入学式(2)
壁の花。
僕は花というような美貌を持つ少年ではありませんが、今が所謂その状態です。
学園内の複数の広間の一つで、立食パーティーが広げられています。
ダルトーム伯爵とエミリ姫様は、パーティーの最初に挨拶した後、席を外しています。
「エミリ姫様は、本当に凛々しく美しくなられて……。私は満足です。」
やはり花というよりは萎びた老木というか……
自分の家族に代わってワーランド家の代表として出席したのは、別邸家人筆頭のクラークおじいさんでした。
制服姿の姫様をみて感涙している様子を見ると、もともと伯爵家の縁からワーランド家の執事として勤めることになったのでしょう。
「ねえ、クラーク。食べるものは食べたし、こっそり抜けようと思うんだけど。」
1月前から寮で生活していて友人もできたけど、この広間にいる子ども達は寮から通っていません。
せめて、子ども達だけの集いがあれば顔だけでものぞかせようと思いましたが、みんな、親と一緒に行動しています。
まあ、入学生が親睦を深めるための交流会というのは本当に単なる建前で、実際はダルトーム領内での政治的な交流の場なのでしょう。
所用により家族が出席できず家人が家族の代理できている子も散見されたけど、パーティーが開始して早々、この会場から離れていきました。
「坊ちゃん、申し訳ないのですが、今しばらく辛抱いただければと。」
そんなことをいっているクラーク自身、結構居心地が悪そうに立ち続けている状況。時間が経つにつれ表情が強張っている感じだし。
「まあ、僕よりクラークの方がしんどそうだけど……。何か、この会場にずっといないといけない理由があるの?たとえば考課に影響するとか。」
「坊ちゃん、私はワーランド家の執事として最後の仕事を務めようと思っているのです。いい年ですし、あとはのんびり余生を過ごそうと思っているのです。」
「最後?」
「私は、伯爵家からの縁でワーランド家に勤めることとなりました。」
少し遠い目をするクラークおじいさん。
「ワーランド家とダルトーム家をつなぐものとして、何人か家人が紹介されていましてな。まあ、私は老いた者として坊ちゃんのお世話をしていたところなのですが。でも、一生懸命頑張っておられる坊ちゃんの評価を正しく伯爵家にお伝えせねばと!」
「ちょっとまて、クラーク。一体何をやったんだ……」
熱気を感じさせる表情のクラークに、ちょっと危機感を感じている僕。
そんな僕たち2人に、おそらく伯爵家の家人であろう人が近づいてきて、
「お二人とも大変お待たせいたしました。御屋形様がおよびです。」
いや、聞いてないよ。まぢで。