ダルトーム探索者協会(1)
僕の強みは、次のような段階で相手を追い込めることでしょう。
僕は相手に気づいている。
相手は僕に気づいていない。
相手の周りには塵がたちこむ。敵は警戒して周囲を見回す(多分)。
爆発が起き、そこで終了。
でも、現在は、「相手が僕に気づいてて、僕が相手に気づいていない」状況です。
やばいですね。
こんな時はどうするか、決まっています、撤退です。
◇◇◇
「あのなあ、俺もいろいろ忙しいんだよ。現役の奴に聞けばいいじゃないか。」
「いや、先生。先生が忙しいのは溜まった仕事を見ない振りをして、ぼーとしているから、追い詰められているんだと思います。ちなみに、今もぼーとしていたのだから問題ありません。」
ダルトーム探索者協会の協会長室内。
協会長室にお茶を持ってきた受付のお姉さんが、僕の発言を聞いて、「くすっ」と笑って、協会長の部屋を出ていきました。中年のおじさんであるアーチボルト先生は、受付嬢の「くすっ」という声に、「え、お前気づいていたのか」って感じでショックを受けているようです。
いや、仕事をやっている振りをして、その実、仕事が全く進んでいないことは、みんな気づいてますよ、先生。だって、仕事、進んでないんだから。
「【大迷宮】の50階層から下は、高位探索者の『飯のタネ』だからな。あんまり情報は広がらないし、広がったとしてもガセネタか区別がつかない。そして【協会】は高位探索者の情報を守りつつ、実際に50階層から下に潜るパーティーがいたら、適切に選別して情報を提供することになる。そこは【悠々自適】で潜ったんだから、分かるだろ?」
まあ、ダルトームの探索者協会の協会長である【オールラウンダー】アーチボルトからみれば、そもそも【ダルトームの迷宮】の最下層が50階層である以上、上位探索者は【王都】に集まることになるわけで。
そのパーティーに適切な情報を与えるのは【王都】の探索者協会の仕事であり、ダルトームの探索者協会の仕事ではないと云いたいみたいです。
「まさか、お前。自分とこの【小迷宮】の転移魔法陣から、先に進もうと思っているのか?やめとけ、やめとけ、魔法陣を使ってそこそこ「遊ぶ」のはいいが、何がいるか分からんところには、今は踏み出さない方が良い。いろいろ、役に立つものを「拾った」んだろう?それでいいじゃねえか。」