ダルトーム騎士団(4)
「……ベント卿、サリウムでのお立場ですが、そちらは大丈夫なのでしょうか。」
「ほら、お嬢。ソロムにはソロムの、サリウムにはサリウムの事情があることだから、卿がこうしてしっかり私達の活動をフォローしてくれているって事は何にも問題がないってことだよ。」
高笑い(?)するベント卿に、やや心配げに質問するジェシカ嬢と、その質問をはぐらかすエーベル嬢。ここでは、はぐらかすのが貴族的な振る舞いなのか、おそらく精神年齢が格段に高い俺もよく分からない感じなのです。まあ、ベント卿の心配なんて不要だとは心底思っていますけどね。
「ははは。いえ、ジェシカ殿。確かにサリウムは大きく2つの派閥に分かれていますが、各貴族家の中でも家人の中で様々な立場を持つ者は多く、それはサリウムに限った話ではないのです。それこそ、私の派閥を支持する子爵家の中でも、その中の家人は、事実上、2つのそれぞれの派閥に属している事なども稀ではないのです。
その上で、今回の場合、【南の国】を支える人材が大きく不足している中で、私とその周りの者達が国の役割を果たすことで、王家やダルトームに恩を売ることができます。サリウムも、我々を追い出す以上、自分達でサリウムを治める体制の算段ができていたということでしょう。」
ベント卿は、そこで一旦話を区切って、ちらりとこちらに視線を向けました。
「と、そこまでは事実であり、そして建前の話ですね。
実際のところ、兄の派閥だけで、サリウムを治められるのかといえば、それはそれでサリウムの人材が足りない、不足する状態になるのです。そのため、サリウムを治めるために、私の派閥の人材にも手を出している状態なのです。
その一方で、逆に兄の派閥に属しているにも関わらず、より中央へ進出したいと考えている者もいます。
奇しくも、二つに分裂していたサリウムの貴族達が、それぞれの派閥に、肩入れしはじめています。ただでさえ、一枚板ではなかった両派閥の、やはり一枚板とはいえない各貴族家において、様々な引き抜きがはじまりました。
ただ、それは限られた席を奪い争うより、埋まらない席をどう埋めていくかという争いに変質している状態であり、サリウムのことを思えば、前者より後者の状態の方が望ましいのは事実です。」
ようは、どちらに転んでも大丈夫なように、貴族達は最低限の保険をかけていると云う事なのだろうね。まあ、そうでないと権謀入り混じる勢力争いなんて怖くてできないよね。