【南の大迷宮】(3)
【南の大迷宮】は広大な面積があり、あまり探索者同士で競合することはありません。
また、最短ルート自体は結構人の行き来があるので、迷宮内の犯罪も発生しづらいです。
ルートから外れたところの魔獣を感知して、その魔獣を狩るというのが、レベリングの基本となります。
レベリングというのは、魔術や魔石装備の使用熟度を上昇させること。
こればかりは稽古の積み重ねよりも、実際に、魔獣と相対するほうが、しっかり熟度をあげていくことができます。
「40メートル先の三叉路の右、赤牛鬼が4~5匹います。」
「間違いなく、人じゃないかい?」
「確実に魔獣です。もう少しで視認できます。」
「姫様。魔術を?」
「リー君、了解。範囲魔術を使ってみるね。」
姫様は火属性の中級の魔術を使いこなそうとしています。うまく使えれば、魔獣の群れも盗賊の群れも一掃して蒸し焼きにできます。
僕の場合、様々なしかけを使わないと爆破による範囲攻撃ができないのですが、これが魔術の才能の差でしょう。
姫様は攻撃型の火風属性の使い手で、剣捌きもしっかりしています。
騎士ウォードは火地属性の使い手で、剛力を用いた盾役を熟します。
そして僕は…僕は4属性全部使えるようになりましたが、全て初級のものまで。まあ、魔術が使えるだけでも上等ですから、別に羨ましくも何ともありません。本当だよ!?
ただ、器用貧乏と呼ばれても(別名【オールラウンダーの弟子】)、工夫次第でいろいろ出来そうですし、自分の強みは何より魔石装備の使用熟練度の高さですから。
『烈火の炎よ 彼方の敵を 殲滅せよ』
姫様の呪文詠唱にあわせて、騎士ウォードが前にでます。その騎士を迂回する軌跡で、姫様の手から炎弾が撃ちだされ、ちょうど三叉路から現われた赤牛鬼の群れを炎で包んでいました。
範囲系の火魔術の恐ろしいところは、空気の吸引により敵の肺を潰してしまうこと。特に不意を突いた場合は、その時点で敵を行動不能にしてしまえるところである。
牛鬼は「人の巨漢」と同様の体格、その膂力は人以上の魔獣です。また、獣種と比べると鬼種は魔術耐性はそう低くありません。しかし、今回はしっかりと魔術が「効いて」います。
騎士ウォードがとどめをさしたので、心臓近くの魔石を穿りだします。通路の脇に魔獣の遺体を寄せておけば、じきにその身体は迷宮に溶け込んでいくでしょう。
しかし、本当、高位の魔術使いを敵に回したくないよね……、いや、回しませんよ、当然!)
「姫様、先ほどの攻撃は、しっかり火炎を制御できていましたね。」
「大分、感覚が馴染んできたわ。距離感とか、発動時間とかもうまくコントロールできた感じ。」
姫様と騎士ウォードが、先ほどの攻撃の状況について、意見交換をしていました。