宴の後で
「はあ、結構、疲れましたな……」
顔色一つ変えず、ぼやいたような台詞を仰るベント卿。自分の家族……サリウム家の面々と、ああもフランクに話をするとは思いもせず、そして、それらの台詞の全てに様々な伏線や虚実や交渉事が含まれていると思うと……
「いや、リード卿。本日の兄との会話には、そんなに交渉となるポイントは含まれていません。宰相の座を私に、などと云う世迷い事は脇に置いておくとして……」
え、そこは脇に置いておくのですか!!
「脇に置いておくとして、【南の国】全体を、【ソロムの魔獣暴走】後の新しい貴族社会の立て付けで動かしていくためには、非常に多くの人材が必要になるということです。【サリウム】は【ソロム】衰退の直接的な被害は受けていなくても【中央派】の要衝です。
これから厳しい眼で貴族社会から見られるなかで、領主としてサリウムの威厳を守り抜くことと、【中央派】として【南の国】に強い影響力を残していく必要があるわけです。
となれば、たとえば兄の派閥と私の派閥の中で、どのように役割分担していくか……」
「まあ、ベント卿の姿勢として、サリウムの衰弱を留めようとする仕事よりも、【南の国】の新しい秩序を作っていく仕事の方が楽しいって感じですね。」
「相変わらず、リード卿は歯に衣着せず思ったことをそのまま発言されますね。」
えええええええ?俺、ちゃんと自分の言葉を吟味して発言したよ!?
「本来、この場合、その思ったことを態々(わざわざ)発言されなくても結構。
とまあ、それはさておき、サリウムは兄と私とで勢力を二分していた訳です。昨日までお互い、相手の酒に毒を仕込んでいたところを、今日からは肩を組んで歩んでいこうといっているわけです。まさに貴族的ではないですかな。」
といって、皮肉めいた笑みを浮かべています。その表情こそがベント卿の率直な感想なのでしょうね。貴族っぽく被虐的かつ自虐的というか何というか……。
今回、いやいやながら貴族達の社交の場……【王立学園】での新学期の社交場……に数か所も参加させられ……
うん、そもそもベント卿の先導がないと全く回れもしないのですが……
いやいや、ベント卿はああ云ってますし、本当にその通りなのですけれど、ベント卿が俺を案内してくれた……というよりは、俺がベント卿の随行として、ベント卿のお伴をしていたのが実際の姿だと自分でも思っています。
当然ながら、随行者としての役割は、一切、果たせていません。もしかして俺ってただのごく潰し???
「兎にも角にも、リード卿には社交の場での経験を、もっともっと積んでいただかなければ。あなたなら、そう苦もなく熟すことができるのですから。」
とにっこり微笑むベント卿。……分かりますよ、それ。結構、本気で云ってますよね。