入学式(1)
南歴310年【四ノ月】
王立学園は【王都】の中心、【南の大迷宮】に近接した敷地にあります。
人口の集積する都心部に広大な学園の緑地が広がり、その一部は住民の皆さんにも開放されています。また、大迷宮にも近いことから、【協会】本部があり、大迷宮から産出する魔石や探索者の武具関係を取り扱う商店が立ちならぶ繁華街も隣接しています。
王立学園の寮は、基本的には王都に住んでいなかった男爵家か騎士の子女が使用します。
子爵家(領地持ち)の子息が使用するのはあまり想定されていないようです。
入学式1か月前に僕も入寮したときは周りの子たちからは少し距離をおかれていますが、まあ、みんな子どもなんで、じきに仲良くなれました。
部屋も二人部屋のところを一人で使ってよいと……
まあ、寮自体が満室ではないため、必然的に子爵家の者が優先的に一人で使用することになるのですが。
まあ、日本に居た頃は高校生の時分から20歳台半ばまで、学校と工場の寮に住んでいたので、集団生活は得意です。今世においても、邸宅(別邸)の中はある意味、寮みたいなものだったかも知れませんね。
「じゃあ、リード。また、あとな。」
入学式の一通りのセレモニーが終わり、両隣の部屋のジャンとモーリーはそういって、家族のもとに向かいました。
2人とも男爵家の子息です。
経済的に落ち目で家族から疎まれている僕よりはやや羽振りがいい感じですが、男爵家や騎士爵家では王都に居宅を構える余裕は普通ありません。
嫡子の場合、一時的に邸宅を借りるという感じでしょうか。
ジャンもモーリーも嫡子ではありませんが、貴族間の交流の機会ということから、入学式前後は、親が王都に来るのは、ある意味、常識みたいな感じです。
王立学園は1学年280人7クラス。4学年で約1,000人の学生が集う学び舎です。
入学式には280人の新入生と、教職員、在学生の代表、そして新入生の保護者が講堂に会していました。
そして、当家については家族は誰も参加せず自分のみです。
父も、家族の反対を押し切って、妾腹の子を王立学園に入学させたということで、僕への義理は果たしているという認識でしょうか。
どうでもいいのですが、在校生として挨拶したのは、今年度の最高学年で生徒会長であるエミリ姫様でした。
制服を着た凛々しく美しい先輩って素晴らしいの一言に尽きます。
周囲の新入生も男女問わず姫様の姿に見惚れていた感じです。
ふふふ、僕はここ半年、結構、姫様と一緒にいたんだよという優越感を抱きながら、学校の中では姫様に遭遇しないよう気を引き締めるのでした。
だって、絶対、面倒くさいことになりそうだし。
さて、「貴族間の交流の機会」というのは、入学式後、立食形式で同じ地方の貴族が集うパーティーのことです。