新学期パーティー【サリウム】(5)
この部屋には、ラルトネス卿とその護衛2名、そしてベルト卿と自分しかいません。
兄弟間とはいえ、非常に大きな取り決めをしたようにも思えるのですが、書面で残すとか、立会人に言質を取るとか、そうした催しはありませんでした。
というか、ではなぜ、俺は一体何のためにここに!
「各領の出身者による新入生の歓迎パーティーですから、本来でしたら、リード卿は【ダルトーム】の会場にも顔を出さないといけませんね。というか、自分の領の後輩達の顔を覚えないといけないのではないですか。まあ、冗談ですけれど。」
本当に、ベルト卿はラルトネス卿との間での一筆も取り交わさず、【サリウム】の会場を後にしました。
「一応ながら、パーティーへの参加は任意になっています。ただ、伯爵級の賓客が登場している会場には、本来、現貴族である卿には顔を出してもらう必要があるので、今回、私が案内させてもらいました。【サリウム】案件ばかりで申し訳なかったのですが……
ちなみに、参考までにですが、こうした宴席の場では、たとえ別室を設けたとしても、そこで行うのは情報の共有、せめて認識の共有までです。最終の折衝はやはり別途個別にあたることになります。」
「利権の面で折衝がついたから……?」
「ははは、ラルトネス卿はああ云いましたが、やはり貴族社会に身を置く者として、名誉であるとか地位をめざすのは当然なのです。ラルトネス卿は嫡子ですが、私も【魔眼】を持つ身。一族の中で争うのは寧ろ当たり前の状態であろうと思います。」