交遊会の前日(2)
今回、【領家】の家人として、主にダルトーム伯爵下の各子爵家の領地支援を検討するムラクさん達の元で臨時吏員として仕事をした訳で、その中でワーランド領の財務会計とかも、帳簿確認のため、僕も一通り見る事になったのですが……
まあ、そのことは忘れましょう。
「蛙の轢逃亭」に行ったら、僕をイジルために、先輩方がその話題から振ってくるかも知れませんが、まあ、とにかく、ある意味、僕はワーランド家から放り出されたようなもんですから、そのことは忘れましょう。
すでに食い扶持が見つかっているわけですから、気は楽なもんです。
さて、店の周りが騒がしいです。
なんか厳つい探索者パーティが、騒ぎを起こしている様子。女の子にでもちょっかいを出しているのか。
見た感じや、雰囲気からして、そんなに高位の探索者ではない感じですね。
これが、ウォードさんや姫様みたいに上級の魔術を扱う者になると、魔法属性やそのレベルを鑑定できるんですが、僕はざっくりしか分かりません。基本、深層の魔石と、それを装着できる術具による、ある意味、力技が僕の特技ですからね。
その脳筋的思考が、ダルトーム家の家風に合っているのかもしれない。
あれ、探索者パーティを対峙しているのは、うちの職場の皆さんではないですか。
何か女の子達を、あれ、まあいいか、女の子達を庇っている様子。
ピート先輩と、ウェリス先輩が、特に身を張っている感じ。ホワイトカラーなのに男気を見せているじゃないですか。
……と、探索者の一人がウェリス先輩を胸倉で掴み、殴りかかろうとしているじゃないですか。
街の真ん中での小競り合いで、命のやり取りとか、大怪我をする可能性とかが有る訳ではないです。
しかし、流石に、ガラの悪い探索者が、ダルトーム家の官僚に、少しでもケガを負わせたら大事ですし、何より、交遊会を明日に迎えている段階で、しかも今から少しハメを外そうと思っているのに、面倒なことになるのは嫌ですね。
正当防衛ということで。
一気に、探索者の前に飛び込んで、手加減した腹パンを一発。
残りの3人とも目があって、「なんで子どもが腹パンなんかしてんだよ」的な表情を浮かべて、こちらににじり寄ってきたので、続けざまに3人にも腹パンを一発ずつ。
探索者パーティー4人が4人とも、うずくまってしまった。あれ、ちょっと加減の具合が悪かったかな。
ケガさせたとなると面倒くさいことになるし、この場を離れてしまえば、ただの小競り合いということで、こいつらも追ってきたりしないだろう。
なので、僕は振り返って、ムラクさん達に向かって、にっこり笑いました。
「お腹すいたんで、はやくお店に行きましょう!」