として生活するんだから、別に他の貴族の雰囲気なんて……)」
「父上も私も、リー君にはすごく感謝しているの。だから、ほんの少し恩返しさせてくれたらなって気持ちもあるの。それに、リー君が警護してくれたら、万一のことがあったときも、私も安心だし。だから、そばにいてくれるだけで、私もうれしいわ。」
そういって、エミリ姫様はにっこり笑うのでした。
こうして、「秋の交遊会」が開幕されることになります。
ところで、絶対、姫様、読心術かなにかのスキルを持ってるよね……