(財務官僚)マーサス・ムラク(3)
この1か月。領都の城内の一室に、なぜか臨時吏員の机が設けられた。
そして、その机の上に、なぜか書類が山積されている。
書類を机の上に置いた各スタッフは、クマとなっている目の周辺を少し押えながら、
「これで少し休める…」
といって、一時帰宅していく。
昼を過ぎると、午前中、私用を済ませた(私用が何かは聞かなかったが、自分で「コツコツと【大迷宮】で経験値を稼いでいまーす」とのこと。)リード君がやってきて、山のように書類が積まれている机の上を眺めた。
「これじゃ、作業自体ができないんじゃ…。まるでフリーアドレスだよなあ。」
溜息をつきながら、一時、空いている隣の席(だって、そいつ、リード君に確認を任せて一旦帰宅したんだから、当然いない。)に陣取り、最後によくわからない言葉を呟きつつ、作業に移っていた。
例年と異なるのは、何ていうのだろう、将来的に嵐を呼び起こすかもしれない~それは簡易なものであっても、課題的なものであっても~誤りや齟齬を、ダルトーム領で財務統括するこのセクション(部屋)で、未然に気づけていることだろう。
今なら、領都【ダルトーム】に各領で行政実務をしている者たちが集まっており、その誤りや齟齬を確認できる状況にあるため、他の部屋(部署)を通じて、また、各子爵・男爵領の吏員達に問い合わせることで修正ができているということだ。
そして、中には、薄々には分かっていたけれど、「本当にどうしようもない」運営が行われており、今、対応しないとまずいケースも散見されることだ。
「リード君、ワーランド家のことなんだけど。本当にリード君は分からないのかい?
財務状況を確認する限り、そこそこ穀物の出荷はしているけれど、それを増産したり販路を開拓したりする感じは全くないし、その一方で、近年、何の見返りがあるのか、【王都】や他の派閥にお金をばらまいていて、財務体質は悪化している一方。これを御屋形様に報告したら、結構、お叱りを受けることになるんだけど。」
リード君がペンを休めたタイミングを見計らって、声をかけてみた。
「ムラクさん。僕は本当に、全く、全然、これっぽっちも領運営に関わっていないので。家族よりは自分の世話をしてくれた家人のことが心配な感じです。でも、まあ、自分の分については、【迷宮】でもここでも、そこそこ稼がせてもらっているので、生活に困ることはないかなあ。」
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